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2018-12-27

全国高校選手権大会出場校が語る 「高校年代に勝敗を 意識させるデータの取り方」

12月30日に『第97回全国高校サッカー選手権大会』が開幕する。
今大会に奈良県代表として出場するのが奈良市立一条高校だ。
今回で3年連続の出場となり、全国大会の常連校となった一条は、スタメンを選ぶときの貴重な情報とするために興味深いデータの取り方をしている。
また、トレーニングに対する意欲低下を抑え、モチベーションを高める方法の1つとしてもデータを活用している。
何に着目し、どのような方法でデータを取っているのか。
同校で指導にあたっている前田久・監督に話を聞いた。
(出典:『サッカークリニック』2019年1月号)

上のメイン写真=『第97回全国高校サッカー選手権大会』に奈良県代表として出場する奈良市立一条高校 写真/森田将義

12月31日に行なわれる1回戦では、宮城県代表の仙台育英高校と戦う 写真/森田将義

勝負にこだわらせる
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――奈良市立一条高校が取り組んでいるデータ活用について教えてください。

前田 私たちは、ゲーム形式のメニューを行なったときの勝敗や試合でのシュート決定率などを記録しています。その記録を選手起用の際の参考にしたり、選手のモチベーション・アップに使ったりしています。
 勝敗やシュート決定率などを記録するようになった理由は、ゲームやシュート練習を見ているときに「調子が良さそうだな」、「彼は点を取れるようになってきたな」と、感覚的に感じていたことを明確にしたいと思ったからです。

――シュート決定率はどのように使うのでしょうか?

前田 以前、3人のフォワードが2トップの座を争っていたときがあり、誰を起用するか悩んでいました。そのため、Aチームが出場する試合におけるシュート決定率を出し、そのデータを部室の前に張り出したりして競争を煽あおったのです。選手起用に役立っただけではなく、この取り組みを一定期間続けたあとにフォワード陣の「ゴールを奪う」執着心が高まったと感じました。選手自身が「どうすればゴールを奪えるか」をより考えるようになったのです。

――データはどのくらいの期間集計するのでしょうか?

前田 長期間行なうことはまずありません。記録を取ったときは確かな効果がありますが、長期間行なわせてしまうと精神的にきつくなると思っているからです。また、インターハイや全国高校サッカー選手権の奈良県大会などの前には行ないません。その時期はモチベーションが自然と上がりますので、数値化する必要がないと思っているからです。
 大会などが終わって、チームとしての目標を持ちづらい時期に行なうといいと思っています。そのような時期であれば、ゲームの勝敗やシュート決定率などを記録することで選手の競争意識を高められるからです。例えば、勝敗にこだわらせるために「2対2」(下の図1)をリーグ戦形式で行なっています。現在は新人戦のあとに1カ月くらいの期間を設けて行なっています。以前は1週間行なったり、曜日を決めて週1回行なったりしたこともありました。目の前の勝負にこだわるようになり、トレーニングが引き締まったと感じました。

――フォワード以外に、データを取っているポジションはありますか?

前田 以前、ポジション争いをしていたサイドハーフの優劣をつけるために、試合でのプレーに応じてポイントをつけていました。例えば、パスを受けたら1点、受けたボールを相手に奪われずに味方につなげたら2点、クロスを上げたら5点、クロスを味方に合わせたら8点、クロスをゴールにつなげたら15点、などです。ケガをしてしまった選手にこの集計をやってもらっていました。
 ボランチはボールに触る機会が多く、やるべき仕事も多いため、ワンプレーごとにデータを取るのが難しいと感じています。しかしサイドハーフの場合、ある程度はデータを取って選手の能力を明確にしやすいと思っているのです。ライバルとの競争心を煽るだけでなく、指導者側からの「ポイントの高いプレーをしてほしい」というメッセージにもなります。プレー別にポイントを設定することで、プレーの優先順位を意識させることができました。
 また、ワンプレーごとにポイントをつけることで、プレーがより能動的になったとも思っています。ボールを受ける意識が高まり、クロスを積極的に狙うようにもなりました。これまではボールを奪われることを怖れ、パスを受けても後ろに下げてしまいがちな選手の意識を変えることができました。

勝敗を意識するから
選手は自ら工夫する

――例えば、ゴールキーパーのデータを取ることもあるのでしょうか?

前田 2人以上がポジションを争っている状況のときはセーブ率を出して比べることもありました。シュート練習を行なうとき、キーパーがシュートを受ける本数を同じにします。そして被シュート数と失点数を記録してセーブ率を出し、その数字が良いほうを試合で起用したりしていました。また、ゲームの勝敗を記録し、チームを多く勝たせたほうのキーパーを試合で使ったこともありました。
 キーパーの仕事は簡単ではないと思っています。味方をうまく動かせなければいけませんし、自らセービングもしなければいけません。シュートをキャッチできないときは相手に拾われないところにパンチングしなければ、シュートを再び打たれてしまいます。以上のことなどを、瞬時に、的確に判断しなければいけません。
 そのため、前提として「『どうすればゴールを守れるか』を考える意識」を持つことが必要だと思っています。シュート練習の際、キーパーはあまり考えずに黙々とセーブしてしまいがちです。しかし、セーブ率を出すようになったあとはキーパーの意識を変えられたと思っています。成長を早くさせることができたと感じました。

――走行距離やスプリント回数など、試合中の細かなデータを取るチームもあります。一条はそこまではしないのでしょうか?

