オランダ、イングランド、そしてスペインで得点王となったルート・ファンニステルローイ。数々の名ゴールを決めたゴール・ハンターは2012年に引退すると指導者として歩み始めた。指導指針と選手育成に対する提言を聞いた。
出典:『サッカークリニック』2019年5月号
上の写真=オランダを代表する点取り屋だったルート・ファンニステルローイ。指導の道に進み、現在はPSVアイントフォーヘンのU-19で監督を務めている
(取材・構成/アンドリュー・ハスラム 翻訳/山中忍 写真/gettyimages)
ファンニステルローイ(以下、VN) 正直に言うと、「これ」という出来事を挙げられない。というのも、ボールに触っていない記憶がないと言っていいほど、記憶の中の自分はいつでもボールと一緒だ(笑)。家の外ではもちろんボールを蹴っていたし、家の中では家財を壊さないように小さくて柔らかいボールを蹴っていた。寝るとき以外は足元にボールがあったような……。自分でもあきれてしまうような話だが、「それほどサッカーが好きだった」としておこう。でも、選手としてはそうした日々がプラスに働いたと思う。
VN そうだ。サッカーを始めて以来、センターハーフとしてプレーしていたし、『デンボス』(現在はオランダ・リーグの2部所属)でプロデビューしたときも中盤の選手だった。ストライカーとして本格的にプレーするようになったのはプロになってから数年後のことだった。ストライカーとしては、シュートを打つ前にラストパスを引き出す動きも長所だと感じているが、ミッドフィルダーとしてパスを出していた経験がその点で生きていると思う。もっともストライカーとなり、大好きだったボールに触っている時間が大幅に減ってしまったのだが……。とは言え、触れている時間が短くなった一方で、わずかなタッチでゴールを決めることでボールとの関係が濃密になったとも感じている(笑)。だから、ストライカーというポジションもすぐに気にいった。
VN チャンピオンズリーグは子供の頃から憧れの舞台だった。だから、入場のときなどにチャンピオンズリーグのテーマ曲を聞くたびに「食い入るように試合を見ていた自分」を思い出した。フィールドに足を踏み入れ、公式ボールに触れたときには宙を舞うような気分さ(笑)。「空でも飛べる」、「今日のオレに不可能はない」とさえ思った。
VN ボールに右足を当てさえできれば、ボールが浮いていようが、ヒットする直前に変化しようが、ゴールに押し込める自信があった。シュートコースが狭くても、パスが強烈だとしても関係ない。自分の体勢だって気にならなかった。だから、「自分のスタイルは右足」と言っていいだろう。味方に求めるとしたら、「右足にボールを当ててくれ」だ。
VN 言葉にすれば、ボール保持者のポジションとディフェンダーのポジションを瞬時に感じ取り、しかもそれに適したポジションを割り出してそのポジションに入れていた、となるだろう。しかし、「ボールを最も受けられそうな場所が分かった」と言うか、直感的に、そして自然に体が反応していた、と言うべきかもしれない。もちろん、すべてを感覚任せにしていたわけではない。常に、チームメイトの持ち味やクセといったものを把握するように心がけていた。そうしていたからこそ、予期した場所でボールを受けてフィニッシュできていたのだろう。
VN 長いキャリアの間には、悔しい思いをしたときや挫折を味わったときもあった。「やめたい」と思ったこともある。しかし、そうした思いを引きずることはなかった。すべてのサッカー選手が経験することだと思っていたし、「サッカーはオレの人生そのもの。落胆している時間はない。絶対に乗り越えられる」と苦しいときにこそ、自分に言い聞かせていた。そうして自分を奮い立たせると、不思議なもので次の試合ではネットを揺らしていた(笑)。キャリアはその連続だ。そもそも、最初から最後まで思い通りに運べるキャリアなんてあり得ない。(後編に続く)
後編はこちら→https://www.bbm-japan.com/article/detail/6275
ルート・ファンニステルローイ(Ruud Van Nistelrooij)/本名はルトヘルス・ヨハネス・マルティヌス・ファンニステルローイ。1976年7月1日生まれ。デンボスでプロとなり、ヘーレンフェーンを経てオランダの強豪、PSVアイントホーフェンに加わった。その後、2シーズン連続で得点王に輝き、2001―02シーズンより移籍したマンチェスター・Uでも得点王となり、さらに06―07シーズンから加わったレアル・マドリードでも得点王となった。その後、ハンブルガーSVとマラガでプレーして2012年に引退。チャンピオンズリーグでも3度の得点王となった(01―02、02―03、04―05シーズン)。オランダ代表としては70試合出場35得点
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