取材・構成/岡崎篤(UEFAプロライセンス保持者) 写真/gettyimages、BBM
ランデル(以下、L) では、システム論に入る前に『ポジション・サッカー』と『コラボレーション・サッカー』について話しましょう。その後、システムの話に移りたいと思います。
L 非常に簡単に言えば、以下のようになります。
◎ポジション・サッカー:選手のポジションを前提にボールを動かし、相手を動かすサッカー(選手にはボール・ポゼッション力が求められる)
◎コラボレーション・サッカー:ポジショニングよりもスペースにパスしたり、走り込んだりしてスペースを使うことを重視するサッカー。積極的にスペースに走り込んだり、前の選手を追い抜いたりして「前に関わっていく」サッカーとも言える
あるいは、ポジション・サッカーは主にボールを動かして攻撃を構築するサッカー、コラボレーション・サッカーはスペースを使って攻撃を構築するサッカー、とも定義できます。「攻撃の手段にするものが根本的に違う」と言ってもいいでしょう。
また、2つのサッカーでは「つくり出す(利用する)スペースの大きさ」がまったく異なります。
◎ポジション・サッカー:選手同士の緊密な連係プレーが求められるため、選手同士の距離は近くなる。しかもその陣形内のスペースを使うため、生まれるスペースはさほど大きくない。さらに、攻撃時、(全体を押し上げて陣形をコンパクトに保ち)大きくないスペースを最大限有効に使うための素早い判断と高いボール・テクニックが必要になる
◎コラボレーション・サッカー:守備位置が低いため、攻撃時に利用できるスペースが比較的大きい。カウンター・アタックをイメージするとその攻撃スタイルを理解しやすい。コラボレーション・サッカーはカウンター・サッカーと同じような意味で使われることもある
L すべてのシステムにはメリットとデメリットがあり、各システムには各スタイルに対して向き、不向きがあるのも事実です。とは言え、「1つのスタイルに適したシステムは1つ」と考えるべきではありません。極論すれば、すべてのスタイルはすべてのシステムによって実現可能、と認識すべきなのです。この認識を前提にした上で細部を詰め、ポジション・サッカーに適したシステム、コラボレーション・サッカーに適したシステムに分類してみます。
ポジション・サッカーに適しているのは「深みのあるシステム」と言えます。ここで言う「深み」とはラインの数が多いという意味で使っています。一方、ライン数の少ないシステムはコラボレーション・サッカーに適していると考えられます。
では、「中盤が逆三角形の4―3―3」システム(下の図1。この原稿ではGKの1は省略して表記)はどちらのスタイルに適していると思いますか?
FCバルセロナなどが用いている「4―3―3」システムはラインが多く、ポジション・サッカーに適しています。そして外形的に言えば、ポジション・サッカーに最も適しているのは「中盤がひし形の3―4―3」システム(下の図2)です。多数のラインがあり、深みのあるシステムだからです。一方、「中盤がフラットな4―4―2」システム(下の図3)や「4―2―3―1」システム(下の図4)はコラボレーション・サッカーに適しています。
L 「すべてのシステムですべてのスタイルは可能」という前提を念頭に置いて聞いてください。私は、「3―5―2」システムはコラボレーション・サッカー向きの選手配置という認識です。
3人の最終ラインでフィールドの横幅をカバーするのは非常に難しいことです。そのため、守備時には両アウトサイドが下がることになり、5バックになることが多くなります。それが、このシステムの特徴です。すると、守備のブロックがどうしても低くなり、守備から攻撃にトランジションする際には大きなスペースが存在することになります。そのため、ゲームをコントロールする手段はボールではなくスペースになり、コラボレーション・サッカーに適したシステムと言えるのです。
ライン数が多いため、深さが確保しやすくなっているのがポジション・サッカーに適したシステムの特徴
前線に割く選手数が少ないため、両サイドなどにスペースが生まれやすいのがコラボレーション・サッカーに適したシステムの特徴。「3-5-2」システム(上の図5)のライン数は多い。しかし、アウトサイドの選手が最終ラインに吸収される傾向にあるため、スペースをコントロールするコラボレーション・サッカーに傾きやすい
L ポジション・サッカーが望ましいと思います。「ボールを保持してプレーする」というコンセプトをベースにしてトレーニングや指導指針を構築できるからです。また、ポジション・サッカーのほうがコラボレーション・サッカーよりも難度が高く、学べることが多いと考えています。
具体的に説明しましょう。
例えば、ポジション・サッカーでは深さと幅を選手たちが能動的に確保してボールを動かしつつ、自分たちの陣形内にスペースをつくり、狭いスペースを使って前進します。この過程で多くのことを学べます。ただし、ボールを失った際にカウンターを受けやすいなど、失点のリスクがコラボレーション・サッカーより高いのも事実です。
現状を分析すれば、FCバルセロナの成功もあって近年はポジション・サッカーが指導現場に多大なる影響を与えてきました。それは悪いことではないにしても、私はショートパスが過剰にクローズアップされている点を危惧しています。なぜならば、ショートパスだけが重要なのではなく、ボールをドリブルで運ぶこと(スペイン語の『コンドゥクシオン』。『レガテ』<突破のドリブル>ではない)、そしてチームとして前進することが重要だからです。
