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2019-04-30

強豪クラブに学ぼう! 全国準優勝チームの 「ポジショニング指導」

2018年度の『JFA 全日本U-12サッカー選手権大会』で準優勝に輝き、「最も印象的なチーム(MIT)」としても表彰されたのが大阪市ジュネッスFC(大阪府)だ(優勝チームが川崎フロンターレ<神奈川県>)。テクニカルな選手たちを多数育て上げて成果を挙げているのが、クラブの代表も務める清水昭彦・ジュニアユース監督と清水亮・ジュニア監督である。2人にポジショニングを指導するときの考え方を聞いた。

(出典:『ジュニアサッカークリニック2019』)

いいポジショニングは
相手によって異なる

――正しいポジショニングはどう指導していますか?

清水亮(以下、亮) 正しいポジショニングは試合状況によって変わるものです。守備に関して私たちはチームとしての約束事を意識させ、約束事を正しいポジショニングとして落とし込むようにしています。その約束事が対戦相手の特徴によって変わるのです。守備のポジショニングと守備の仕方が変わりますし、ゲームが始まってからも相手の出方に応じて変更できなければいけません。
 1人でボールを奪えるのが理想ですが、相手の能力が高いときは思い通りにボールを奪えません。そのため、組織的な守備をするよう心がけています。例えば、無理をしてボールを奪いに行ってかわされるくらいなら、「シュートは打たせてもいい。けれどキーパーが防ぐことができるコースに打たせよう」と言っています。特に、1人目がかわされたときは、2人目は無理をせずコースを限定するポジションに入り、キーパーが対応しやすい状況をつくることを意識させています。

清水昭彦(以下、昭彦) シュート・コースを限定するポジショニングは相手の利き足によっても変わります。
 加えて、前線からの守備を基本としていますが、相手の特徴によって守備の仕方を変えます。サイド攻撃を得意とするチームであれば、縦を切って中央を向けさせたほうが守りやすくなります。反対に中央突破が得意なチームに対しては、中央を切って外側に押し出すように指示しています。

亮 相手がディフェンス・ラインでボールを回しているときはサイドに押し出します。ただし、サイドでハーフウェーラインを越えられたときは、サイドの深い位置まで入られるほうが嫌だと思っているため、あえて縦を切り、相手を中央に入らせてボールを奪うようにしています。

昭彦 なぜなら、ジュニア年代ではサイドを縦に突破してクロスを入れてくるチームが多いものの、中央を崩すのがうまいチームはあまり多くないと思っているからです。縦に行けて、中央に入っても崩せるサイドプレーヤーは多くはいません。そのため、サイドでは縦を切る守備をする試合が多いのです。

亮 8人制は11人制とは違い、サイドにかける人数が少なくなりがちです。そして、左利きの選手を左サイドに、右利きの選手を右サイドに配置するチームが多いです。
 例えば、(守備側から見て)右サイドにいる左利きの選手に中央にカットインしてシュートを打たせるにしても、右足でのシュートを得意とする選手はほとんどいません。通常は左足でシュートをしてきます。すると、キーパーから見てゴールの左隅は狙いにくく、右上を狙うことが多くなるため、キーパーは右上を防ぐポジションをとることを意識すれば良くなります。そしてディフェンダーは、ゴール左下とパスを阻止するポジションをとるのが、この場合における正しいポジショニングです。マーカーとキーパーでシュートを防ぐイメージです。

――そうした正しいポジショニングはどのように教えているのでしょうか?

亮 練習メニューで落とし込もうとしても限界があります。試合中に現象が起きたタイミングですぐに伝えて理解してもらうようにしています。ミニゲームを行なっているときであれば、一旦止めて伝えますし、公式戦でも対象選手を呼んで正しいポジショニングを伝えたりします。
 ただし、指示は細かく与えますが、その指示に忠実に動くだけではいけません。状況に応じてベストなポジショニングを選べる選手になってほしいのです。
 特に、約束事の多い守備と違って攻撃では状況判断を重視しています。「攻撃の形」を提示して練習しますが、「攻撃の形の裏を突くプレー」も出るのを期待しているのです。「指導者が『右に出そう』と言った指示をおとりにしてプレーするくらいでなければいけない」とアドバイスしています。

昭彦 指導する際は、教える部分と考えさせる部分のバランスをとるのが大事です。「いいポジションがどこか考えよう」と声を掛けるだけではいけません。正解はたくさんあるので、子供たちにチャレンジさせながら、間違えたポジショニングをしたときにだけ正しいポジショニングを提示するようにしています。

ボールを受けなくても
相手が困る位置へ動く

――練習を見ていると、選手の発想に任せていることが多いと感じました。そして印象に残ったのが、サイドを意識したトレーニングが多いということです。

亮 ジュネッスは2018年度の『JFA 全日本U-12サッカー選手権大会』で準優勝を果たしましたが、1人で突破できる能力の高い選手は多くありません。そのため、ピッチを広く使った組織的な崩しを狙っています。特に、相手の守備を開かせてから中央を崩すことを攻撃のベースとしています。サイドの選手が中央に絞ったら、ほかの選手がサイドに移ります。フォワードが中盤に下がってきたらサイドの選手がトップに移動するなどの流動的なポジショニングを意識させています。「ここに動けばチャンス」と思えば動くべきですし、同時に味方が空けたポジションをカバーすることも意識させています。

