1月17日 ニューバランスジャパン本社で行われたシューズ職人、三村仁司さんとの専属アドバイザー契約の発表会では、千葉真子さんが司会を務めてトークセッションが行われた。かつて三村さんのシューズを履いて世界で活躍した旭化成陸上部の宗猛総監督、千葉真子さん、そしてこれから世界に羽ばたこうという市田孝、宏兄弟が、三村シューズの魅力を語った。
千葉 三村さん、お久しぶりでございます。まさかこんなかたちでご一緒させていただくとは夢にも思っていませんで…。
三村 あなた、いつからやっているの?
千葉 ニューバランスとは5~6年前にご一緒させていただいたのですが、そのときから、トップアスリートを獲得するためには、特別注文のシューズが必要です、必要ですと言い続けて、念願の…ですよ。
三村 そうですか、うれしいです。
千葉 選手のときに印象的だったのは、世界大会に出たときに三村さんが事前に、下見に行ってくださって、その国の道路の硬さですとか、石畳があるない、そういったことに合わせてその大会で力が発揮できるシューズを作っていただいた。ともに戦ってくださる、なくてはならない存在だったなと、そんな印象を持っています。
三村 あなたも世界で3番になったからな。
千葉 そうなんです。おかげさまで。
三村 私が作った靴やね。
千葉 もちろんです。高校生のときから、ずっと私、三村シューズを履き続けて、活躍させてもらいました。三村さんをこの方々が激励に駆けつけてくださいました。ご登場ください。旭化成陸上部、宗猛総監督、市田孝選手、市田宏選手です。宗さん、ニューイヤー駅伝の連覇、おめでとうございます。
宗 おかげさまで2連覇することができました。ここにいる市田兄弟、2人が2年続けて区間賞。2人の走りで2連覇できたかなと思っています。
千葉 しばらく旭化成の黄金時代が続くのではないかなと、そんな予感もしました。
宗 続いてくれればハッピーですけどね。そんなに世の中、うまくいきません。
千葉 宗さんご自身もトップアスリートとして長年、ご活躍をされてきましたが、シューズにはどういうことを求めていらっしゃいますか。
宗 シューズで一番、僕自身が思っていたのは、まず、速く走れるシューズ、2つめは故障しないシューズ。この2つのシューズをつくってくれれば…。故障しないということは、多く練習できる。練習をすれば強くなる。そういうシューズが理想かなと思っていました。
千葉 いつごろから三村さんのシューズは…。
宗 たぶん、二十歳くらいからだと思うのですよね。もう、私も先日、65歳になりました。
千葉 お互いに…。
宗 そういう千葉もいい歳になっているけど。
千葉 もちろんでございます。
宗 それくらい長く付き合ってきた。僕らは、どういうシューズを履きますかと言われたときに、三村さんが作る靴を履く。そういうスタンスできていました。僕らは、三村 さんを頼りにやっていきたいなと思います。
千葉 宗兄弟といえば、走るフォームであるとか、体の傾け方とか、性格も対照的だなという感じがするのですが、私もずっと近くでトレーニングをさせていただきましたが。三村さん、いかがですか。
三村 走り方はピッチ走法、宗猛さんはピッチ走法で、茂さんはストライド走法。走り方も体の傾け方も違う。
千葉 (シューズづくりは)難しかったのではないですか。
三村 まあ、昔はものすごく薄い靴で走っていました。今から考えたら。だから、リズムよく走れておったと思います。今みたいに故障はほとんどしなかったです。
千葉 やっぱり変わってきているんですか。そういう点は?
