close

2019-02-12

身につけよう!育成年代のリスクマネジメント<ケース2 遠征先の事故>

子供のケガ、保護者とのトラブル……。
チーム活動をしていると、さまざまな問題が起こったりする。
プレー面以外のことで悩まされた経験を持つ指導者は少なくないだろう。
しかし、何かが起こったときの対処を誤ってしまうと、
大問題に発展して取り返しのつかないことにもなりかねない。
1回目の「子供のケンカ」に続き、ある問題に対するリスクマネジメントの方法を専門家に聞く。
2回目は、遠征先で交通事故に遭ってしまったケースの対処法を学ぶ。
(出典:『サッカークリニック』2018年8月号)

取材・構成/直江光信
写真/BBM
イラスト/丸口洋平

【QUESTION】
遠征先で交通事故に遭ってしまったら、
どう対処すればいいでしょうか?

「生活時間」も注意義務
普段以上の体制で対応

 遠征を行なう際、「全日程においてクラブ側に監督責任がある」ことが大前提となります。「遠征」とはサッカーの活動だけを指すものではありません。移動中や活動時間以外の生活時間も含めて遠征です。保護者から大切な子供を預かって遠征するわけですから、練習や試合のときはもちろん、宿泊先で過ごす時間やコンビニに買い物に行ったときであっても、何か問題が起こればクラブ側に責任が生じるということをしっかりと認識しておく必要があります。

 例えば、遠征先で夜間に子供たちだけで外出して事故に遭ったとしましょう。特にそれが小学校低学年の子供となれば、「クラブ側はなぜ、そんな時間に子供だけで外出させたのか?」と間違いなく責任を問われます。そういう場合は、子供だけで行かせるのではなく、大人も必ずついて行くようにすべきです。小学校高学年になればコンビニくらいは自分たちだけで行けるかもしれませんが、その場合でも「交通ルールを守って、他人に迷惑をかけるような行為をしてはいけない」といった注意喚起はすべきでしょう。

 仮に子供が指導者に知らせないまま勝手に外出して事故に遭ったとしても、クラブ側にまったく責任がないとは言えません。そうした行動をさせない管理体制を整えておくことが、事故を防止するポイントになります。「買い物に行きたいときは必ず指導者の許可をとる」というように、ルールを周知、徹底しておくべきです。

 普段の練習であれば、これらは保護者が担うべき部分ですが、そこまで含めてクラブが子供を預かるのが遠征であり、合宿です。指導者、運営者はいつも以上に責任を負うわけですから、常に注意深く、目の届くところで子供たちを管理しなければなりません。

 また遠征では、初めて訪れる場所に行くことも多くあります。道に迷う危険性は通常時より当然ながら高くなります。道路でランニングを行なう場合は、先頭と最後尾に指導者がついてしっかりと子供を見るような体制が必要です。よく合宿で山道をランニングしているチームを見かけますが、道に迷う子が出ないとは限りません。途中で熱中症になったり、ケガをしたりする可能性もあります。子供が行方不明になったときに「大人が見ていなかった」となれば、大問題になってしまいます。

「今まで何もなかったから、今度も大丈夫だろう」という考え方は非常に危険です。むしろ「よく、今まで何もなかったな」と捉えるべきでしょう。事故が起こってからでは遅いのですから、クラブとしてできる限りの備えをしておくのは当然のことです。

 なお、保険による遠征中の事故の補償については、保険の種類によって対象となる内容が異なるので、自分たちが加入している保険で「どこまでカバーできるか」を事前に確認しておきましょう。保険商品には「このケースは補償範囲内」、「このケースは免責になる」といった細かい規定があり、なんでもカバーできるような保険はありません。自分たちの活動内容と保険の範囲を照らし合わせて、足りない部分があれば、別の保険を追加しておきましょう。

 遠征中に子供が自動車事故に遭った場合、最も責任を問われるのは当然ながら事故を起こしたドライバーですが、子供の歩き方が悪かったのであれは、クラブ側の指導責任を問題視される可能性があります。子供がふざけて道路に飛び出しそうになっているのに指導者が何も注意せずにいたとなれば、責任を問われます。

