close

2025-04-22

【サッカー】「固定されたポジションにはいてほしくない」Jクラブ指揮官のこだわり - 岩政大樹 - [北海道コンサドーレ札幌監督](前編)

今シーズンの札幌において、2ボランチの一角を担い、ビルドアップの軸となっている高嶺朋樹(Photo:J.LEAGUE)

相手に的を絞らせたくないので、状況によって、どんどん変わっていくことを志向している

サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
鹿島アントラーズでタイトル獲得に貢献してきた元日本代表センターバックの岩政大樹が、今シーズンからJ2リーグを戦っている北海道コンサドーレ札幌で監督を務めている。
BBMsportsでは前後編に分け、理論派でかつ強いこだわりを持って強化を進める岩政による、ビルドアップの考え方と指導を公開する。
前編ではビルドアップについての考えや、選手との共有を聞いている。

取材・構成/土屋雅史

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【特集】進化するビルドアップとその指導 PART5:Jリーグ2025のビルドアップ-より)

固定されたポジションにはいてほしくない

─ビルドアップについて、考えを聞かせてください。

岩政 ビルドアップには、いろいろな形があります。「自分たちのゴール前から相手のゴール前にどう持っていくか」を全般としてビルドアップと言って良いでしょうし、ボールを保持しながら前進するのも、長いボールで相手の背後を狙うのも、ビルドアップと言えば、ビルドアップだと思います。

個人的には、ボールを保持しながら、相手の状況に対して、どのようにすれば、意図的にボールを展開して、判断して、より高い可能性で相手ゴールに迫れるかを大事にしています。僕は、「前進=Progressiveである」ということを北海道コンサドーレ札幌での攻撃のテーマに置いていますし、ボールを保持しながら圧倒する場合は、保持が目的化しないことをずっとテーマにしています。

ポゼッションは、自分たちで前進するため、自分たちでゴールに迫るためのものであって、「それがProgressiveだよ」と伝えながら、前進するためにはどういう動きが必要なのか、どういうスペースを認知することが必要なのかを開幕前のキャンプからやってきています。でも、失敗体験を少しずつ積まないと、新しいことにトライしにくいので、今もみんなで確認しながら進めています。

─後方からのビルドアップに関して、選手たちとどのようなことを共有しているのでしょうか?

岩政 段階を追って進めていて、スタート時からやっているものと少しずつつけ加えているものがあります。僕は、「Progressive&Flow」と言っているのですが、「Progressive、どんどん前進していくこと」と「Flow、流動的であること」、これをチームの1つのスタイルにしようと考えています。

日本では、ビルドアップと言うと、ポジションをとって、誰がどこにいるかがだいたい決まっていて、いわゆる静的なポジショナルに近い考え方でボールを前進させるチームが多いと見ています。でも、僕は、誰と誰がどんな関係性をつくって、相手次第で立ち位置をどのように変えるかというところに関して、相手に的を絞らせたくないので、状況によって、どんどん変わっていくことを志向しています。

「あなたはここにいなさい」「この選手がここに来たら、ここにパスしなさい」と言うのは簡単ですが、それだと、だんだんパターン化されますし、その先に行ったときに面白くありません。ですから、少しあいまいと言いますか、より柔軟な発想を選手たちが持てるような提示をしたいので、固定されたポジションにはいてほしくないという思いがあります。

選手たちに少しやらせながら、それで見えてきたものに対して、パターン化する順番にしないと、思い描いたようなチームパフォーマンスになりません。そこは難しいですし、時間がかかります。でも、そのやり方のほうができ上がったときに面白くなるし、相手に対応されづらくなると信じています。

ビルドアップ時に使う「ホール」と「リンク」


J2リーグ第5節のブラウブリッツ秋田戦で、今シーズン初勝利を挙げた札幌(Photo:J.LEAGUE)

─ビルドアップ時のスペースについては、どのように考えていますか?


岩政 そもそも、スペースが何かという定義が、見方や考え方によって違ってくると思います。「背後」という言葉をどう捉えるかもそうで、背後をとろうとした際に相手がどのように対応してくるのか、その対応によって、どんなところにスペースができるのかを考える上で大事なのは、そこに言葉をつけてあげることです。それを「ハーフスペース」や「ポケット」と言う人もいますし、僕も、自分たちなりの言葉をつくっています。

そして、その言葉のイメージが入ってくると、背後と手前の使い分けを自在にコントロールできるようになります。内側と外側の使い分けも同様で、そこの使い分けがまとまってくると面白くなります。でも、それも時間がかかることだと実感しています。

─ビルドアップを行なう上で使っている、オリジナルの言葉は何でしょうか?

岩政 1つは、手前のライン間あたりを意味する「ホール」です。もう1つは、ここを使えば、どこにでもアクセスしやすくなるという意味で、相手のボランチとフォワードの間を「リンク」と呼んでいます。「ホール」と「リンク」のエリア内には、また別の言葉をつくっています。

ゾーンは内側でも外側でもいいのですが、背後を使うということは、相手の1列目と2列目の間、2列目と3列目の間が空いてくるわけで、そこをいつどのように使うかを一つひとつ練習しています。そのスペースと自分たちが使いたい背後のスペースを組み合わせる際に、背後のこういうこと、その手前のこういうこと、さらに手前のこういうこと、そのうしろのこういうことといったものを一つひとつ理解していけば、全部つながったときに、そういうことかと、わかると思います。
(後編へ続く)



岩政大樹(北海道コンサドーレ札幌監督)(Photo:J.LEAGUE)
PROFILE
いわまさ・だいき/ 1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大学から2004年に鹿島アントラーズ入りし、07年からのJ1リーグ3連覇に貢献。10年には日本代表として南アフリカ・ワールドカップに出場した。13年に鹿島を離れ、テロ・サーサナ(タイ)、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCでプレーしたあと、18年に現役を退く。19年から文化学園大学杉並高校(東京都)、20年から上武大学で指導にあたったほか、解説業、執筆活動、ライブ配信、イベント参加なども精力的に行なった。22年に鹿島のトップチームコーチに就任し、8月から23シーズンまで監督を務めた。24年はハノイFC(ベトナム)を率い、東京学芸大を指導したのち、25シーズンから北海道コンサドーレ札幌の監督を務めている

「【特集】進化するビルドアップとその指導」を掲載した「サッカークリニック2025年5月号」はこちらで購入

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事