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2018-04-18

【フットウエアディレクターインタビュー】 ナイキ独自の3Dプリントを活用した ランニングシューズのアッパーを開発

ナイキは、独自の3Dプリントを活用したランニングシューズのアッパーを開発した。水分を含まず、濡れても重くならないランニングシューズは、Breaking2で2時間25秒を記録したエリウド・キプチョゲ選手の要望を聞き入れて開発された。ナイキ フライプリントと名付けられたその新たなアッパーについて、ナイキ ランニング フットウエア シニア ディレクターのブレット・スクールミースターが語った。キプチョゲはナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントを着用して、次のマラソンである4月22日のロンドンに挑む。同じ週末ロンドンで、限定生産のこのシューズがナイキアプリを通じて販売される(日本での発売はない)。

――なぜ3Dプリントを使用することを考えたのでしょうか?

ブレット ナイキはこの10年以上、3Dプリントを取り入れ、進化させる面においては業界内でリーダー的な役割を果たしていると考えています。しかしながら、これは舞台裏の試作品製作に使われることが多かったのです。実際にレースで使われた例としては2016年のオリンピックのアリソン・フェリックスのための特製陸上スパイクを3Dプリントを活用して製作していますし、2013年と2014年にもNFLコンバインでアスリートが最高の活躍をするためのサポートとなるプレートを3Dプリントで製作しました。

 最近では、チームが新型の3Dプリンターに「手を加え」アッパー素材をプリントするというアイディアの探求を行ってきました。同僚の机の上にあった初期の試作品を見た時、私はそれを借りてある日の午後に走ってみました。まだ完成には程遠いものでしたが、軽さ、通気性とこれまでのものとは全く異なる履心地にとても興味を覚えました。それからまもなくして、エリウド・キプチョゲのもっと軽い、もっと通気性の高い、先日のベルリンマラソンのような悪天候にも対応できるものがあったらよかったという希望を聞きました。そこからアイディアが動き始めたのです。

――いつこのシューズの開発をはじめましたか?

ブレット 2017年12月にエリウドがナイキ本社を訪れた時、彼に初期の試作品を見せました。彼はデザインに興味を持ち、とても良い意見をくれたので、それを元に素早く作業を進めました。2月には新しく作ったサンプルをケニアのエリウドに、自ら届けにいき、彼と彼のチームメートがハードな練習にそのシューズを履いて試してくれました。エリウドは、新しいフライプリントは「飛んでいるようだ。走っている時に飛んでいるように感じる」と、 履き心地と通気性についてコメントしてくれました。エリウドはもっと手を加えて欲しいところをスケッチにして見せてくれました。そのフィードバックをすぐに本社に送り返したところ、9日後に新しいテスト用シューズがエリウドの元に届いたのです。(そのうち8日間が輸送時間だったことも重要です!)

――アッパー以外に変わった部分はありますか?

ブレット エリウドの最新バージョンのアッパーが新しくなった点が一番大きな変更です。フライプリント技術は、アスリート一人一人のニーズやフィードバックに合わせて微調整を加えることができます。それぞれのアスリートに合わせて異なるプリントのシューズができるという点が優れています。

――新しいアッパーに使われている素材は何ですか?


ブレット ナイキ ヴェイパーフライ エリート フライプリントの最終盤のフライプリントアッパーは、TPUを複数の層に重ねて印刷し作られています。

――ナイキ ヴェイパーフライ4%と今回のヴェイパーフライ エリート フライプリントはどのようなポジショニングになると考えていますか?

ブレット ヴェイパーフライ エリートよりもこのシューズは11g軽くなっています。多くのアスリートはこの6%軽くなったシューズを素早く受け入れ、この技術を望んでいます。エリウドのトレーニング仲間であるジョフリー・カムウォロルは、2月に1足目をテストしたあと、2足目のシューズで3月のスペインのレースに臨みたいと希望しました。

――キプチョゲ選手からどのようなリクエストがあって今回のシューズは改良されましたか?

ブレット エリウドは、自分の履くフットウエアに対して、繊細でとても意義深いフィードバックを言葉にして伝えてくれることができる人です。エリウドがテストした一つ一つの試作品ごとに、彼がもっと安定性が欲しいところ、通気性を高めて欲しいところ、締め付けるようなフィットが欲しいところを聞き、それに対応してきました。例えば、かかとと前足部は、構造を密にして足をしっかりと固定するようにしています。同時に、Breaking2でエリウドから集めた、足圧分布図、運動中の彼の足の立体データ、フットスキャン結果などのデータも使い、最終デザインに落とし込んでいます。

――この新しいシューズを試した選手は他に誰がいますか?

ブレット ジョフリー・カムウォロル、ゲーレン(ローマハーフマラソンを走っています)、ジョーダン・ハサイ、モーファラーもテストしています。

――重さを減らすことでどのような利点がありますか?

ブレット ナイキ ヴェイパーフライ エリート フライプリントは、Breaking2でエリウド・キプチョゲが着用したナイキ ヴェイパーフライ エリートよりも11g軽くなっています(男性用USサイズ10、片足)。ナイキ ヴェイパーフライ エリートの男性用USサイズ10は、片足180gで、ナイキ ヴェイパーフライ エリート フライプリントはたった169gです。180gで11g軽くなるということは、6.1%軽量化されたということです。

 さらに注目すべきは、科学的研究によると、足にかかる重さが100g軽くなることにより、ランニングエコノミーが1%高くなるとされています。つまりこのアッパーを用いることで、ランニングエコノミーをさらに0.1%改善することができるということです。42.195kmの中ではほんの少しの利点も重要です。さらに、シューズは昨年のベルリンマラソンのような悪天候のレースになっても、水分によって重くなることがほとんどありません。水分がシューズの中を素早く通り抜け、アッパーに吸収されることがありません。

――エリートランナーは通気性についてどのくらい気にしているのでしょうか?