三村 相当変わっていますね。
千葉 昔の選手のほうが、体が強かったということ…。
三村 故障しにくいような脚でしたね。
千葉 そういう時代の移り変わりのようなものもあるのですね。現役のお二方にも伺いたいと思います。シューズにどういうことを求めていらっしゃいましたか。
孝 僕たちランナーにとって、シューズというのは体の一部であると思っている。それだけ大事なものだと僕は思っているので、強くなるため、速くなるためには練習が第一にあって、それをケガしなで継続して、質を求められる頑丈で走りやすいシューズを僕は求めています。
宏 宗さんからもあったように故障しないことだったり、スピードを求めたりというのが一番なのですが、そういうことをできるからは、フォームの改善だったり、そういうところからのアプローチも大事。フォームの改善しやすい靴を求める。ケガをしても、その靴のおかげで走りができる。その信頼関係を求めています。
千葉 市田兄弟はフォームも比較的似たようですね。
三村 似ていますよね。
千葉 髪が長いほうがお兄さんの孝さん。私も髪型で見分けさせていただいています。
三村 私はわかりませんよ。どっちがどっちだか。
千葉 2人の特徴はそれぞれ。
三村 いろいろあると思うのですけど、2人とも資料がないのでわからないのですが、測定して、基本として弱いところを強くする。弱いところは直していくということを見つけてあげて、そうでなかったら、故障するし、疲れやすい。できるだけそういうところは綿密に測って、その選手に合ったクッション性とか、フィッティングが大事になってくるのです。そのへんを考えて作っています。
千葉 そうなんですよ。三村さんといえば、測定をしていただいたときに、あなたは右の足首が柔らかくなっているから、こういったトレーニングをしたほうがいいよとか、そういうことまで細かく指導していただける。2人はどんなことを言われたことがありますか。
孝 僕は、測定をしてもらったときにサッカーをしているということはご存じでなかったのに、サイズ差を見て、直観でズバズバ言ってくださることで、こういうところが弱いんだということを気づくことができる。自分に合ったシューズをつくるだけでなくそういうこともサポートしてくださるので、心強いです。
千葉 具体的にはどういった左右差があったのですか。
孝 僕は足は利きなんです、サッカーをするときには。なので、右の支えが弱くて、よく三村さんには、左よりも右を数回でもいいから多く回数を増やして、スクワットなどをしなさいと言われたことを今でもやっています。
宏 自分も年に2~3回しかお会いすることはないのですが、そのときに宏は左のほうの脚の筋肉が足りないから、カーフレイズを50回を何セット。左の脚の振り上げたりというトレーニングや、左のアーチが落ちるやすいから練習の前後にしっかり竹踏みをして、右と左のバランスをなくしていくことを強く言われたりしました。
千葉 三村さん、いかがですか。
三村 今、言われたように弱いところを強くしていく。それをみなさん、わからないから。誰もわからないじゃないですか。それを言って上げる人がいれば、選手も助かると思うし、鍛えやすい、故障しにくくなる。そうなれば練習の量ができますからね。今は、宗監督の時代と比べて僕は練習の量が減っていると思うのですが、どうですかね。
宗 減っていますね。
三村 それでは世界では通用しない。
千葉 やっぱりそれは故障をしないために…。
三村 指導者が故障をするからこういうことはできんという思いが強いと思うのです。だから、故障をせんようにするにはどうするか。今、言ったようなことをしないといけないんですよ。無理なんですよ。練習ができるということは強くなるということ。だから、女子でも高橋尚子にしたって、有森裕子にしたって、野口みずきもそうなのですが、(1カ月に)1500km走ったとか、1日に70km走ったとか。今はそういう選手はいないですよ。
宗 最近、男子の中でも、ぼつぼつ、そういう選手が出てきています。まだ、そういう選手がエリート選手かというと、そうではなくて、2番手、3番手くらいの選手が、コツコツ距離を踏むようになってマラソンで、だんだん上がってきているという選手はいます。最近は。
千葉 指導者の立場から宗さんは見られて、練習量が減っているなというのは、選手の様子を見ながら、増やしていこうというスタンスなのですか。
