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2024-12-24

【サッカー】"ポケット"をどう小学生に伝える?中野島FCが考えるポケットのとり方と、ジュニア年代を指導する上でのポイント

中野島FCの集合写真。楽しそうな明るい表情がうかがえる(Photo:鈴木智之)

|小学生に伝えるポケットの攻略

どこから攻めるか、その選択肢を与える方法として、ポケットという言葉を使うと、引き出しがより増える

認知や判断の力を養うことに注力した指導を行なうなど、注目を浴びるようになった神奈川県の街クラブが、中野島FCだ。ポケットの攻略については、どんな指導がされているのか?川崎フロンターレのアカデミー出身で、このクラブのメインコーチを務める岡本一輝に聞いた。

取材・構成/鈴木智之

(引用:『サッカークリニック 2025年1月号』【特集】今こそ知りたい!「ポケット」の攻略法 PART4:ジュニア年代からポケットを攻略していくための指導 岡本一輝(中野島FCコーチ)より)

|感覚として、縦のラインを通過する意識が大事

―ポケットを定義づけしてください。

岡本 僕の中では、ゴール前のハーフスペースというイメージです。ペナルティーエリアの周辺、特にゴールエリアの脇やペナルティーエリアの縦のラインに沿ったあたり(図1)をポケットと捉えています。選手には、「中央からの攻撃が難しい場合は、ポケットを目指そう」といったニュアンスで伝えることがあります。



―攻撃時にポケットを狙うメリットについては、どのように考えますか?

岡本 1番のメリットは、攻撃しやすくなることです。通常、相手はゴールの正面を中心に守ります。ですから、引いて守ってくる相手に対して、中央突破からゴールをこじ開けるのは難しいでしょう。そういう場合は、狙いの1つとして、サイドからポケットへの進入を図ります。

僕は、「ペナルティーエリアの横と縦」(図2)という言い方をしているのですが、ペナルティーエリアの横を守るチームはあっても、最初から縦を守るチームはありません。ですから、ペナルティーエリアの横と縦のラインを通過するような感覚で攻めれば、自然とゴールチャンスが増えます。



―ポケットを横と縦で表現するのは面白いと感じます。

岡本 感覚として、縦のラインを通過する意識が大事で、それがポケットを攻略することになります。ペナルティーエリアの縦と横のラインを通過できれば、縦、横、斜めから入ることになるので、3方向から攻められます。

―その考え方は、どこで得たのでしょうか?

岡本 僕が川崎フロンターレU-18にいたときに、コーチの方から教わったと記憶しています。引いて守る相手に対して、無理に中央突破しようとした際に、「普段やっている、ライン通過のゲームを思い出してみよう」という話をされたんです。

「ペナルティーエリアには縦と横のラインがあるよね。どっちから攻めるほうが、ゴールにつながりやすい?」とハーフタイムに言われたのですが、それを意識したことによって、後半の展開が変わりました。ポケットを使った進入からワンタッチシュートを打つなど、攻撃のバリエーションが、格段に増えました。意識1つで、こんなにも変わるものなんだと実感しました。

―当時は、どこのポジションでプレーしていたのですか?

岡本 僕は左利きですが、右サイドハーフでプレーしていました。ハーフタイムにアドバイスを受けるまでは、カットインで中に切れ込んで、ミドルシュートを打つことが多かったんです。でも、それだけではなく、ペナルティーエリアの縦横のラインを通過することに意識を向けました。相手が僕のマークに来ることによって、ほかの味方が空いたり、スペースができたりしました。

後半に入って、チームの攻撃の展開が変わったんです。僕自身のプレーとしては、良い形でフィニッシュに持ち込めるようになりました。

―ボールを持っていない選手は、ポケットをどのように意識すれば良いでしょうか?

岡本 ボールを持っていない選手がポケットに入っていくと、相手のマークを引きつけて、ゴール前にスペースをつくることができます。そうなると、ボールを持っている選手が、そこにドリブルで進入したり、パスを受けてクロスボールを入れたりと、いろいろな展開(図3)ができます。

ただ単にボールをポケットに届けるだけでなく、ポケットを使うフリをした上で、違う方向からゴールに向かうこともできます。ポケットへのランニングやそれを意識したボールの持ち方が、大切になります。



|最も大事なのは、正しいポジションをとること

―ポケットをとるために、欠かせない要素はありますか?

岡本 最も大事なのは、正しいポジションをとることです。ポケットをとろうとして、みんながペナルティーエリアに集まれば、相手も、そこに集結します。ですから、ピッチを広く使う選手が必要です。

また、チーム全体でポケットを目指す意識が大切です。自分が外に開くことで、スペースをつくって、ほかの選手にポケットをとらせようといった具合に、各選手が、幅、深さ、ギャップなどを意識して動くことが、大事になります。これは、ポケットをとるためだけではなく、最終的にゴールに向かうために必要な要素です。

―ポケットをとるためのポイントは、ほかにもありますか?

