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2017-06-19

パールボウル展望(1)  IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木

Xリーグ春シーズンの総決算となる東日本社会人選手権「第39回パールボウル」は、2連覇を目指すIBMビッグブルーと、3年ぶり6度目の優勝を狙うオービックシーガルズが対戦、6月19日午後7時東京ドームでキックオフとなる。
今回のパールボウルで最も注目すべきは、IBMとオービックは秋季リーグの開幕節で激突するということだ。つまり両チームは2試合続けて対戦することになったのだ。日本の社会人フットボールが1997年に「Xリーグ」として再編成されて以降、昨年までの20年間で、春のパールボウルで対戦したチーム同士が、秋の開幕戦で戦ったことは過去一度もない。
日本一を目指す両チームにとって、パールボウルは単に春の総決算というのではなく、秋シーズンの行方にも大きな影響を持つ戦いとなる。
約2カ月半にわたる熱い2連戦の1試合目、両チームの「キーワード」を軸にリポートする。

◎「イノベーション」・・・IBM

 IBMは、過去数年、Xリーグの中で最も成長したチームだと言ってよい。こう書くと、QBケビン・クラフトや、DEジェームス・ブルックスといった高い能力を持った米国人選手の存在が大きいと考えるファンも多いだろう。半ば当たっているが半ば外れている。今のIBMを見ていると、若い日本人プレーヤーの、フットボール理解や技術への取り組み、成長の度合いが、とても高いと感じる。それがチームの総合力となって積み重なっている。米国人選手頼みのチームではない。

 ディフェンス面ではショルダータックルへの取り組みだ。山田晋三ヘッドコーチは春のシーズンが始まった時「安全面に留意した新たなタックル『ショルダータックル』の習得に、ディフェンス全体が取り組んでいる」と語っていた。山田HCはこの技術を「フットボールがよりよくなるためのイノベーション」という。

 山田HCはかねてから「ヘッズ・アップ・フットボール=頭を上げるフットボール」への取り組みを推進し、頭から激しくぶつかる技術を否定してきた。

 NFLシアトル・シーホークスが推進してきた「ホークタックル」、米国のアマチュア競技統括団体USA Footballが推進してきた「ヘッズアップタックル」、米国ラグビー協会が実施してきた「ラグビータックル」の技術をまとめ上げたのがショルダータックルだ。そしてそのイノベーションはどう定着したか、試合に現れる。

 6月4日の準決勝、ノジマ相模原ライズ戦で、IBMディフェンスは真価を発揮する。前の試合で富士通フロンティアーズのディフェンスを蹂躙したノジマ相模原のQBデビン・ガードナーを、3度にわたるゴール前ディフェンスなどでしっかり止めた。「ガードナーは日本人とはタックルの間合いが違う。だからディフェンスの選手には、飛び込まずに、とにかく接近し続けるようにと言ってきた。外を守ったり内を守ったりして、よく寄り続けることができた」と山田HCが評価する通り、IBMが8点差で勝ち切る原動力となった。

オフェンスのイノベーションを代表するのはQB政本悠紀とRB高木稜だ。

 政本は、今春の全3試合に先発した。パス424ヤード、5TD(1インターセプト)、ラン114ヤード3TDというスタッツは、もはやバックアップQBのものではない。しかし政本のクオーターバッキングには、スタッツ以上に優れている部分がある。それは決してゲームを壊さないという点だ。

 政本のような、パスとランのデュアルスレッドQBは米のカレッジフットボールでは主流で、NFLでも近年増えている。しかし共通するのは、能力の高さゆえに独り相撲に陥りやすく、ラン・パスどちらかを止めると、リズムが悪くなってターンオーバーなどミスを犯してしまう欠点だ。

 本来はパサーのエースQBケビン・クラフトも、同種の悪癖がある。リーグトップクラスの高いパス能力を持ちながら、ディフェンスのプレッシャーに弱く、時として信じられないようなミスをしてゲームの流れを変えてしまう。

 政本は感情の起伏が少なく、常に安定したプレーをする。オフェンスコーディネーターでもあるクラフトに師事するパスでは、特に早いタイミングのパスで、早稲田大学時代からは長足の進歩を見せている。加えて、スクランブルに出るタイミングとコース取りが絶妙で、ディフェンスはパスラッシュ一辺倒というわけにいかず、難しい判断を迫られる。

