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2018-11-05

ドリブルのエキスパートによる 「思い通りに体を動かす」指導

上のメイン写真=ドリブルを仕掛けてもほとんど失うことなく、抜群のボール・キープ力を見せるチェルシーのエデン・アザール 写真/gettyimages

3歳から高校生まで約2000人を見てきた豊富な指導経験を持つドリブルのエキスパート、三木利章コーチ(現在は『リガールJPC』と『AC.グローリアガールズ』などで指導)は、体の動きづくりをベースにした指導で動作を改善させている。ここでは、小学生や中学生をターゲットに、ドリブルに取り組ませながら、思い通りに体を動かせるようになる指導と練習メニューを紹介しよう(モデルは三木氏が外部コーチを務めるリガールJPCの選手たち)。
(出典:『サッカークリニック』2018年12月号)

三木コーチが指導にあたる大阪府のリガールJPC 写真/森田将義

<ショート・インタビュー>

――プレーの選択肢を増やすためにも、ドリブル練習を重視すべきですか?

三木 ドリブルを重視することにはメリットとデメリットがあります。
 私が指導している選手はドリブルができるほうですし、ドリブルに真剣に取り組ませて心拍数も上げているために、スタミナのある選手が多いと言えます。一方、高校の指導者から「オフ・ザ・ボールの動きが足りない」と指摘されることも少なくありませんが、それは長所の強化に特化して練習している結果と捉えています。
 私自身は、「Jクラブのアカデミーで守備やボールの受け方、正しいポジショニングなどの指導を受けた選手とタウンクラブや中体連で長所に特化して取り組んできた選手が高校年代以降で合流したときにいいチームができ上がる」と考えています。ですから私が主に見ている中学生に関しては、平均値に満たないプレーがたくさんあったとしても、何か1つだけでも秀でた特長を持たせて高校年代に送り出したいと考えています。
 小学生や中学生に対し、私がドリブルを重視して指導していることには、ほかの理由もあります。それは、思い通りに体を動かせるようにする、というものです。
 小学生や中学生には、体を思い通りに動かせない選手が多いと感じています。私が単発で行なうサッカー・スクールでも、指導者の見本をマネできない選手が少なくありません。サッカーがうまくなる前に、体をしっかり動かせるようになる必要があります。体の動きを改善する時間を十分に用意できればいいのですが、なかなかそうはいきません。私が外部コーチをしているリガールJPCも週2回、しかも1日2時間と練習時間は限られています。そうした状況の中、ボールを使わない素走りやラダー・トレーニングに時間を割くのはもったいないと思っています。ですから、ドリブルを通じたコーディネーション・トレーニングを行なっています。ドリブルをウオーミングアップの1つとして採り入れ、練習開始から30分間程度行なっています。

――ドリブルを通じたコーディネーションとはどのようなものですか?

三木 ドリブルがうまくなるには体を思い通りに動かせないといけません。そのため、足首、ヒザ、股関節の3カ所を自由に動かせるようになる必要があります。その3カ所を、内側に動かしたり、外側に動かしたりすることで、スムーズに動かせるようになるのがトレーニングの狙いです。
 例えば、シザースを繰り返すことは単なるフェイントの練習ではなく、ヒザと足首を動かすトレーニングだと考えています。今回紹介したドリブル練習(下の練習<1>~練習<3>)にしても、フェイントの種類を覚えるために行なうのではなく、さまざまなフェイントを組み合わせたり、順番を入れ替えたりして、体を操ることを重視したものです。ドリブルを通じて体を自由に動かせるようになれば、ヘディングがうまくなったり、スピードが上がったりしますし、パスやシュートもうまくなると思います。

練習<1>:「 コーディネーションを養うドリブル」(1)<動画1~3>

図1 コーディネーションを養うドリブル(1)

進め方:(1)スタートからゴールまでの距離は10m。(2)タッチの種類はインステップ(動画1)、インサイド+アウトサイド(動画2)、ダブルタッチ+アウトサイド(動画3)の3種類
ポイント:(1)タッチの正確さよりも関節をしっかりと動かすことに重点を置く。(2)ボールを大きく蹴り出さず、細かなタッチを繰り返す。(3)ボールを持っていないほうの足(軸足)も意識(踵を地面から離し、両方の足が常に動いている状態にする)

