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2019-03-29

「守備は究極のリアクション」東京五輪世代のJリーガー、杉岡大暉の「1対1」守備論

2020年の東京オリンピックでの活躍が期待される1人、U-22日本代表の杉岡大暉(湘南ベルマーレ)は「1対1」での強さが特長だ。ジュニア年代の頃から球際の強さを意識づけられ、カテゴリーが上がるごとに周囲の使い方も身につけた。成長過程にある20歳の左サイドプレーヤーは、ボール保持者との勝負にいかに臨んでいるのか。「1対1」のさまざまなケースにおける守備対応を聞いた。

(出典:『サッカークリニック』2019年4月号)

※上の写真は2018年の『YBCルヴァンカップ』決勝のときのもの。現在は背番号を29から5に変え、湘南ベルマーレで3年目のシーズンを戦っている。攻守両面において「1対1」で強さを発揮する

ボール保持者を意識しすぎない

――杉岡選手が守備者として「1対1」の場面を迎えたときに心がけているのは何でしょうか?

杉岡 ボール保持者と対峙したときに意識しているのがステップの踏み方です。ステップをうまく踏めなければ相手に対応できないと思っていますし、往々にして相手に振り切られてしまいます。
 どちらかと言えば、僕は足が速くない選手です。相手にスピードでかわされることが昔は何度もありました。そのため、高校時代からステップの踏み方を意識して取り組むようにしたのです。今では両足をうまく使ってステップを踏めるようになり、相手に対応できるようになりました。

――自分の足の遅さをカバーするために考えたのが「ステップをうまく踏めるようになること」なのですね。

杉岡 スピードとは関係なく、トレーニングを積めば、誰でもステップを正確に踏めるようになります。僕はステップをスムーズに踏めるようにし、以前よりも増して相手の変化に対応できるようになりました。

――「1対1」の守備を良くするためには、ステップをうまく踏めるようになることのほかにどんな要素が必要でしょうか?

杉岡 相手との間合いの取り方についても重視しています。後手に回りがちな守備においても、自分の間合いで守れるようにしたいのです。
 加えて、ボール保持者と正対するときに重心を落としすぎないようにすることも考えています。相手が動いた方向にスムーズに重心を移動させながら、ついて行くようにしているのです。

――特に育成年代では、「1対1」の場面で足先だけで奪いに行く守備が多く見られます。

杉岡 確かに多いですよね。少し違いますが、僕にはこんな思い出があります。小さい頃から不用意に足を出さないようにしていたのですが、中学生から高校生の途中までは、相手の意表を突くタイミングで足先だけを出したりして奪うのを狙っていたのです。ただし、そのプレーはある意味賭けのようなプレーで、確実性を欠いたものでした。高校生の途中からはやっていません。
 僕には信念と言うか、「守備は究極のリアクション」という考えがあります。ボール保持者の動きに的確に、瞬時に反応できるのが真のディフェンダーだと思っています。確実性を欠いたプレーをしていたら、チームメイトに迷惑をかけたり、失点につながったりしてしまいます。
 特に守備面においては確実性を高めることを考えてきました。その中で、ステップをうまく踏んだり、自分の間合いに相手を誘い込んだり、重心を落としすぎたりしないようにすることを意識していました。

――重心について言及していますが、実際はボール保持者と対峙するときに重心が前にかかったりして、相手の変化に対応できないことがよくあります。杉岡選手はどうしていますか?

杉岡 力を抜いてプレーするように心がけています。感覚的な説明になるかもしれませんが、力が入った状態で相手と対峙すると、重心が落ちて、前屈みになったりしてしまうものです。それでは相手についていけません。意識的に力を抜けることが大切なのです。
 最近、湘南ベルマーレのトレーナーから言われた言葉があります。「自分の背中をもう1人の自分が見ている感覚を持とう」です。日々の練習では、この言葉を大切にしています。僕がボール保持者と対峙したときは、目の前のボールや相手に集中しすぎることなく、「自分が『1対1』に取り組んでいる局面を自分が俯瞰して見ているような感覚」を持つようにしているのです。そのようにして、「1対1」の局面になっても力まずに臨むようにしています。言葉で表現するのは難しいのですが、そんな感覚でやっています。

――ボール保持者と「1対1」になったとき、どこを見ていますか?

杉岡 ボールを見ますが、ボールを凝視したりはしません。ボール周辺をぼんやりと見る感覚です。余裕があるときは相手の表情も見ます。ぼんやり見るからこそ、変に意識しすぎず、自分に余裕を持たせることができていると感じています。

――相手との間合いに関する話も詳しく教えてください。

杉岡 相手がボールを動かしているときに一気に間合いを詰めることができれば、ボールを奪いやすくなります。ただし、詰めるときのタイミングが少しでも遅れたりすると入れ替わられたりします。他のエリアと比べてスペースのあるサイドでそのミスを犯してしまったら、大きなピンチを招きかねません。
 自分のスピードと相手のスピードをよく考え、ときにはじっくりと間合いを詰めていくことが大切です。間合いの取り方は自分でもまだ課題としている点です。

――相手と自分の力を見て対応の仕方を考えるということですね。例えば、日本代表の伊東純也・選手(ヘンク)のようなスピードのあるサイドアタッカーが相手だとしたら、どう対応しますか?