 そんな政本を「今、Xリーグの日本人でNo.1のQBじゃないですか」と見ているのが4年目のRB高木稜だ。末吉智一とのデュオはリーグ最強だが、今春は末吉が休んでいるため、名実ともにユニットのリーダーとして活躍を見せている。

 165センチ、75キロと小柄ながら、単なるスピードランナーではない。ランのスタッツはここまで3試合で110ヤード、1TDと平凡だが、ここぞという場面で見せる走りのキレと力強さは、目を見張るものがある。昨年中村多聞氏にコーチングを受けて以降、目に見えて人に強くなり、タテへの突破力が脅威を増している。

 ノジマ相模原戦では、パスレシーブで65ヤード1TD、さらにスペシャルプレーで31ヤードのパスを決めるなど、変幻自在の活躍を見せた。
政本は早大大学院の修士課程で学び、京大出身の高木は大手総合商社で働く。ともにフットボールに注げる時間は、普通の選手に比べても決して多くはない。加えて、IBMのオフェンスは基本的に英語を使用している。特に政本はサイドラインで長時間クラフトと話し込んでおり、相当の英語コミュニケーション能力を身に着けている。

 社会人選手となってからの大きな進化を見せている2人は、時間を無駄に過ごさず物事をこなす集中力、目標を一つづつ計画に落とし込む能力、さまざまな誘惑に打ち勝つ心も強いのではないだろうか。

▽     ▽

 IBMは過去オービックに勝ったことがない。クラフトが加入した2012年以降の秋シーズンに限っても、0勝4敗だ。
 12年9月は、オービックディフェンスの圧力に屈して第1クオーターで26失点、21-35で敗れた。クラフトと龍村学の「日米ガンマン対決」が話題となった13年9月は41-42、地区1位通過で臨んだ15年10月のセカンドステージでは26-34、そして昨年の10月はクラフトが痛恨のファンブルを喫して同点とされ延長タイブレークとなり、23-24で屈した。

 山田HCは、今回のパールボウルは「勝ちたいが、勝ちにはこだわらない。とにかくチームとして成長をしたい」という。昨年の優勝はチームにとって初タイトル、春とはいえ美酒の味を知ることができた。今回、秋の初戦を勝つことがライスボウル制覇への最初の関門だ。であるなら「成長とは、オービック越えに他ならない」だろう。

【写真・文/小座野容斉】

パールボウル準決勝【IBM-ノジマ相模原】IBMのRB高木が28ヤードのロングゲイン。ユニットリーダーとして、決勝ではオービックの強力ディフェンスに挑む=2017年6月4日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)
【2017年春レポート】IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木
https://www.facebook.com/americanfootball.magazine/posts/1075675539231985ー 場所: 富士通スタジアム川崎

パールボウル準決勝【IBM-ノジマ相模原】IBMのQB政本がスクランブルからディフェンスを切り裂く。高い運動能力だけでなく常に冷静沈着なクオーターバッキングが持ち味だ=2017年6月4日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)
【2017年春レポート】IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木
https://www.facebook.com/americanfootball.magazine/posts/1075675539231985ー 場所: 富士通スタジアム川崎

パールボウル1次リーグ【IBM-東京ガス】IBMが取り組んでいる新しいタックル技術の導入。「太腿を抱え込む」ことを意識しているという=2017年6月4日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)
【2017年春レポート】IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木
https://www.facebook.com/americanfootball.magazine/posts/1075675539231985ー 場所: 富士通スタジアム川崎

パールボウル準決勝【IBM-ノジマ相模原】IBMが取り組んでいる新しいタックル技術の導入。ボールキャリアの進行方向に頭を入れないのが特徴の一つだ=2017年6月4日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)
【2017年春レポート】IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木
https://www.facebook.com/americanfootball.magazine/posts/1075675539231985ー 場所: 富士通スタジアム川崎

パールボウル準決勝【IBM-ノジマ相模原】第2クオーター終了間際、TDを狙うノジマ相模原QBガードナーを、前方からDB宮川、後方からDL森田、側方からDB神津と、3人がかりで止めたIBMディフェンス陣=2017年6月4日、撮影:小座野 容斉 (Yosei Kozano)
【2017年春レポート】IBMのカギ握るショルダータックル、政本、高木
https://www.facebook.com/americanfootball.magazine/posts/1075675539231985ー 場所: 富士通スタジアム川崎

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