岡本 ボールの持ち方も重要です。ポケットへのパスを相手に察知されないように、あえてシュートを狙うようなボールの持ち方をするといったことです。ミドルシュートを打つと相手に思わせて、自分に注目を集めてから、ポケットに入るパスを出すといったボールの持ち方が、ポイントになると思います。

それと、出し手と受け手のタイミングを合わせなければいけません。受け手が何となく立っていたら、相手にポケットを埋められます。受け手が入っていくタイミングが大事。そして、出し手は、受け手が走り出すタイミングを感じなければいけません。ワンタッチなのかツータッチなのかという判断を含めて、練習で合わせていく必要があります。

―ポイントが、たくさんあるようです。

岡本 パスの方向、強さ、タイミングもポイントですし、オフ・ザ・ボールの動き、特に背後へのランニングも大切です。ポケットに入っていくランニングには、種類があります。ただ単に直線的に走るのではなく、ゴールの方向に体重を乗せたまま進入するのがベストです。

ポケットに100パーセントのスピードで入るためには、相手がいないスペースをつくりたいところです。下がりながらタイミング良く入っていったり、インナーラップ、オーバーラップ、ダイアゴナルで斜めに入っていったりする動き(図4)があります。



特にジュニア年代の選手は、動きのバリエーションが少ないので、ゴール前にまっすぐ入るだけの単調な動きになりがちです。指導者としては、相手を引きつけた上で、100パーセントのスピードで走るための動きの種類を基準として示す必要があります。

―パスの出し手が心がけたいことは何でしょうか?

岡本 1つは、対角の意識です。強い相手だと、守備がボールサイドに寄ってくるので、逆サイドの選手のアクションが、大切になります。対角にボールを出せる技術も必要で、そのためには、キックの技術が求められます。蹴ることができないと、そもそも、対角を見る意識が生まれにくいでしょう。ですから、キックにも取り組む必要があります。

3人目の動きも、外せない要素です。ボランチからトップの選手にボールが入った場合、サイドの選手は、いつどのように動き出すかを考えなければいけません。

|ポケットに行けたらOKではない

―ポケットのとり方には、どんなパターンがありますか?

岡本 大きく分けると、3つのパターンがあります。シンプルに同サイドからとるパターン、先ほど話した逆サイドから進入するパターン、そして、中央からのパターンです。中央でボールを持ったら、両サイドのポケットに行きやすいので、両サイドの選手は、ポケットへの進入を意識したポジションどりが、大事になります。

単純にクロスを上げることよりも、ポケットに進入することに意識を持ったほうが、相手にとって脅威になります。ただし、ポケットに入るタイミングを間違えると、スペースを埋めてしまうことになります。そうなると、プレーできるエリアが狭くなるので、状況によっては、ポケットではなく、その外でパスを受けたほうが良いケースがあります。

まずは、相手の背後を意識しなければいけません。相手にとって脅威になる同ラインに立った上で、ファーストタッチで相手と入れ替わって、ポケットに入るといった動き(図5)を積極的に狙ってほしいです。



―ポケットをとることに関して、指導する上でのポイントは何でしょうか?

岡本 どこから攻めるか、その選択肢を与える方法として、ポケットという言葉を使うと、引き出しがより増えると思います。

指導者として、間違ってはいけないのは、得点するのが目的であることです。ポケットに行けたらOKではありません。

また、ポケットではなく、中央から行けたのではないかという視点を持っておかないと、子供たちが、目的を見失います。中央は狭いので、サイドから攻めるしかないと、指導者の目には映ったとしても、選手目線で見ると、それほど狭くないというケースが、よくあります。

僕は、練習中にピッチの中に入って、選手と一緒にプレーするようにしています。選手と同じピッチに立つと、狭そうに見えても行けるな、ギャップができるなといったことが、よくわかります。

ゴールへの最短距離が空いているのに、サイドに展開するのは違うと思うので、その点は、強く意識させています。

―逃げとして、サイドに展開するのも良くありません。

岡本 そうなんです。相手の立ち位置を見ながら、狭いと感じて、サイドに逃げると、相手にとって、こわくない選手になってしまいます。ですから、「まずは、中央から行けないか」という話をして、実際に仕掛けさせてみます。これは、重要なポイントだと思います。

―ゴールへの最短距離を目指す過程において、ポケットを活用するわけですね。

岡本 まずは、ゴールに速く行くことを優先するべきです。その中で、ポケットという引き出しがあれば、ポケットを使ったサイドからの攻撃を見せることによって、中央の最短ルートに行きやすくなります。

ポケットは攻撃の選択肢を増やすための魔法の言葉ですが、選手への意識のさせ方や指導者の見方が間違っていると、ポケットが目的になってしまいます。ゴールにまっすぐに行けるのに、わざわざサイドから回るということになりかねません。


-NAVIGATOR- 岡本一輝[中野島FCコーチ](Photo:鈴木智之)

PROFILE
岡本一輝(おかもと・かずてる)
1996年1月28日生まれ、神奈川県出身。中野島FCから、川崎フロンターレのアカデミーを経て、桐蔭横浜大学に進んだ。大学卒業後、アンコールタイガーFC(カンボジア1部リーグ)でプレー。2019年から、中野島FCでコーチを務める。22年のプレミアリーグU-11チャンピオンシップでクラブ初となる全国大会優勝に導いた。日本サッカー協会公認A級コーチU-12と同U-15のライセンスを持つ

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