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2018-12-25

全国大会に出場するチームが語る 「ドリブル」の考え方と 「ドリブル」との向き合い方

上の写真/石川県代表として『JFA 第42回全日本U-12サッカー選手権大会』に出場する『旭丘フットボールクラブ』

ドリブルを有効活用していこうと考えるチーム、ドリブルをほとんど使わず、パスを重視して攻撃を組み立てるチーム――。
ドリブルに対する考え方は、チームによってさまざまだ。
では、全国大会に出場するチームの指導者はどんなアプローチを採っているのだろうか? 
今日16時から開会式が行なわれ、明日1次ラウンドが始まる『JFA 第42回全日本U-12サッカー選手権大会』。
この大会に、石川県代表として出場している『旭丘フットボールクラブ』を率いる本田昇・監督に、ドリブルに対する考え方を聞いた。
(出典:『サッカークリニック』2018年12月号)

『JFA 第42回全日本U-12サッカー選手権大会』に出場している旭丘フットボールクラブはグループIに所属。1次ラウンドでは、メジェール岐阜瑞穂FC(岐阜県)、FC斐川(島根県)、モンテディオ山形庄内(山形県)と戦う ©河合拓

ボールを動かして
相手を動かすことを重視

――『バーモントカップ』(毎年8月に開催されるフットサルの全国大会)での『旭丘フットボールクラブ』の試合を見たところ、相手を抜いて行くようなドリブルをほとんどしない印象を受けました。普段、抜くドリブルの練習はしていますか?

本田 普段の練習では、正しいポジショニングやパス・アンド・コントロールの習得が中心で、抜くドリブルは個人の力に任せています。その中で抜くドリブルのトレーニングになると言えるものは「1対1」、あるいは「2対2」くらいです。「1対2」で行なうこともあり、そのときは「1人かわしたあとにもう1人をどう攻略するか」といった狙いで取り組ませています。あとは数的不利な状況でのボール保持も行ない、ボールを奪われない方法を身につけさせています。しかし、以上の点は個人の力によるところが多いため、徹底してはいません。相手に寄せられる前にパスするように伝えています。

――では、抜くドリブルはすべての選手が身につけるべき能力だと思いますか?

本田 私自身、ドリブルが得意ではなかったからかもしれませんが、全選手がきちんと身につける要素だとは思っていないのです。抜くドリブルを習得するには多くの時間を要します。それに、ドリブルが苦手な選手を試合で使えなくするのは避けたいと思っているからです。

――日本のサッカー指導はドリブルを重視しすぎだと感じますか?

本田 例えば小学校から高校まで同じ指導者が見て、徹底して教えられる環境ならいいかもしれません。しかし、ジュニア年代で抜くドリブルに徹底して取り組ませたとしても、中学校の指導者が抜くドリブルを重視しないタイプだったら、意味がなくなってしまいます。
 個人の能力が高く、武器として抜くドリブルがあるのはいいと思います。ただし、そういった能力の高い選手がいない場合、ドリブル練習に時間をかけた分の見返りが試合ではあまり感じられない気がするのです。そのため、ボールを動かし、相手を動かすことを重視しています。もちろん、ペナルティーエリア内に入ってからドリブルで勝負するのは当然のことだと考えています。

――ドリブルをする上での約束事のようなものはありますか?

本田 ドリブルをしていてボールを奪われたら、その選手が責任を持って奪い返すことです。
 あとは、状況判断をした上でドリブルを選択すること、そしてドリブルしながらも状況判断を欠かさないことです。ドリブルで相手を2、3人引きつけてからパスできれば、味方のためにもなるからです。

――コースがないのにドリブルで突っかかって行って奪われる子供がいると思います。その場合にはどのような指導をしますか?

本田 パスの選択肢も持った上で抜きに行くのならいいですが、周りを見ずにドリブルで抜くのはやめるべきですし、指摘しています。また、ボールを奪われたときは「ボールを持ったときに味方が動き出したのは見えていた?」、「ボールを奪われたから味方が戻らないといけなくなってしまった。どうしたら良かったかな?」などと聞き、考えるようにさせています。

――強調しすぎると今度はまったく仕掛けなくなりそうですが、旭丘FCの選手たちはドリブルで相手を引きつけてからパスを出せていました。「ここまでならキープできる」という距離感をどのようにして一人ひとりにつかませているのでしょうか?

本田 実際にやらせてみるしかありません。「ボールを受けたとき、相手が近くにいるときと少し遠くにいるときとではどちらが楽?」と聞いたりして、実際にやってもらいます。例えば、「相手の近くでボールをもらうときは、ボールを止めてから次のことを考えているようでは遅いよ」と伝えたりもしています。

――相手との距離感をつかませるには守備者の寄せもポイントとなりますか?

本田 そうですね。厳しく寄せることは要求しています。それがないと、パスを選択することがなくなるからです。特に、数的同数で行なうミニゲームに関しては、守備側にすべてのボールを奪いに行くくらいの気持ちで取り組ませています。その際の激しい守備に対してしっかりできる選手は相手を引きつけてからパスし、再び動き出すことができます。ただし、しっかりできない選手はパスして終わることが多いですし、判断が遅い選手は相手の足に当ててしまうことが多いです。

――いいパスを出されると、守備側はパスを警戒するようになります。すると今度は、ドリブルもしやすくなります。

本田 ですから、ドリブルの選択肢はパスのあとに持ってきておいてほしいのです。ジュニア年代では、「まずドリブル」という考えが頭の中にあると、味方と連係しにくくなると思うのです。味方はボールを奪われたときのことを考えたりし、積極的にサポートに行けなくなってしまいます。例えば、抜くドリブルをしようとする選手の後ろにカバーしてくれる味方がいて、その味方が「行け!」と言ってくれるような状況なら、ドリブルを仕掛けてもいいでしょう。

――味方の声を聞くことも含め、「状況判断」を大切にしているのですね。ところで、チームではドリル形式のトレーニングはしないのでしょうか?

本田 ウオーミングアップとしては行ないますが、基本的には個人でできることなら、チーム練習としては行ないません。ただし、個人でもできることを普段からやっている選手とやっていない選手の違いは見れば分かります。そういう意味では、「個人練習をしないと周りに置いていかれるよ」と言うこともあります。そのようにして、各自が「うまくなりたい」という気持ちになるように促しています。

(取材・構成/河合拓)

旭丘フットボールクラブの練習メニュー

「障害物のあるジグザグ・ドリブル」

図1 「障害物のあるジグザグ・ドリブル」

進め方:マーカーやコーンを置き、ジグザグにドリブルして行く
ポイント:(1)マーカーを置いた列ではボールも体もマーカーの上を通過できるが、コーンを置いた列ではコーンをしっかりかわすことを意識(相手をかわすときの動作感覚となる)。(2)マーカーの列ではボール・タッチを重視。(3)マーカーやコーンを置く距離は適宜変える

指導者プロフィール

本田昇(ほんだ・のぼる)/小学校時代からサッカーを始め、石川県立工業高時代には国体の選抜候補入りした。2009年から指導を始め、18年の『JA全農杯チビリンピック』で旭丘FCをベスト8進出に導いた。また、11年ぶりの出場となった『JFAバーモントカップ第28回全日本U-12フットサル選手権大会』では3位に輝いている。今日から始まる『JFA 第42回全日本U-12サッカー選手権大会』へも出場を果たしている

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