前田 サッカーというスポーツは、すべてが明確に数値化できるほど単純ではないと思っています。そのため、細かいところまでは取っていません。スプリント回数を計測するメリットを感じることはありますが、例えば走っていないように見える選手がいいポジションをとっていたりすることがあります。数値では表れにくいプレーの重要性も感じているため、細かいところまでは取っていません。
 数値には表れにくいいい選手をゲームで見つけるためにも、「5対5」(下の図2)を定期的に行なっています。1試合ごとにメンバーを入れ替えて行なうのですが、「試合に勝ったら1点」、「ゴールを奪ったら1点」というルールで個々にポイントをつけています。このような短時間でのゲームを繰り返していると、誰がチームを最も勝たせているかが明確になります。弱気で、大事な場面で怖気づいてしまう選手はポイントが低くなります。ポイントの低い選手には奮起を促します。
 一般的に、試合に勝つにはいい流れのときにチームを盛り上げ、勝利に持ち込める選手の存在が必要です。例えば大阪の選手はノリがいいため、そのような選手が多いです。しかし、奈良の選手は大人しい傾向があります。そこで、ポイント制などを導入して勝ち負けを明確にし、競争力を高める必要があります。適正な競争が向上を促すのです。最近は各選手が1日で獲得したポイントをサッカー部の『グループLINE』にメッセージとともに送っています。全部員に勝敗を意識させています。

――プレーをただ数値化するのではなく、しっかりとした目的意識を持たせることが大切だと感じました。

前田 「数値化して終了」では何の意味もありません。「何のためのデータか」、「なぜ、ポイント制にしているのか」を選手に理解させなければいけません。目標を明確にし、勝敗を意識させるからこそ、選手は自ら工夫し、成長できるのだと思っています。

(取材・構成/森田将義)

奈良市立一条高校の練習メニュー

(1)「『2対2』+2サーバー」

図1 「『2対2』+2サーバー」

進め方:(1)縦20m×横15mのグリッドを使用。サーバーは足だけ使えるGK役として存在。(2)ボール保持側はサーバーからのボールを受け、攻撃方向にあるコーン・ゴールを目指す。(3)2分間行ない、ゴール数を競う。(4)選手が20人いる場合、5人ずつ<1人休憩>を1部リーグから4部リーグに分け、1試合ごとに組むパートナーを入れ替えながら行なう。(5)勝利チームに勝ち点が入り、リーグ内で最下位になった選手は、翌日のリーグ戦で下位カテゴリーの優勝者と入れ替わる
ポイント:(1)競争意識の向上。(2)味方との連係。(3)相手との駆け引き

(2)『5対5』+2GK」

図2 『5対5』+2GK」

進め方:(1)ペナルティーエリア2つ分のサイズで行なう。(2)GKがグリッド中央にボールを蹴ってから開始。(3)2分間行ない、勝利チームと得点者にポイントが与えられる。(4)選手の組み合わせを変えながらリーグ戦形式で行ない、順位づけする
ポイント:(1)勝敗へのこだわり。(2)ゴールへの執着
オプション:両サイドのタッチラインに1人ずつフリーマンを配置。フリーマンを使ってサイド攻撃からゴールを奪ったときのポイントも決めておくと、サイドを使う意識を高めることができる。勝敗にこだわる選手やプレーに積極的な選手が分かるようにもなる

(3)シュート練習

図3 シュート練習

進め方:(1)ペナルティーエリアのサイズで行なうシュート練習。(2)AがサイドにいるB<あるいはC>にパスしたらメニュー開始。(3)Bはゴール前にクロス。AとCが走り込んでゴールを狙う
ポイント:(1)ゴールを決めた選手には1点を与えるなどして競争心をあおる。(2)GKは被シュート数をほかのGKと同じにし、セーブ率を出す

指導者プロフィール

前田久(まえだ・ひさし)/1965年4月8日生まれ、奈良県出身。現役時代は近畿大学附属高校、近畿大学でプレー。大学卒業後は愛知県で1年間の教員生活を送ったあと、89年に奈良市立一条高校に赴任。サッカー部の監督を務める。「巧みに守り果敢に攻めよ!」をモットーに強化を進め、2002年度の『全国高校サッカー選手権大会』に初出場。これまでに8度出場し、16年度、17年度と2年連続でベスト16進出を果たす。18年度大会への出場も決めた。過去に3年間、奈良県国体選抜・少年男子の監督も経験している

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