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2018-10-24

昌子源の父、昌子力が語る 「未来のディフェンダー像」

今夜19時、鹿島アントラーズは『AFCチャンピオンズリーグ(以下、ACL)』の決勝進出をかけて、韓国の水原三星と準決勝第2戦を戦う(鹿島のホームで行なわれた第1戦は3-2で鹿島の勝利)。
重要な一戦でスタメン出場が予想される選手の1人が、センターバックの昌子源だ。日本代表として出場したロシア・ワールドカップ後の試合(7月25日のセレッソ大阪戦)で負った左足首のケガから完全復活し、Jリーグでは10月20日の浦和レッズ戦でスタメンに返り咲いている。ACL準決勝第1戦で鹿島は2つのアウェー・ゴールを献上しておりこれ以上の失点は許せないだけに、カギを握る存在となりそうだ。
今回は、昌子源の父である昌子力氏(姫路獨協大学サッカー部・監督)のインタビューを紹介。さまざまなカテゴリーの選手を30年以上も見てきた経験豊富な指導者に、先のロシア・ワールドカップを分析してもらって聞いた「近い将来に求められるディフェンダー像」をお届けする。
(出典:『サッカークリニック』2018年11月号)

上のメインカット=昌子力・監督の息子である日本代表センターバックの昌子源(右)は、ロシア・ワールドカップで3試合にフル出場。縦パスの質も光った 写真/gettyimages

最終ラインの選手に求められる
圧力をかわす「ボール運び」と「縦パスの質」

――ロシア・ワールドカップでの日本代表をどのように見ていましたか?

昌子力 日本代表のヴァヒド・ハリルホジッチ元監督が「縦に速いサッカー」を目指していたように、海外の選手はカウンターが速いだけでなく、縦パスのタイミングやパス・スピードがすごく速いです。日本人選手であれば横パスを一度入れてから縦パスを入れたりするケースでも、海外の選手はあまり躊躇せず縦パスを入れてきます。ただし、ハリルホジッチ元監督が目指したスタイルは日本ではうまくいきませんでした。
 ハリルホジッチ元監督に代わってワールドカップを指揮した西野朗・前監督はビルドアップとカウンターを織りまぜたスタイルに取り組みました。中心にいたのが柴崎岳・選手(ヘタフェ)でした。「縦に行く」と見せかけて、ボールを横に動かして相手をずらしてから柴崎選手が効果的な縦パスを入れたりしていました。「柴崎選手のそのプレーだけでは状況打開と突破は難しい」と初めは思っていたのですが、サイドバックの長友佑都・選手(ガラタサライ)と酒井宏樹・選手(マルセイユ)を含めたミッドフィルダーとフォワードのムーブメントでベスト16進出という結果を残せました。それは、私にとっては考えるきっかけとなりました。先日、決勝トーナメント1回戦のメキシコ対ブラジル(2-0でブラジルの勝利)の試合映像を見返したのですが、メキシコも強豪ブラジルに対してビルドアップとカウンターを織りまぜたスタイルを採っていました。メキシコはブラジルに負けてしまいましたが、双方のいい面を組み合わせることが有効な攻撃方法の1つになると思いました。
 もう1つ気にして見ていたのが、最終ラインでボールを持ったときに後方でボールを回しすぎたりして相手に守備陣形を整えられてしまったときの対応です。「素早く攻めたい」と思っても難しいときは訪れます。そのときの対応を気にして見ていたのですが、センターバックがドリブルでボールを運んだり、サイドバックがカットインしてボールを運んだりして状況を打開していました。

――最終ラインの選手がビルドアップにうまく関わる効果はどう感じましたか?

