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2025-04-30

【サッカー】アスレティック・ビルバオ育成組織メソッド部門の責任者が語る、U-18年代に求められるプレーの原理とは[スペイン式良い指導者のあり方(後編)]

(Photo:Getty Images)

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サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
スペインのラ・リーガに所属するアスレティック・ビルバオで、育成組織メソッド部門の責任者を務めるランデル・エルナンデス・シマルの、「指導者」「トレーニング」「選手」「プレー理解」という4つのブロックを通じて、スペインで考えられている「良い指導者のあり方」を学んでいく連載。
Vol.17となる5月号では、ブロック4:「プレー理解」-テーマ2:「プレーの原理原則(スペースとプレーリズム)U-18編」を掲載している。
BBMsportsではそれを前後編に分け公開する。後編は要素を実際の試合に用いるディティールを公開。

文/ランデル・エルナンデス・シマル 翻訳/杉山智春

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【連載】スペイン式 良い指導者のあり方-より)

スペースとプレーリズムに対する取り組み

ここからは、スペースとプレーリズムの要素を実際の試合にリンクさせるために必要なディテールを考察します。

◆U‒18年代で求められるスペースの扱い方

グループでスペースを生み出すためには、味方と相手、そして、自身の動きがどのように行なわれるべきかを理解する必要があるでしょう。その際に意識するべき留意点は、次の通りです。

1.相手守備組織のバランスを崩し、スペースを生む

現代フットボールにおいては、スペースを扱うことが重要視されます。スペースを扱いながら動くことが、数的優位やポジション優位の獲得につながるからです。意図を持った動きによって、相手守備組織のバランスを崩せれば、スペースが生まれます。チームとしての規律や組織が明確になるこの年代においては、相手を意図的に攻略するためのアイディアが求められます。大切なのは、意図を持った動きですが、具体的にはどのような動きをすれば良いでしょうか。

(1)相手最終ラインへのランニング

(2)中央からサイドへの移動

(3)相手守備者を引き連れるランニング



こういった動きが例として挙げられますが、その目的は、相手守備組織の中にギャップを生み出し、守備ラインを突破することです。

2.ポジションチェンジにより、マークやスペースの不明確さを守備側に与える

現代フットボールにおいて多用される戦術の1つであるポジションチェンジは、マークやスペースの不明確さを守備側に与えます。プレー理解力が育まれてきているこの年代の選手は、相手守備ブロックを突破するための1つの方法として、ポジションチェンジに取り組むべきでしょう。ポジションチェンジの具体例は、次の通りです。

(1)縦関係のポジションチェンジ:FWとトップ下、サイドバックとサイドアタッカーなど

(2)ダイアゴナルのポジションチェンジ:サイドアタッカーとトップ下、サイドバックとボランチなど

(3)中央軸に位置する選手間のポジションチェンジ:ボランチとトップ下、センターバックとボランチ

こうしたポジションチェンジに取り組む際は、レーンやゾーンといったピッチに対する静的なスペースを理解することが、パフォーマンスの向上を助けるでしょう。

3.ローテーションにより、相手のマークに不明確性をもたらす

守備のオーガナイズがより組織化されている近年においては、ローテーションやポジショニングの変化によって、相手のマークに不明確性をもたらすことが求められています。それが、攻撃側に優位性を生み出すことにつながります。

相手のマークを外しながら、スペースを生み出し、自チームの攻撃にダイナミックさを与えることになるのです。具体例を見ていきます。

(1)ポジションのローテーション:サイドバック、インサイドハーフ、サイドアタッカー

(2)2列目からの飛び出し:トップ下とFW

(3)ダブルボランチのローテーション:ボランチ間でのポジションチェンジ



U‒18年代で求められるプレーリズムの扱い方

攻撃時のプレーリズムは、育成年代における重要な要素です。相手守備組織が統率される中で、そのラインを突破したり、スペースを生み出して使ったりするためには、プレーリズムの変化が必要不可欠。U‒18のように、技術面や戦術面の基礎がある程度構築された年代は、そうしたプレーを高いクオリティーでスピーディーに実行することが、特に求められます。流動的なボール回しや素早いトランジションなどを効果的に行なえると、チームとしての完成度が磨かれます。留意点は、次の通りです。

1.スピードの変化

ピッチでのエラーは、前進時のスピードに変化がなく、一定の状態で行なわれるからこそ起こります。指導者としては、状況に応じて、プレースピードに緩急をつけるように促す必要があるでしょう。スピードの変化は、オーガナイズを整える時間をつくったり、素早い攻撃によって、相手守備ブロックのエラーを引き起こしたりすることにつながります。次のような要素が、ポイントになります。

(1)プレーの文脈を読み取る:前進するべきタイミングを逃さないようにしなければいけません。

(2)状況に適した体の向きをつくる:前進するためのリアクションをとる準備を常に行ないます。

(3)中盤の選手をサポートする:どんな状況においても、中盤の選手の適したサポートが、前進を促します。

2.スピーディーな切り替え

守備から攻撃に切り替える瞬間は、相手守備ブロックが整備される前に攻撃できる限られた時間です。そのスピードと効率を高められると、相手のエラーを引き起こし、優位性をつくり出すことにつながります。その際に抑えるべきポイントを挙げます。

(1)限られた時間の中で状況を読み取る:優位性が存在するかどうかを見極めます。

(2) 高いクオリティーでボールを扱う:トップスピードによるパスやドリブルにおいても、ボールのコントロールを失わないようにしなければいけません。

(3)タイミングを合わせる:スペースを的確に扱うためには、その場所に現れるタイミングを見計らう必要があります。

3.相手を外す動き

プレーリズムについて触れる前に、念頭に置いておかなければいけないことがあります。それは、相手を外す動きです。相手を外せば、守備者が対応しづらい状況を生み出し、なおかつ、スペースが与えられます。緩急を使った動きや走る方向の変化により、優位性がある状態でボールを受けましょう。そのポイントは、次の通りです。

(1)スピードの加速:守備者がリアクションしなければならないような状況をスピードの加速によって生み出しましょう。

(2)ストップと加速:急にストップしたり、急に加速したりすると、守備側の対応が、難しくなります。ボールを受ける際の適したタイミングを考える必要があります。

(3)ダイアゴナルラン:守備者の対応を難しくするための1つの手段がダイアゴナルランです。これにより、守備ブロックのバランスが崩れるからです。



著者
ランデル・エルナンデス・シマル(Photo:BBM)
PROFILE
Lander Hernandes Simal / 1976年、スペインのビルバオ生まれ。スペイン1部リーグに所属するアスレティック・ビルバオのアカデミーにおいて、監督として指導の任にあたった経歴を持つ。現在は育成組織メソッド部門の責任者として、アカデミーや地域のクラブが適した選手育成を行なうための優れた指導者の養成およびトレーニングレベルの向上に努める。弁護士資格とスペイン・サッカー協会公認指導者ライセンスレベル3(UEFA-PRO)を持つ


翻訳者
杉山智春(Photo:BBM)
PROFILE
すぎやま・ともはる/ 1993年、神奈川県生まれ。大学入学時から指導者活動を始め、日本で3年間コーチを経験した(AC等々力、湘南ベルマーレ普及〈アシスタント〉)。2015年にスペインのビルバオへ渡り、現在はバラカルドCF(スペイン3部)のアナリスト兼U-16監督を務める。19年にスペイン・サッカー協会公認指導者ライセンスレベル2(UEFA-A)を取得した

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