宗 練習量というのはですね、ポイントの練習(強化練習)は入っていない。スケジュール上にない、そのときにどういう練習をするかなんですね。今の世界でいうと、せいぜいポイント練習を入れても、1カ月で10~13回あればいいほうで、20日くらいはジョギングなんですよ。ただ、本当に強くなっていく選手というのは、ジョギングの使い方がうまいんですよ。だから、朝走る、夕方走る。どれくらい走るかというと、これが月になったら、200km、300kmの差になります。それが1年だったら、10年だったら、すごい距離の差になる。そういうことを考えると、やはり、普通、なんでもないジョギングというそれをどういうふうに有効に使うかというのが、昔はけっこうあったけど、最近の選手は、ジョギング=休みみたいな、それが、最近の子は多いなあと感じますね。
千葉 なるほど、自主的なトレーニングで距離を伸ばしていくということなんですね。シューズの話に戻りたいのですが、三村さんのここがすごいなと思うところは、宗さん、どこですか。
宗 昔の三村さんが作る靴は、そんなに履けたもんじゃないという時期もありました(笑)。しかし、三村さんはこういう口ですから、口でうまく言われながら、履いたような記憶がもあるし、「この靴は、全然足に合わんよ」と「そんなことはないよ。わしが作って靴だから」と。そうしたら、あとで「ごめん、ごめん、間違った住所に送ったわ」と。そういうことが昔は結構あったんです。しかし、それだけ自分の靴には自信をもっていたということでもあります。それだけ靴に対する思い入れはあったと思います。
千葉 現役のお二方、ここがすごいということを教えてください。
孝 僕たちも高校のときから今に至るまで、三村さんの作ったシューズを使わせていただいて、本当に大きなケガなくここまでやって来られたのは、競技を続けてこられているのも、三村さんのシューズのおかげだと僕は思っています。
宏 三村さんにシューズを作っていただいたからには、という思いもあったり。その分、シューズが先走っていることもあるので、自分力も、シューズに見合ったような力をつけていくことが大事なんだなということをシューズから学んでいます。
千葉 ありがとうございます。信念をもってシューズを作り続けている三村さんですけど、先ほど、70歳になるということでしたが、限界はないということでよろしいでしょうか。
三村 そうですね。やはり限界がないとコマーシャルではありましたが、限界がきたときはそれで終わりですからね。やはり選手が求めている限り、期待されるということですから、できるだけ選手が困らないようにできるだけ長い間、できたらいいなあという感じはしています。
千葉 失礼ですけど、年齢的にいっても集大成のときなのかなと思うのですが、その点はどうですか。
三村 最後のチャンスやと思いますよ。
千葉 陸上人生をかけて…。
三村 できるだけ前向きに頑張っていきたいと思いますけどね。
千葉 そんな三村さんの決意を受けて、%%宗%%監督、いかがでしょうか。
宗 僕たちは付き合いが45年くらいになります。三村さんのシューズを求める選手はまだいます。ぜひそういう選手の期待に応えてほしいと思います。それが1年でも5年でも10年でも長ければ長いほどいい、そう思いますね。
三村 頑張ります。
千葉 最後に三村さん、力強い抱負をもう一声、お願いいたします。
三村 本当に、ニューバランスと契約したということが、表立ったようですけど、お互いにプラスになるように、ミムラボもプラスにならないといけないし、ニューバランスもプラスにならないといけないんですよ。そういうふうことで頑張っていきたいと思います。本当にまだまだ私も勉強することもあると思います。ニューバランスも真剣に向き合って、ナンバーワンになりなと、強い気持ちをもってやっていただきたいと思います。そういう気持ちで私も頑張っていきたいと思います。
千葉 そんな決意を受けて、市田兄弟、今後の抱負をお願いします。
孝 これからのニューバランスと三村さんの取り組みを楽しみにしています。市民ランナーやアスリートの人も、楽しみにしていると思うので、ニューバランスとミムラボがコラボしたシューズを履いて、地に足をつけて、これから世界の舞台で活躍できるように頑張りたいです。
宏 まだ宗さんからは駅伝の選手でしかないとはっきり言われているので、トラックやマラソンに広がっていけるように、この会見の前に、千葉さんから言われたように、マラソンは5回目くらいから感覚をつかめてくると、そういう言葉にも甘えながら、マラソンの道を切り開いていけるような競技人生にしていきたいと思います。
千葉 世界の大舞台で三村さんのシューズを履いて、表彰台に立つ選手を見てみたいと、期待しています。本日は、三村さん、宗監督、市田孝、宏選手、ありがとうございました。