昭彦 相手は1つ目のアクションに対しては神経を研ぎ澄ませているものですが、フォワードが走ったことで空いたスペースにサイドハーフが飛び込んでボールを受けたりする「3人目の動き」には、ケアが手薄になりがちであり、対応しづらいものです。そのため、おとりとなる選手がつくったスペースを3人目や4人目が使う動きを意識させています。
 ジュネッスの場合、おとりになる選手のポジショニングが非常に重要です。ボールを持っていなくても、相手キーパーやディフェンダーを邪魔できるポジションをとるなど、相手にとって嫌な動きをし続ければ、周囲の選手はプレーしやすくなります。相手の間に入ったり、サイドに張ったりしてボールを引き出すのはそれほど難しくありませんが、ボールを受けなくても相手の守備を戸惑わせる動きも有効だということを知ってほしいのです。

亮 大事にしてほしいのは、「リズム」、「テンポ」、「タイミング」の3つです。個性が異なる選手たちがいる中、誰かがおとりになって動き出したりするから、いいサッカーができるのです。特に、タイミングは大切。受け手がいいポジションにいいタイミングで入り、出し手もいいタイミングでボールを出せると、攻撃がうまくいきます。18年度のチームにはセンスある選手が複数いたため、周りの選手の動きが引き上げられていました。

――1人目の動き出しを合図にした連動した崩しを実行するためには「周囲を見る意識」も大切かもしれません。

亮 周囲を見る力は大切です。練習では、ボールを出すときはぎりぎりまで相手を見ることを意識させています。相手がポジション移動した瞬間がパスの出しどきでもあるからです。
 相手のポジショニングをしっかり見てプレーできる選手を中盤で起用しています。ただし、小学4年生までは「いいポジショニング」を理解できる子供はほとんどいないでしょう。パスのタイミングがいい選手、何気ないパスでも受け手の利き足を意識して出せる選手などをまずは見てあげ、ポジショニングのレベルも少しずつ引き上げていきたいと思っています。

昭彦 ジュニア年代は技術的に未熟です。パスがずれてしまう選手がほとんどです。特にプレッシャーがかかった状況や動きながらのパスは難しいものです。その中でもうまい選手は空間認知力に優れており、最適な位置にパスをできたりします。そうした選手はポジショニングもいい傾向にあります。

攻守の切り替え時の
ポジショニングを重視

――いいポジションをとれない選手に対してはどのように修正しているのでしょうか?

亮 車の運転と同じです。「スピードを落として移動しよう」と伝えています。相手と一緒に動いて考えてしまうから、いい判断が伴わないのです。一度止まり、「どこに動くか」を考えてから動けばいいのです。反対に、相手が止まったタイミングで動き出せば、それは効果的なポジショニングにもつながる可能性があります。

――練習では、攻守が切り替わるタイミングでのポジショニングを意識させているのが印象的でした。

亮 賢い選手は連続して動くことができます。「キーパーがセーブしたときに次にどこに動けば、いいカウンターにつなげられるか」を考えた守備ができます。
 単に守備をするのではなく、ボールを奪ったあとのことも考えながら守備ができれば、切り替えの際の1歩目が速くなります。ジュネッスでやっている「軸とりゲーム」(下で紹介しているトレーニング・メニュー)はその感覚を養うのに最適です。体の向きや利き足など、ボールを持った選手の状況に応じたポジショニングを考えてプレーできるようになります。

昭彦 味方がいい状態でボールを持てたら前線に飛び出すなど、ボール保持者の状態を見てポジションを調整し、相手より少しでも優位な状況をつくります。しかし、ボールを奪った選手の状態がまだ悪かったら、攻撃の準備をしても無駄になるので、守備のポジションを考えなければいけません。そのときは「パスをもらうため」か「ボールを奪い返すため」にボール保持者の背後に回るのがいいポジショニングと言えるでしょう。
 相手がボールを持っているときも考え方は同じです。プレッシャーのない状態で相手にボールを持たれたら、攻撃の選択肢を増やされます。いい状態でパスが受けられないようにするため、まずは間にパスを通させないポジションをとるべきです。

亮 全国大会のレベルになると、少しのポジショニング・ミスが失点につながります。選手は神経をとがらせて対応しなければいけません。2018年度のチームは試合をたくさん経験することで子供たちの危機察知能力を高めることができました。相手に与える隙をなるべく減らせた結果が準優勝という成績につながったと思っています。

大阪市ジュネッスFC
のトレーニング・メニュー紹介

「軸とりゲーム」

進め方:(1)グリッド内で「『2対2』+2サーバー」。(2)ボール保持側は後方のサーバーを使って「3対2」の状態となり、攻撃方向にいるサーバーにタイミングを見て縦パスを入れる。(3)縦パスを受けたサーバーは攻撃側の1人と入れ替わり、攻撃方向を変える。(4)守備側がボールを奪ったら攻守交代。(5)続けて既定のパスに成功したら勝ちとする

ポイント:(1)守備側は縦パスを通されないポジションを意識しながらインターセプトを狙う。(2)攻撃側はサイドに開いて守備側の間隔を空け、中央に縦パスを通しやすい状況をつくる。サイドに開くだけでは狙いが読まれてしまうため、サイドに開く動きと中央に絞る動きをタイミング良く繰り返す

取材・構成/森田将義
写真/佐藤博之、森田将義

指導者プロフィール

写真左=清水昭彦(しみず・あきひこ)/1983年7月27日、大阪府生まれ。大阪市ジュネッスFCの前身である大阪市FCでプレーし、桃山学院高校在学時から指導を始める。丸橋祐介(現在はセレッソ大阪)らを育てた。現在はクラブ代表とジュニアユース監督を兼務。B級ライセンスを保持している

写真右=清水亮(しみず・りょう)/1986年2月21日、大阪府生まれ。兄である昭彦氏同様、大阪市FCでプレーし、阿倍野高校在学時から指導を始める。2004年にジュニア監督に就任し、『JFA 全日本U-12サッカー選手権大会』に2回出場(18年度は準優勝)。18年度はバーモントカップで優勝を果たした。D級ライセンスを保持している

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