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2018-06-01

太陽のようなエネルギーは 卓越したフィットから生まれる

 ランニングシューズは不思議だ。革靴などでは、履き込むにつれて良さがでてくるものがあるが、ランニングシューズにおいてそういうことはほとんどない。足を入れる、紐を結ぶ。この単純な作業をするだけでそのシューズの実力をある程度、推し量ることができる。そして、その印象は長く走り続けても大きく変わることはない。

 アディダスは、初めてランニングを始める人、あるいは初めてフルマラソンに挑戦する人のためのランニングシューズ、ソーラーブースト シリーズをリリースした。ソーラーブースト、ソーラーグライド、ソーラードライブの3つのタイプで構成されるソーラーブースト シリーズのなかでも中核となるソーラーグライドの試走レポートをお届けする。

未体験のフィットを実現するために
施された様々な工夫

 “未体験のフィット感”それが、ソーラーシリーズが目指したことの1つだった。足を入れた瞬間にその狙いがうまくいったことを感じられる。まずは踵のホールド感のよさだ。独特のヒールカウンターをもつヒール構造は、アキレス腱の動きを妨げないように外付けのヒールカップが左右に分かれている。踵骨を左右からピタリと挟み込む。

右がソーラーグライドで左がウルトラブースト。ともにヒールカップが左右に分かれているが、ソーラーグライドのほうがより独立性が高くなっている。

 次に感じるのが前足部のホールド。横に細かい線が入ったエンジニアードメッシュは、足の縦の動きに柔軟に対応する。しかし、横には伸びない設計になっているので、走行中のブレが起きないことは容易に想像できる。

前足部は足によくなじむ。しかし、横ブレを抑制する構造でもある

 さらに、注目すべきはシュータンだ。スエットスーツに使われているネオプレンのような素材がやさしく甲を包み込む。甲の部分は皮膚の感度が高い。少しでも違和感があると走行に影響を与える。ソーラーグライドのシュータンは、靴ひもの存在を感じさせない。

厚みがあり、フィット感はいいが、軽量となっているシュータン

 そして、ソーラーシリーズのフィット感に影響を与えているのがサイドパネルだ。エンジニアードメッシュを熱圧着してパネル状にしている。これは、ソーラーブーストシリーズの上位機種、ソーラーブーストで開発されたテーラードファイバープレースメントという新しい技術を応用したものだ。テーラードファイバープレースメントは、軽量を保ちつつ中足部のホールド感を高めるために開発された。靴ひもを下から締め上げていくと、連動したサイドパネルが適度に、そして快適に足を両サイドから包み込む。

ウルトラブーストではプラスチック製だが、ソーラーグライドのサイドパネルは、メッシュを熱圧着してできている

 ソーラーグライドのフィット感を語る上で、もう1つ付け加えておかなければならないことがある。シューレース、靴ひもだ。柔らかすぎず、硬すぎず、適度なフリクションがあるので、シューホールからずれない。もちろん、結び目もほどけにくい。

 これまでフィット感がいいシューズは、ラスト(靴をつくるときにもと土台となる木型)が自分の足に合っているかどうかがすべてだと思っていた。しかし、ソーラーグライドに足を入れると、ラストが合わなくてもシューズを足に合わせる方法はたくさんあることがわかる。おそらく、素材や製法など、もっと細やかな配慮もなされているのだろう。

ビギナーランナーに必要なのは、
着地安定性ではなく、走行安定性

 足に合うというだけで、走り心地は想像がつく。クッション性が高く、高反発素材のブーストフォームはよく知っている。フィットがよくなったことによって、ブーストフォームがどのような反応をするのか。興味はそこだけだった。

 しかし、走り始めると違うところに意識がいった。走行安定性だ。ウルトラブーストなど、ブーストフォームを多めに使っているシューズは、クッション性が高いために、着地安定性が課題だった。ところが、ソーラーグライドは、ウルトラブーストと同等のブーストフォームを使用しているにも関わらず、走行安定性が高い。

ソーラーグライドとウルトラブースト。踵部のブーストフォームの厚さはほぼ同じ。

 ミッドソールの両側に搭載されているソーラーエナジーレールが、横ブレを抑制するのだろう。きれいに前方へ体を運んでくれる。これまで、ふわふわして心もとない素材だと感じていたブーストフォームが、ソーラーエナジーレールと組み合わされることによって、この素材がもっている高反発性を最大限に発揮できるようになった。

白いブーストフォームとアッパーのメッシュの間に搭載されているソーラーエナジーレール(灰色の部分)。これを挟むことによって、走行安定性が高まる

 アディダスは、ソーラーシリーズを、初マラソンを走る人たちのための定番シューズにしたいと考えているそうだ。故障しないためには、衝撃吸収性はもちろん、着地安定性が大事だいわれているが、安定性が必要なのでは、着地時だけではなく、走っている間ずっとだ。必要なのは着地安定性ではなく、走行安定性だ。ソーラーグライドを履いて走り、その狙いは十分にプロダクトに反映されていると感じた。

 衝撃吸収性、走行安定性、軽量、推進力と反発性、フィット感とサポート性、そしてスタイリング。ソーラーグライドはビギナーランナーがシューズに求めるすべての要素を高次元で実現している。スポーツ界の巨人が、本気で取り組んだ結果だ。

 ソーラーという名前は、このシューズが太陽のようにランナーに走るエネルギーを与えてくれるという意味が込められている。そして、開発のコンセプトは、スペースシャトルだという。NASAの技術者たちは、安全に宇宙を旅して帰還してほしいと願った。無駄を省き、最高の素材を用い、徹底的に機能を追求し、最善の設計を行った。初めてランニングを始める人や初めて42.195kmに挑戦する人に、最高のギアを届けたいという思いは、NASAの技術者たちの思いと重なる。

 ただ、本当にこのシューズがビギナー用の定番シューズとなりうるかどうかは、自分で確かめてほしい。足を入れ、靴ひもを結ぶ。それだけでも十分だ。

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