 また、遠征先で自動車事故に遭った場合、当事者同士のその場の話し合いで済ませるのではなく、速やかに警察に届けましょう。遠征に限らず通常時の対応も同様ですが、遠征の場合は特に自宅から遠方になるケースが多いため、家の近所で事故に遭ったときと違って、もう一度現場に行こうとしても簡単にはできません。警察に届け出をして、きちんと記録を残すことが大切です。その場で示談にしてしまうと、あとで何かあったときの対応が困難になります。

 遠征先で子供が器物を破損した場合はどうでしょうか? 例えば、蹴ったボールが近くに停めてあった車に当たり、サイドミラーが壊れてしまうことがあるかもしれません。宿泊先でふざけたりした結果、窓ガラスを割ってしまうことも十分に考えられます。それらを保険でどこまで補償してくれるかは保険内容次第なのですが、この場合もクラブ側に管理責任があることに変わりはありません。子供が勝手にやったことであっても、遠征中であれば、クラブが何かしらの責任を問われる可能性があることは認識しておくべきです。

 また、子供の人格には個人差があります。ですから、「何歳以上はクラブの監督責任はない」と、一概に言い切ることはできません。高校生であっても幼稚な子なら注意すべきですし、小学生でもしっかりした子であれば、さほど注意しなくても事故は起きません。年齢ではなく、一人ひとりに合わせた対応が必要です。

「人数が足りない」は
通用しなくなっている

 遠征先で事故や問題を起こさないための最もいい方法は、一般常識に沿った行動をきちんとできるように普段から子供たちを指導しておくことです。相手を殴ったり、物を壊したりしてはいけないのは、遠征であれ普段の活動であれ、変わりはありません。そういったことを普段から伝えるのが遠征先での事故防止につながります。

 やはり、指導者や運営側がすべきは、「遠征中は大人が注意しなければならない物事や範囲が増える」と認識することに尽きます。遠征中はスポーツ活動中以外の時間も子供を管理しなければいけませんし、遠征になるとついはしゃぐ子供が多くなります。そう考えれば、普段の活動時より多くの指導者やスタッフを帯同させる必要があると言えます。一昔前にタウンクラブなどでよくあったように、小学生30人を指導者1人で引率することなどは不可能です。

 かつては子供を合宿につれて行く際に「お手伝い」として帯同してくれる保護者が数多くいましたが、現在は休日も休みをとれない保護者が多いので、あてにできません。しかし、何かが起こったときに「人数が足りないから」と言ったところで理由にはなりません。人が少なければ、クラブ側がどうにかして手配するのが基本的な考え方になります。この点については、民間会社で運営がしっかりしているクラブほど、増員して対応していると感じます。費用はかかるかもしれませんが、安全のためには仕方がないことです。

 最後に、不運にも事故が起こってしまったときは、保護者にしっかりと、こまめに連絡することも大切です。保護者にすれば、目の届かないところに子供がいるわけです。不安に感じる要素が多くなります。「遠征から帰ってきて初めて事故があったことを知った」となれば怒るのは当然です。

 昔は、適宜連絡をとる方法がありませんでしたが、今は携帯電話やメールなど、連絡をとる方法がいくらでもあります。私が知っているあるクラブでは、遠征先での子供たちの様子を写真や動画で撮って頻繁にSNSに掲載し、保護者がいつでも見られるサービスを行なっていました。クラブ関係者以外は閲覧できないような仕組みにする必要があったりするので多少面倒ですが、保護者に自分の子供の元気な姿を見てもらえば、保護者は安心できます。リスクマネジメントだけでなく、「クラブとしてのサービス向上」という点でもメリットがあります。どんどん活用すべきだと思います。

【ANSWER】
自動車事故においてはまず、警察へ連絡します。
加入している保険内容も、事前に確認しておきましょう

<回答者プロフィール>
谷塚哲(やつか・てつ)/ 1972年、埼玉県出身。武南高校、順天堂大学を卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を修了。行政書士。プロスポーツから地域スポーツまで幅広く、法律の側面からスポーツ団体をサポートしている。また、東洋大学法学部企業法学科スポーツビジネス法コースの教員として、スポーツと法律の関係性の授業を行ない、スポーツビジネス法、スポーツマネジメント、スポーツ組織論など、スポーツを法律的観点から研究している

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事