6月24日、日曜日。本州の西、山口県では陸上競技の日本選手権が開催され、熱戦が展開されていた。大会最終日のこの日は、男子110mHと男子円盤投の2種目で新たな日本記録が誕生した。
そして同じ日、山口からはるか北東に位置する北海道・サロマ湖でも新たな記録が誕生した。20年もの間、破られることがなかった100㎞マラソンの世界記録(=日本記録)がついに更新されたのだ。この偉業を成し遂げたのが、風見尚選手(愛三工業)だ。
従来の世界記録は、1998年のサロマ湖100㎞ウルトラマラソンで砂田貴裕さん(積水化学=当時)がマークした6時間13分33秒だったが、風見さんは、20年後の同大会で4分超も更新する6時間9分14秒で走った。
「記録よりも順位を重視していた」という風見選手は、世界選手権(クロアチア)の代表選考がかかったこのレースで、日本代表が内定する「4位以内」を目標にレースを進めていた。ハイペースでレースが進むなか、風見選手は50㎞過ぎにいったんは4番手に下がったが、自分のペースを守りつつ先頭集団が見える位置に付けた。そして、70㎞過ぎについに先頭に立つと、その後は一気に後続を突き放し、優勝を飾るとともに大記録を打ち立てた。
“苦労人”といっては失礼かもしれないが、風見選手の競技人生を振り返ると、そこには数々の挫折があった。
駅伝の強豪・駒澤大時代は、チームは箱根駅伝で連勝中だったが、風見選手は4年間エントリーメンバーに登録されながらも、出走はついに叶わなかった。また、4年時には補欠ながらも、箱根駅伝の連勝が“4”で途切れる悔しさを味わった。実業団の愛三工業でも、ニューイヤー駅伝や中部実業団駅伝には出場したが、大きな実績を挙げられずに4年間で陸上競技部を引退した。
ただ、そこで走ることをやめなかったのが風見選手だ。陸上部引退後も、フルタイムで働きながら、毎朝5時から朝練習をし、終業後も毎日走る生活を続けている。平日に、あえて50㎞走を敢行することもあるという。こうした鍛錬の積み重ねが100㎞の世界記録につながった。
7月21日発売のクリール9月号では、風見選手へのロングインタビューを実施。駒澤大時代の恩師・大八木弘明監督や前世界記録保持者となった砂田さんの言葉も併せて掲載している。
通常業務をこなしながら競技を続ける風見選手の取り組みには、一般ランナーにとっても数々のヒントがあるはずだ。
文=和田悟志
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