ブレット 足の熱を外に逃がすため、そして湿度を逃がすためにも通気性は重要です。その部分の改善をエリウドも望んでいました。

――この技術は使うことによってアスリートの最大のメリットはなんですか?

ブレット シューズが水を吸い込むと重くなります。速く走るためのフットウエアでは、それをなくしたいと考えました。

――シューズの内部を快適に保つための仕組みは?

ブレット 何も付け加えたものはありません。3Dプリントを活用したことで、このシューズは余分な摩擦を防ぎます。またこのシューズを作るにあたり、対象にしたアスリートは全てマラソンではソックスを履くことを好んでいます。

――設計と試作プロセスのスピードアップのメリットは何ですか?

ブレット より良いプロダクトを作るために制作スピードを速くすることは、アスリートがパフォーマンスを高めることの加速にも役立ちます。また、ナイキアスリートたちは、シューズの変更に何ヶ月や何年も待つのではなく、数週間、数日待つだけですむことを喜んでいます。

――試作品を作るプロセスは従来のプロセスと比較してどのくらい速くなりますか?

ブレット 何週間、何カ月かかっていたものが、実に数日、数時間になりました。コンピュータを使ったデザインと製作により、ナイキは機能を生み出す3Dプリントを開発しました。フライプリントは、現代の3Dプリント技術にコンピューターデザインとアスリートデータを組み合わせることによってのみ実現できたのです。これらのツール(そして機械に独自の手を加えること)によって、チームは機械の可能性を見出し、機械をハケや筆のように俊敏な使い方ができるようになったのです。

――新しいプロセスが設計を無限に変化させることに対応できるとは思いますか?

ブレット もちろん、何千ものアッパーをデザインし、何百のバージョンを「プリント」ボタンを押して作り、実際に6つの異なる試作品を組み立てました。これら全て、オレゴン州ビーバートンのナイキ本社にある小さいながらも機動性に優れたナイキのデザイン及びNXTグループによって行われています。

――このような画期的なシューズを改良し続けますか?

ブレット 私たちは常に、「there is no finish line」(ゴールはない)と考え、未来のランニングシューズのための改良方法を継続的に探しています。

――Nike Flyprintを活用した製品は、今後一般の消費者に提供される予定ですか?

ブレット ナイキは、マラソン大会が行われる週末にロンドンで限定数のナイキ ヴェイパーフライ エリート フライプリントをNikeアプリで販売します。現在、フライプリントや、そのほかの3Dプリントの試作品を、今年1年の間により多くのアスリートのために展開する方法を検討しています。2019年にはこのイノベーションをほかのインラインモデルの一部にも展開していく予定です。(日本未発売)

――ボクセル単位までプリントを調整できることによるベネフィットは何ですか? そこまで細かい精度はランニングシューズに必要なのでしょうか?

ブレット はい。フライプリントは、ボクセル単位で特定の機能を持った構造を作り出すことができます。これにより、これまでにないレベルの速さとカスタマイゼーションが実現できます。また、機械に手を加えたことにより、従来の3Dプリンターで絵筆のような細かい作業ができるようになり、これも興味深い技術と考えています。この利点は、アッパーをアスリート一人一人に合わせたり、あるいは強さ、安定性、通気性を部位ごとに高められるデザインをするなど、アスリートのニーズやフィードバックに答えられるようになることです。

――昨年のBreaking2の際に、このアッパーの開発は行われなかったのなぜですか? この技術とBreaking2プロジェクトには何か関連があるのですか?

ブレット Breaking2は、現在取り組んでいる多くの作業にも結びついている、素晴らしいプロジェクトでした。Breaking2を受けて、すでにプロダクトやアスリートをよりよくする方法の研究を行なっており、ズーム ヴェイパーフライ エリートのアッパーも、その改良のターゲットの一つとなったものです。重さは常に速く走るための敵になるので、軽量化については前から検討していました。また、エリウドがベルリンマラソンを走った後に、通気性と水分吸収により重くなるのを避けて欲しいという希望を伝えてくれました。これは、アスリートの意見に対し、純粋に、真剣に機能印刷を探求するきっかけとなりました。単純に何か違うことをするためだけにイノベーションを行うということはありません。アスリートのパフォーマンス向上に役立つものにならない限り、どんなアイディアも探求することはありません。

――次にアップデートしたいと思うことがあればどこですか?

ブレット いくつかすでに動いているプロジェクトがありますが、まだこの時点でお話できることはありません。

――いつから3Dプリントのアッパーの開発をはじめ、どのように開発を進めてきたのですか?

ブレット ナイキはこの10年以上、3Dプリントを取り入れ、進化させる面においては業界内でリーダー的な役割を果たしていると考えています。しかしながら、これは舞台裏の試作品製作に使われることが多かったのです。実際にレースで使われた例としては2016年のオリンピックのアリソン・フェリックスのための特製陸上スパイクを3Dプリントを活用して製作していますし、2013年と2014年にもNFLコンバインでアスリートが最高の活躍をするためのサポートとなるプレートを3Dプリントで製作しました。

 最近では、チームが新型の3Dプリンターに「手を加え」アッパー素材をプリントするというアイディアの探求を行なってきました。同僚の机の上にあった初期の試作品を見た時、私はそれを借りてある日の午後に走ってみました。まだ完成には程遠いものでしたが、軽さ、通気性とこれまでのものとは全く異なる履心地にとても興味を覚えました。それからまもなくして、エリウド・キプチョゲのもっと軽い、もっと通気性の高い、先日のベルリンマラソンのような悪天候にも対応できるものがあったらよかったという希望を聞きました。そこからアイディアが動き始めたのです。

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