現在のランニング、マラソン界を席巻するナイキの厚底シューズ。その新世代モデルとなる「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」が、2月6日未明にグローバル発表された。「ヴェイパーフライ ネクスト%」からさまざまな進化がみられ、東京オリンピックでの高い着用率も期待される1足だ。
昨年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)や、箱根駅伝などの年末年始の駅伝大会で、驚異的な着用率をみせたナイキの厚底シューズ。その新世代モデルとなるのが「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」だ。「カーボンプレートが3枚内蔵」だとか「五輪での使用が禁止される」などの怪情報が事前には流れていたが、実際にはカーボンプレートは1枚。ソールの厚みも40㎜以下で、五輪での着用はもちろん可能なものとなっている。
今回の発表に先立ち、1月中旬にナイキVPのランニング フットウェア担当、ブレット・ホルツ氏が来日し、一足早く「アルファフライ」に接する機会があった。昨年10月、エリウド・キプチョゲ(ケニア)がウィーンで非公式ながらフルマラソン2時間切りを達成したシューズの市販モデルとなるが、実際に目にすると、とにかくその見た目のインパクトに驚かされた。
現在、世を席巻する「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」から、新厚底「アルファフライ ネクスト%」への主な改良点や特徴は、次の通りだ。
1.ズーム エアの搭載。これが一番に見た目のインパクトを醸し出してるのだが、ナイキのミッドソール構造を代表する「ズーム エア」を、新たに前足部に、露出した形で搭載している。横に2つ並べられたエアバッグによって、母指球からつま先にかけて蹴り出す際の反発力を従来よりもさらに高めているという。
2.ズームエックス フォームの採用。これまでの厚底と同様に、高いエネルギーリターンと軽さを両立するミッドソール素材「ズームエックス」フォームを採用。この素材にはヘタレが早いという弱点があったが、「ズーム エア」を組み合わせることで、耐久性の面でも従来の厚底から高めているという。この組み合わせもあって、「ヴェイパーフライ ネクスト%」よりもソール部分は厚く(それでも40㎜以下)、重さも片足約200gから約225gと重くなっているが、それをカバーして余りあるエネルギーリターンを得られる構造になっているそうだ。
3.カーボンファイバープレートの搭載。従来の厚底と同様に、硬くて強くて軽い、反発性を高めるカーボンファイバープレートを1枚搭載。しかし、これまで以上に前足部のプレート部分の広さが、大きなしゃもじのように広くなっている。これは、ソール全体が底上げされている分、安定性を高めるための構造でもあるという。ちなみに、つま先部からかかと部のソールの厚みの差(ドロップ)は8㎜と、「ヴェイパーフライ ネクスト%」から変わりはない。
4.新アッパー素材「アトムニット」の採用。「ヴェイパーフライ ネクスト%」のアッパーには「ヴェイパーウィーブ」という新素材が使われていたが、新厚底ではニット素材(フライニット)が「アトムニット」の名で復活した。しかし、従来のフライニットにあった水を吸って重くなる欠点を改善し、高温多湿が予想される東京五輪(マラソンは札幌開催、パラリンピックは東京開催)でも、高い通気性とフィット感が保たれるようにしているという。
さて、実際の履き心地はどうなのだろうか。東京五輪男子マラソン代表の中村匠吾選手(富士通)によれば、「履き心地は『ヴェイパーフライ ネクスト%』に似ていますが、エアが入ったことで、より推進力を感じるシューズになったと思います」とのこと。耐久性についてはこれからだが、ポイント練習やロング走で週に2回厚底を履く中村選手によれば、「『4%』はひと月だったが、『(ヴェイパーフライ)ネクスト%』は3カ月はもつようになった」そうだから、「アルファフライ」にはそれ以上の高い耐久性が期待できることになる。
東京五輪での「アルファフライ」着用率は、どれくらいになると予想しているか、と尋ねられたホルツ氏は「90%くらいでしょう。エリートアスリートはすでに『アルファフライ』へ徐々に移行してきているし、オリンピックでも多くの選手に履いてもらえると思います」と願望も込めて語った。確かに、五輪はメダルを懸けた勝負の場。キプチョゲがこのシューズで2時間切りを果たしている以上、彼らとメダルを争うことを考えれば、多くの選手が「アルファフライ」をセレクトしてくる可能性は高いはずだ。
われわれ一般ランナーにとって気になる価格については、説明を受けた時点では「ヴェイパーフライ ネクスト%」と同程度になる模様だ。大迫傑(NIKE)や設楽悠太(Honda)らが出場する3月の東京マラソン、キプチョゲとケネニサ・ベケレ(エチオピア)が激突する4月のロンドンマラソンと、日本と世界の男子マラソン歴代No.1、No.2が相まみえる大会で、まずはその「実力」を確認してみることにしたい。
文/高橋幸司(ランニングマガジン・クリール編集部)
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