杉岡 最も怖いのが、縦に行かれて「縦勝負」になってしまうことです。伊東選手のようなタイプには、縦にではなく、なるべく斜めにドリブルさせなければいけません。斜めにいかせながら詰めるようにしています。もちろん、奪うタイミングも大切です。

――では、サイドからのクロスを得意としたり、ポゼッションに積極的に関わったりするタイプの選手と対峙するときはどうでしょうか?

杉岡 伊東選手のようなタイプとは違い、近くに間合いをとるでしょう。サイドプレーヤーはドリブラーかクロサーかに分かれると思いますので、対応をうまく変えるようにしています。

2018年の『YBCルヴァンカップ』では決勝ゴールを決めてチームの初優勝に貢献。MVPにも輝いた

試合における「1対1」は少ない

――サイドハーフ、あるいはサイドバックの選手として、ボール保持者との1対1になったときは自分の背後をとられる怖さもあると思います。

杉岡 そうですね。ゴールから遠い自分のポジションで言えば、相手にシュートを打たれることよりも、相手に背後をとられて広大なスペースを使われることのほうが怖いです。サイドでの守備では特に注意すべきこととして肝に銘じています。

――ドリブルで仕掛けてくる相手に対してアタッキング・サードまで下がってしまい、簡単にシュートを打たれて失点するシーンもよく見かけます。

杉岡 実は、判断の難しい状況なのです。例えば、ミドル・サードであれば、ゴールまでまだ距離があるので、思い切って前に出て守備に行けると思うでしょう。しかし、実際は自分の背後をとられる怖さも感じてしまい、ゴールが徐々に近づいてきているのに飛び込めない、ということが往々にしてあるのです。

――では、自分が「1対1」の状況になっているときは、「周囲の状況」をどのように意識していますか?

杉岡 意外かもしれませんが、試合中に純粋な意味で「1対1」になることはそれほど多くないのです。自分の周りには、ほかに味方がいますし、相手もいるからです。であれば、周囲の状況も意識し、コーチングによって味方を動かしたりして、不利な状況を自分たちが優位な状況に持っていけることが大切です。

――「『1対1』にさせないコーチング」とは何でしょうか?

杉岡 例えば、自分がタッチライン際で相手と「1対1」になっているときに、味方に声を掛けて寄って来させて中央を切らせ、僕が縦を切ります。それができれば、相手には「1対2」の数的不利な状況と感じさせることができ、あまり仕掛けてきません。試合ではさまざまな状況が考えられますので、味方をうまく使ったりして自分たちが優位に立てるように普段の練習から取り組んでいます。先ほど挙げた伊東選手のようなドリブラーが向かって来たら、まずは仕掛けさせない取り組みが大切です。

――杉岡選手は年代別日本代表でもさまざまな国の選手とサイドでマッチアップしています。相手の情報が少ない場合はどうしていますか?

杉岡 まずは相手に入れ替わられないことに意識を向けています。その上で、試合中は選手の特徴を見極めながらプレーします。相手の特徴をつかんだら、その特徴に合った対応をします。
 特に、海外選手のスピードはとても脅威です。こちらに向かって来る迫力が日本の選手とは違い、感じる疲労度もまったく違います。個人的にも、積極的に仕掛けて来るような相手への対応はあまり得意ではありません。
「1対1」の場面は集中力を必要とします。「1対1」の場面が増えれば増えるほど、肉体的、精神的な疲労度が高まります。そのため、先ほども言ったように、相手を意識しすぎずに力まないことや、味方をうまく使うことなどが重要になります。

3月26日まで行なわれた『AFC U-23選手権タイ2020予選』でもU-22日本代表として3試合中2試合に出場

杉岡大暉のトレーニング・メニュー紹介

練習(1) 守備におけるステップの向上

進め方:(1)図1のようにミニ・ゴールを3つ設置(設置場所は変えてもいい)。(2)ミニ・ゴールを背中で隠すように、サイドステップやバックステップを踏みながら移動する
ポイント:ゴールの場所を意識し、スムーズにステップを踏む

練習(2) 「1対1」での相手をサイドに寄せる守備

進め方:(1)縦長の小さめのグリッドを使用した「1対1」(サイズは変えてもいい)。(2)グリッド中央でマッチアップする形にし、ボール保持者はゴールを狙う。(3)守備者はボール保持者からボールを奪う
ポイント:グリッド両サイドのラインをタッチラインに見立てて、守備者はボール保持者をサイドに追い込む

プロフィール

杉岡大暉(すぎおか・だいき)/1998年9月8日生まれ、東京都出身。レジスタFC、FC東京U-15深川、市立船橋高校でプレー。高校2年生のときにインターハイ準優勝。3年生ではキャプテンを務め、インターハイ優勝を成し遂げた。2017年に湘南ベルマーレに加入。1年目からレギュラーの座をつかみ、18年のルヴァンカップ決勝で決勝ゴールを挙げて優勝に貢献し、MVPを獲得した。主に左サイドの選手として活躍。年代別日本代表にも定着しており、17年にはU-20日本代表としてU-20ワールドカップに出場。現在はU-22日本代表として、20年の東京オリンピック出場を目指す

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