昌子力 例えば、(日本代表センターバックの昌子)源とは彼が鹿島アントラーズに入ってからよくサッカーの話をするようになったのですが、「ボランチが中央を空けたあとにセンターバックが前に出て行って横パスを受けたり、センターバックがドリブルで相手2トップの間に割って入って相手フォワード(2トップであれば2人)を置き去りにしたりするプレーが有効ではないか」という話をしたことがあります。
 ロシア大会でも源がボールを運ぼうとしているのが分かりました。我が子のことをあまり言いたくはありませんが、源のボール運びや縦パスが日本にいい効果をもたらしていたのではないかと個人的には思っています。データを見ても、源からの縦パスが多く、攻撃の起点になっていました(下の表1~3を参照)。これからのセンターバックにとってはゴール前で守ることだけでなく、ボール運びと縦パスの質も求められる要素になると感じました。

――ここ数年はどこも前線からのプレスが激しくなっている分、センターバックがプレスをかいくぐって相手の守備バランスを崩したり、数的優位な状況をつくったりできると、チームに与えるメリットは大きいと言えそうです。

昌子力 そう思います。相手をかわし、前にボールを効果的に運んで試合を組み立てられることも、これからのセンターバックには求められるでしょう。相手フォワードも前への気持ちをいなされたりすることで、リズムを崩したり、焦ったりします。センターバックが相手をコントロールできることも重要だと思っています。
 準決勝のフランス対ベルギー(1-0でフランスの勝利)でも同様のことが言えます。序盤は一見、フランスはベルギーにボールを持たれて攻められているように見えました。しかし、フランスは最終ラインを低くして守り、ボールを奪ったらベルギーが攻めてきたことで生まれた背後のスペースをうまく狙っていたのです。自分たち(フランス)のペースに持ち込むことに成功していました。ベルギーに守備的に戦わせないようにし、ベルギーが前に出てきたらセンターバックのラファエル・バラン(レアル・マドリード)などがうまくボールを運び、前線に素早く送ったりしてベルギーを翻弄していたのです。

ロシア・ワールドカップでは巧みなボール運びと前線への配球を見せていたフランス代表のセンターバック、ラファエル・ヴァラン(右) 写真/gettyimages

――守るために受け身になるのではなく、効果的に攻めるために受け身になることが必要なのですね。

昌子力 戦略的に戦えることは重要です。ロシア大会には出場していませんが、スコットランドがイングランドと試合をするときは「イングランドがロングボール主体なら、自分たち(スコットランド)はショートパス主体で挑む」と対抗したりします。南米でも、ペルーやチリがブラジルやアルゼンチンと試合をするときはブロックをつくってからのカウンターを徹底します。それぞれのスタイルが、ときには「国のアイデンティティー」にもなっています。
 しかし日本には、「当たって砕けろ」や「精一杯戦えば敗戦やむなし」という考え方がまだあるように感じます。試合ですから勝者と敗者が存在してしまうのは仕方がないのですが、「戦略的に戦う」という習慣は育成年代ではほとんどなく、日本で足りていない部分だと感じます。

――「ピッチ上の選手たちが状況を理解して試合運びや必要なプレーを考える」という習慣がなければ、日本はいつまでも「試合巧者」にはなれないのですね。

昌子力 どんな状況でも、試合運びをしたたかにできることが重要です。そのためには「試合状況をしっかり見て必要とするプレーを選択し、技術を正確に発揮すること」が欠かせませんし、小さい頃から考えさせなければいけません。
 正確なパスを出せる選手を育てるのもいいでしょう。しかしそれ以上に、状況を加味しながら自分の持っているスキルを発揮できる状況をつくり出せることのほうが大事です。年齢別においては、「効果的なパスコースが見えていたけれど、キック力が足りずにパスが届かなかった」、「プレーのイメージはできていたけれど、フィジカルが足りなかった」というケースもあるでしょう。そのような選手に対しては長い目で見てあげましょう。「パスが届かなかった」ではなく、「見えていたか」、「イメージできていたか」といった点に着目し、できていたのであれば、指導者は褒めて伸ばしてあげてほしいと思います。

2002年から姫路獨協大学で監督を務めている昌子力氏 写真/安藤隆人

<プロフィール>
昌子力(しょうじ・ちから)/1963年生まれ。86年から神戸FC、95年からヴィッセル神戸を指導。98年に監督に就任した同ユースを全国レベルにし、99年にJユースカップで優勝。2002年からは当時、関西学生リーグ3部だった姫路獨協大学を率い、08年に1部昇格。11年に総理大臣杯出場に導いた。JFAトレセンコーチなどを経て、現在はJFA B・C級ライセンスインストラクター、兵庫県サッカー協会技術委員会の技術委員長なども兼務。08年にS級ライセンスを取得

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