当然、ドリブルでボールを運んで相手に揺さぶりをかけようとすれば、チームのポジション・バランスを崩すことがあります。その際にボールを失えば、決定的なピンチを招くかもしれません。こうしたリスクをポジション・サッカーははらみます。しかし私は、学習過程にいる育成年代の選手はリスクを含め、多くのことを経験し、学ぶべきだと思うのです。ですから、優先してポジション・サッカーに取り組むべきと考えています。
また、私がポジション・サッカーを推奨するのは、「育成年代の選手には相手陣内でボールを奪うようにしてほしい」と考えているからです。戦術的に言えば、リトリートして守るのではなく、守備ブロックを高い位置に築いて積極的に守ってほしいのです。ポジション・サッカーは選手間の距離が短いため、プレッシャーを与えるのに適しています。選手のメンタル面とも関連しますが、「相手のミスを待つ」のではなく、「能動的に仕掛け、プレーをつくり出す」という姿勢を選手には身につけてほしいと考えているのです。
L メリットはあるでしょうが、難しい質問です……。あえて挙げるならば、「ボールを奪ってから素早く攻撃する」というシチュエーションを反復できることになるでしょう。それが主なメリットだと思います。
ただし、注意してほしいことがあります。「コラボレーション・サッカー=引いて守ってカウンターを狙うサッカー」ではない点です。仮にそういう理解であるならば、コラボレーション・サッカーに取り組むのは重大な問題を提起するでしょう。
育成年代においてコラボレーション・サッカーに取り組むのであれば、「リトリートしてからのカウンター」ではなく、「守備ブロックを高い位置、あるいは中盤くらいに設定し、その前提からスペースをつくったり、前の選手を追い越したりして前のスペースに飛び出す」というサッカーを目指すべきだと考えます。ただし、そうしたサッカーを育成年代の選手に求めるのは非常に難しいものです。
L 指導者が選ばなければいけないのはサッカーのタイプではありません。「ポゼッションが好きだからポジション・サッカーのチームにする」という決定過程は避けなければいけません。基本的には、チームにおけるサッカーのスタイルを決めるのは指導者ではありません。
指導者が考慮すべきなのは以下のような項目です。
◎プレッシャーのかけ方
◎切り替え方法
◎攻撃の中心
◎所属選手たちのストロング・ポイント
これ以外にも考慮すべき項目は多数ありますが、指導者がまずすべきなのはチーム全体の分析です。分析後、チームをより良い方向に導く解決策がスタイルなのです。そうして決定されたスタイルがポジション・サッカーやコラボレーション・サッカーに分類されるだけです。ある意味、結果論と言えます。
育成年代の指導でも同じことが言えます。もっとも、目的が勝利だけに向くことは絶対に避けなければいけません。そして、最も優先しなければならないのは「指導している選手に獲得してほしいこと」なのです。
◎難しい課題にチャレンジしてほしい
◎選手が自信を持てるようにシンプルにする
◎非常に高い技術を持った選手が多い。それを活かしたい
サッカーのスタイルが定まるのは、こうした目的が決定したあとなのです。そしてシステム決定は次のフェーズになります。各目的に合致したシステムを選ぶ作業に入るのです。ですから、システム選定はチームづくりの最終段階になります。指導者はこの順序を間違ってはいけません。
「私は常々、システムの捉え方が日本人とスペイン人では違うと思っています。なぜなら、システムに対する理解度に大きな差があるからです。指導者の場合、スペインの指導者養成カリキュラムにはシステム論がしっかり組み込まれています。『各システムに向いているサッカー』を早い段階で学べるのです。当然、ランデル・コーチも言う通り、システムには向き不向きがあります。スタイルとシステムの向き不向きは、私もランデル・コーチと同じ考えです。
また、ランデル・コーチは『育成年代(ジュニア年代)にはポジション・サッカーが向いている』と話していました。この点に関し、私はまだ7人制や8人制を指導したことがないので判断しかねます。しかし、ランデル・コーチの『コラボレーション・サッカーにもメリットがある』という意見には同意します。例えば、『ボールを奪って素早く攻撃する』など、コラボレーション・サッカーでしか学べないものがあるからです」(岡崎篤)
ランデル・エルナンデス・シマル(Lander Hernandez Simal)/1976年、スペインのビルバオ生まれ。育成年代の指導に携わって20年以上。また、2006年を皮切りに、07年と10年にも来日して日本人選手や指導者を指導し、日本の事情に通じている。弁護士資格と『スペイン公認上級ライセンス(UEFAプロ、日本のS級ライセンスに相当)』を保持している
岡崎篤(おかざき・あつし)/日本とスペイン両国で、小・中・高・トップの全年代で第₁監督を務めた。2015年に『スペイン公認最上級ライセンス(UEFAプロ)』を取得し、現在はSDデウストのU-16とアスカルチャFTのU-12で監督を務めている。スペイン・リーグ₁部のSDエイバルのトップチームに帯同し、乾貴士の通訳としても活動した。現地法人フッボラを立ち上げ、日本サッカーとバスク・サッカーの架け橋となる事業も展開している
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