今春のシーガルズフットボールを表現すると「有無を言わさない、圧倒的な強さ」ということに尽きる。
ディフェンス、オフェンスを通じて印象に残るのが、選手のフィジカルの強さ、コンディションの良さだ。古庄直樹ヘッドコーチ(HC)就任2年目の今季、鍛えぬいたフィジカルで相手を圧倒するというフィロソフィーが完全に定着したように見える。そしてその哲学を最も体現し、チームを支え続けているのが、チーム最年長の安東純貴主将だ。
パールボウルトーナメントでは初戦の明治安田ペンタオーシャンパイレーツ戦を65-0、アサヒビールシルバースター戦は50-7、そして昨春は逆転で苦汁を飲まされた6月4日の準決勝、LIXILディアーズ戦は35-7で決勝まで勝ち進んだ。いずれの試合でも点差以上に相手を圧倒する強さを見せた。しかし、今のオービックを最も象徴していると感じたプレーは、TDでもQBサックでもない。
アサヒビール戦の最後のプレー、3番手QBとして登場した升川岳史がTDを狙って投じたパスをアサヒビールのDB石川隼人がインターセプトした。リターンする石川の前には誰もいなかった。リターンTDかと思われたが、次の瞬間追走する背番号88番がファインダーの中に入って来た。主将の安東だった。安東は50ヤードを超えたあたりで、石川をタックルしてダウンさせた。そこで試合は終わった。
43点をリードした局面、石川にTDを決められても試合結果には何の影響もない。だが安東は全力疾走で追いかけ、タックルした。大量リードでも最後まで気を抜くな、どんなプレーにも全力を尽くせ、という、キャプテンとして体を張った無言の檄がチームに飛んだ場面だった。
安東は2月に40歳になった。新潟大でアメフットを始めた無名のたたき上げ選手は、オービックの前身リクルートシーガルズに加入すると、秘めた能力を開花させた。192センチの体躯を生かしTEとしてNFLEにも参加した、2002年はラインファイヤーで、2004年にはアムステルダムアドミラルズでプレーした。しかし負傷に苦しみ、2年間競技を離れた時期もあった。昨年2歳下の古庄がHCに就任した時、主将を引き受けた。
2月の今季最初の練習、先頭に立ってハードトレーニングに取り組む姿が見られた。練習の最後に待ち受けていたインターバル走でも安東はトップを切って走った。
今、オービックのTEは森章光、高木翔野がメーンを張る。安東のプレー機会は少ない。しかし、安東の主将としての存在感は、Xリーグでも並ぶものがない。チームの誰もが安東のキャプテンシーに服従し、一丸となっている。
▽ ▽
今春のオービック、ディフェンスはパワー、スピード、そして何よりもミーンさに拍車がかかった。特にDLの破壊力は圧倒的だ。おなじみの両エンド、ケビン・ジャクソン、バイロン・ビーティー・ジュニアはもとより、清家拓也、仲里広章、江頭玲王といった面々が、相手OLをものともせず、QBをサックし、ボールキャリアーをタックルする。
特に目を引くのが仲里と清家の働きだ。2年目の仲里は、持ち前のパワーがそのままにスピードアップ、中央のランストップだけでなく、パスラッシュでも相手に脅威を与えている。清家は135キロの巨体とは思えないスピードで割って入りRBをタックルする。この2人は日本人最強のインサイドDLと言って間違いないだろう。3試合で許したランはわずか60ヤードだ。
オフェンスも強力だ。特に、ランオフェンスが久しぶりに力強さを取り戻した。3試合で642ヤード9TDと、昨秋のシーズンで苦しんだうっぷんを晴らすような破壊力を見せている。主力RBの一人、原卓門が米アリーナフットボールへの挑戦のため渡米したが、中西頌、望月麻樹がパワフルな走りを見せているのに加え、新加入の成瀬圭汰が台頭した。
名古屋大出身の成瀬は、中央では無名の存在ながら、鍛えぬいた178センチ91キロの肉体と、シンプルなタテ突進を武器に、試合ごとに実績を重ねて、競争の激しいRB陣の一角に完全に食い込んだ。古庄HCも「最初は、ひょっとしたらと考えていたらやってくれた。次の試合は、想定通りやってくれた。今は確信をもってやってくれるだろうな、という存在に変わってきた」と、掘り出し物ルーキーの活躍に目を細める。
もちろんランでは新QBのイカイカ・ウーズィーの存在も忘れることはできない。一般的にデュアルスレッドのQBは、強いランオフェンスとの相性が良い。イカイカも例外でなく、味方のランが好調な時は、スクランブルの決定力が増す。3試合で132ヤード5TDと、レッドゾーンでのスクランブルが相手ディフェンス陣の脅威となる。
そのイカイカ、パスオフェンスではロングボムが持ち味だ。3試合で7本決めたTDパスのうち、4本が30ヤード以上、2本は50ヤード以上と、強肩ぶりを発揮している。スラント、クイックアウトなどの短い速いタイミングのパスに正確性を欠くのが課題だが、ルーキーRBの成瀬にチェックダウンでパスを決めるなど、進歩が見られる。
ベテラン菅原俊も健在だ。先発したアサヒビール戦では、前半だけでパス184ヤード3TD、成功率78.6%という完璧なパフォーマンスを見せた。
今のオービックの強さには死角がない。IBMビッグブルーとは、パールボウル、秋の開幕戦と2戦続けての対戦となるが、秋の前哨戦とか、駆け引きをするというような意識はない。「選手は、今は春も秋も関係ない。どの試合であろうと勝つ気でいる。もちろん我々サイドラインはいろいろ考えることはあるが、勝つ気には変わりがない」と古庄HCは語る。
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6月4日の準決勝の後、富士通スタジアム川崎を引き上げようとする私は後ろから呼び止められた。安東主将だった。中学校1年生の息子さんと一緒に帰ろうとしていた。歩きながら「IBMとは2連戦になりましたね」と話すと、一瞬なんのことだかわからないようだった。安東にとって、先のことを考える意識は無用なのかもしれない。今目の前のプレーに全力を尽くす。目の前の敵を倒す。そこに集中している主将の存在は大きい。
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