動画1:「インステップ」

動画1:右足インステップでボールを軽く2回つついたあと、左足インステップでボールを軽く2回つつく。これを繰り返す。左足インステップでも行なう

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動画2:「インサイド+アウトサイド」

動画2:右足インサイドでボールを軽く3回触りながら斜め前に運び、右足アウトサイドでボールを軽く3回触りながら斜め前に運ぶ。これを繰り返す。「左足インサイド+左足アウトサイド」でも行なう

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動画3:「ダブルタッチ+アウトサイド」

動画3:スピードを意識する。右足から左足のダブルタッチ後、右足アウトサイドでボールを斜め前に出し、再びダブルタッチ。これを繰り返す。また、左足から右足のダブルタッチでも行なう(左足から右足のダブルタッチ後、左足アウトサイドでボールを斜め前に出し、再びダブルタッチ。これを繰り返す)

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※三木利章コーチの「ダブルタッチ」
三木コーチは、重心移動をさせてコーディネーションを養うことを狙いとしているため、「1、2」のタイミングでボールを押し出して相手を抜く本来のダブルタッチではなく、「1」のタイミングでボールとともに体を移動させることを選手たちに取り組ませている

練習<2>:「 コーディネーションを養うドリブル」(2)<動画4、5>

図2 コーディネーションを養うドリブル(2)

進め方:(1)スタートからゴールまでの距離は10m。コーンを2つ設置。(2)タッチの種類はダブルタッチ(動画4)、ダブルタッチ+アウトサイド(動画5)の2種類。スピードを上げてドリブルする
ポイント:(1)スピードを上げた状態でも素早く足を動かす。(2)指定されたタッチを正確に行なうことよりも自分の限界までスピードを上げることを意識。(3)慣れないうちはコーンの間隔を広げ、すり抜けやすい状況をつくる。(4)ボールを持っていないほうの足(軸足)も意識(踵を地面から離し、両方の足が常に動いている状態にする)。(5)足だけではなく体全体を運ぶ(ボールと一緒に重心移動することを心がける)

動画4:「ダブルタッチ」

動画4:スピードを上げてドリブル。1つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわし、2つ目のコーンを左足から右足のダブルタッチでかわして進む

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動画5:「ダブルタッチ+アウトサイド」

動画5:スピードを上げてドリブル。1つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわしたあと、2つ目のコーンを右足アウトサイドでかわして進む

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練習<3>:「 コーディネーションを養うドリブル」(3)<動画6、7>

図3 コーディネーションを養うドリブル(3)

進め方:(1)スタートからゴールまでの距離は10m。コーンを4つ設置。(2)タッチの種類はダブルタッチ(動画6)、ダブルタッチ+アウトサイド(動画7)の2種類。ドリブルでコーン間をすり抜ける
ポイント:(1)スピードを意識した練習②とは違い、股関節を動かすのが狙い。そのためにコーンの数を増やし、間隔を狭くしている。(2)ゆっくりとしたドリブルを心がける。(3)ボールを持っていないほうの足(軸足)も意識(踵を地面から離し、両方の足が常に動いている状態にする)。(4)足だけではなく体全体を運ぶ(ボールと一緒に重心移動することを心がける)

動画6:「ダブルタッチ」

動画6:ゆっくりとしたドリブル。1つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわし、2つ目のコーンを左足から右足のダブルタッチでかわしたあと直進し、3つ目のコーンを左足から右足のダブルタッチでかわし、4つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわして進む

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動画7:「ダブルタッチ+アウトサイド」

図7:ゆっくりとしたドリブル。1つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわしたあと、2つ目のコーンを右足アウトサイドでかわす。その後、3つ目のコーンを右足から左足のダブルタッチでかわしたあと、4つ目のコーンを右足アウトサイドでかわして進む

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<解説者プロフィール>

ドリブルのメニューを通して動作向上を図っている三木利章コーチ 写真/森田将義

三木利章(みき・としあき)/1974年7月6日生まれ、兵庫県出身。大阪YMCA社会体育専門学校を卒業したあと、奈良YMCA SC、ACアスロンなどで約20年間、ジュニア年代の指導に携わる。2016年からプロ・コーチとしてリガールJPCとAC.グローリアガールズの外部コーチを務める。その傍ら、興國高校などでドリブル指導を行なう。C級ライセンスと日本サッカー協会公認キッズリーダーの資格を保持。「三木利章オフィシャルサイト(http://toshiaki-miki.com/)」

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