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2025-04-27

【サッカー】[U-15指導者 鴨川幸司×元日本代表 橋本英郎]ガンバ大阪に長く携わってきた指導者目線、選手目線のビルドアップに必要なこととは。(後編)

2人の対談の様子。懐かしい話や深いところまでの話に盛り上がった(Photo:森田将義)

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「『止めて蹴る』」のベースがあった上で、ビルドアップに進まなければいけないのですが、立ち位置などのシステマチックな話が先行している気がします」(橋本英郎)

「ビルドアップの仕組みが理解できていたとしても、個々のボールの持ち方やグループ戦術ができていないと、ビルドアップはうまくいかないでしょう」(鴨川幸司)

サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
1人は指導者として、もう1人は選手として、ガンバ大阪に長く携わってきた2人が、それぞれの立場から、ビルドアップについて話す。ビルドアップの基本的な考え方、G大阪時代のエピソード、個々がベースとして持つべき点など、幅広く語り合ったものを、前後編に分け公開する。
後編はビルドアップに必要なポイントと、実際のトレーニングメニューについて。

取材・構成/森田将義

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【特集】進化するビルドアップとその指導 PART3:俺たちのビルドアップ論-より)

 鴨川幸司[RISEISHA U-15監督]×  橋本英郎[元・日本代表、元ガンバ大阪など]

ボール回しをやれる技術が必要


大坂大谷大学でコーチを務め、履正社高校でも指導している橋本英郎。ガンバ大阪では、J1リーグ優勝(2005年)やAFCチャンピオンズリーグ優勝(08年)に貢献し、日本代表としては15試合に出場するなど、日本サッカーの第一線で活躍した(Photo:Getty Images)

─話は変わりますが、ビルドアップにしても、何にしても、パスを受ける際は、体の向きが大事だと教えられます。


橋本 今の指導者は、体の向きについて、口をすっぱくして教えます。でも、向きが悪くてもかわせる方法は、たくさんあります。実際、ブラジル人は、体の向きが悪い選手が多いのですが、相手をかわせる別の技術を持っています。むしろ、体の向きが悪いから取れるとボールを奪いに来た相手を逆手にとれる技術を持っている印象です。

鴨川 ビルドアップには、ボール回し(「3対1」や「4対2」など)をやれる技術が必要です。ビルドアップの仕組みが理解できていたとしても、個々のボールの持ち方やグループ戦術ができていないと、ビルドアップはうまくいかないでしょう。

橋本 それと、「止めて蹴る」ができないと、良いところが見えていてもパスを出せないので、攻撃につながりません。本来は、そうしたベースがあった上で、ビルドアップに進まなければいけないのですが、立ち位置などのシステマチックな話が先行している気がします。ボールと人の動きをボード上で説明できたとしても、どれくらいのパススピードが良いのか、ボールをどう止めるべきなのかというところまで意識しないと、ビルドアップはうまくいきません。

鴨川 相手のボランチが食いついてきたら、前の選手が空くと、頭ではわかっていても、そこへのキックがきちんとできないと、空いた前の選手を活かすプレーは成立しません。

橋本 ビルドアップの仕組みがあっても、うまくいくかどうかはわかりません。メンバーによっても変わってきます。

しかも、同じビルドアップでも、うまくいくときといかないときがあります。そういう場合はプレーモデルとして考えれば良いのですが、日本人は、戦術としての約束ごとと捉えるので、それ以外のプレーを選択することに抵抗を感じます。うまくいっていないのにと思いながらもやり続けがちです。

スペインがなぜプレーモデルを採り入れたかと言うと、スペイン人が言うことを聞かないからです。プレーモデルを設けないと、選手を縛れません。戻ってくる場所を決められないから、プレーモデルをつくっているのだと聞きました。

鴨川幸司と橋本英郎のおすすめトレーニングメニューはこちら

─相手と味方の状況を踏まえながら、判断良く、ビルドアップしなければいけません。

鴨川 ビルドアップの方法は、センターバックによっても変わります。「2対2」でプレッシャーをかけられても、ずらしてかわすとか、サイドハーフとの間にドリブルで持ち運んで、サイドバックに高い位置をとらせるとか、そういうことが普通にできる選手を育てたいのですが、そんな選手ばかりではありません。

2トップにプレッシャーをかけられると、慌ててしまうようなセンターバックもいます。そういうときは、ボランチが少し下がることによって、「3対2」にすることもあります。

橋本 プレーの正解はある程度はありますが、成長する過程においては、1つの答えによる指導ではなく、選手のパーソナリティーに合った教え方が必要です。自陣から組み立てたいからと、ビルドアップできる選手をうしろに置いた結果、活きない選手が出てきてしまうのは、よくあるケースです。

プロの世界では当たり前の策かもしれませんが、育成年代のうちから、それをやるのは違う気がします。ビルドアップ志向のチームだとしても、それが苦手なのに、ずっとやらせるよりも、良いところを伸ばしてあげるべきではないでしょうか。

─ビルドアップするためには、キーパーにも技術が求められます。

橋本 今は、どこのチームもビルドアップが上手ですが、それは、足元の技術がないと成り立ちません。でも、技術があっても、ビルドアップがうまくいかないことはあるので、そのときは蹴る選択肢を持ってほしいと思います。

ビルドアップに固執しすぎるあまりに、苦しい状況に追い込まれるのに、味方にパスする選手が多いんですが、横浜F・マリノスの朴一圭やガンバの一森純は、ビルドアップがうまくいかずに、自分のところにボールが戻ってきた際に、無駄につながない選択肢を持っています。ビルドアップからの失点が少ないのは、そのためです。

鴨川 ビルドアップにこだわりすぎた結果、失点を防ぐという本来の役割が抜け落ちてしまったというのではいけません。

しかし、ビルドアップの技術を身につけるにはミスを恐れていてはいけません。むしろ、そういうプレーを身につけるためには、プレッシャーを恐れるのではなく、楽しめるようになってほしいです。プレッシャーを感じてしまうのか楽しめるのかによって、プレーは、大きく変わります。

サッカーは勝つことを争うスポーツなので、自陣でミスしてオッケーということはありません。しかし、育成年代では、勝利を目指してプレーする中で、多くのトライ&エラーを経験し、成長していってほしいと思っています。


鴨川幸司(Photo:森田将義)


橋本英郎(Photo:森田将義)

鴨川幸司(RISEISHA U-15監督)
PROFILE
かもがわ・こうじ/ 1970年7月28日生まれ、大阪府出身。大学生時代に、ガンバ大阪アカデミーの前身にあたる釜本FCで、ジュニア年代の指導を始めた。Jリーグの誕生以降、G大阪ジュニアユースのコーチや監督として、多くのプロ選手の育成に携わった。FCティアモ枚方アカデミーでの指導を経て、2024年にRISEISHA U-15の初代監督に就任した

橋本英郎(元日本代表、元ガンバ大阪など)
PROFILE
はしもと・ひでお/ 1979年5月21日生まれ、大阪府出身。中学生時代から、ガンバ大阪でプレーした。同ユースを経て、トップチーム昇格を果たし、ボランチやウイングバックとして活躍。また、2007年から10年にかけて、日本代表に選出され、15試合に出場した。ヴィッセル神戸や東京ヴェルディなどでもプレーし、22シーズンを最後に引退。現在は、履正社高校や大阪大谷大学のコーチとして、後進の指導に励む。Jクラブの監督になるために、日本サッカー協会公認Proライセンスの取得を目指す

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