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2018-10-02

「ドイツ育成年代指導」の スペシャリストに学ぶ 実戦的な「ドリブル」&「パス」1

ドイツの年代別代表監督として400試合以上を指揮し、ロシア・ワールドカップに出場したトニ・クロース、トーマス・ミュラー、メスト・エジルなど、多数のドイツ代表選手の育成に関わってきたベルント・シュトゥーバー氏が「日本サッカー協会指導者講習会」の講師として来日した。来日期間中は山梨県甲府市でジュニア年代(U-11)を対象にしたクリニックも実施。午前は「ドリブル」、午後は「パス」に重点を置いたシュトゥーバー氏のクリニックが行なわれた。今回は午前の「ドリブル」指導の模様をリポートする。
(出典:『サッカークリニック』2018年10月号)

※メイン写真=過去にベルント・シュトゥーバー氏の指導を受けた経験を持つドイツ代表のトニ・クロース(レアル・マドリード)。高い技術に定評があり、正確なロングキックが最大の武器 写真/gettyimages

午前は「ドリブル」を中心に指導が行なわれた 写真/BBM

山梨県甲府市で活動する『エアフォルク山梨』(http://erfolg-yamanashi.com/)のU-11の選手たちがシュトゥーバー氏のクリニックに参加 写真/BBM

ドリブル力を高める
競争心のあおり方とファーストタッチの質

 ベルント・シュトゥーバー氏のU-11を対象にしたクリニックは午前と午後の2部構成で約1時間半ずつ行なわれた。クリニックは午前は「ドリブル」、午後は「パス」に重点を置いて行なわれた。 午前の「ドリブル」ではまず、ウオーミングアップを兼ねて各自ボールを1つ持って自由にドリブルすることからスタートさせた。ドリブルの最中はシュトゥーバー氏が掛け声をしたり合図をしたりして、その合図に合わせて子供たちにでんぐり返しをさせたり、「寝て起きる」をさせたりした。子供たちはドリブルしながら声を聞くだけではなく、顔を上げて合図を確認したりして動けなければいけなかった。シュトゥーバー氏はルックアップして周囲の情報を得ながらドリブルすることを求めた。
 次にリフティングを自由に行なわせた。シュトゥーバー氏は途中から「頭でリフティングもしていこう」と声を掛けた。「ヘディングもサッカーの一部ですし、(リフティングなら)自分に向かって来るボールよりも恐怖心が少ないから使うべきです」と理由を説明した。
 リフティングを一定時間行なったあと、シュトゥーバー氏が合図をしたら素早くボールを置き、ほかの仲間たちよりも先にボールの上に座る競争を行なわせた。追加として「自分から見て3個以上先に置いてあるボールに移動して座る」というルールも行なった。3個以上先に空いているボールを見つけて素早く動けなければ、ほかの仲間に先に座られてしまうメニューだ。
「1回プレーして終わるのではなく、次の状況を常に把握し、判断して動けることが重要です。『続けて考えること』を意識させるために行ないました」(シュトゥーバー氏)
 空いているボールを見つけられず、反応が遅れている子供に対しては「あそこに空いているボールがあるよ!」といった掛け声が仲間たちからもあった。
「チーム・プレーを意識したり、コーチングを楽しんだりしている雰囲気がありました」とシュトゥーバー氏は子供たちの行動を褒めた。
 次に、狭いグリッドの中に8人を入れてドリブルさせた(図1)。グリッドが狭い分、周囲をしっかり見ながらドリブルしないとぶつかってしまうものだった。
「現代サッカーでは常に狭いスペースの中でのプレーが要求されます。狭い中でのプレーに慣れ、狭い状況を打開できる技術と戦術(あるいは状況把握)を習得してほしいと思いました」(シュトゥーバー氏)
 今度は、ボールをキープしながら同じグリッド内にいる仲間たちのボールを突いて外に出すルールで行なわせた(図2)。ボールを外に出された子供はグリッドの外に出なければならない。最後までグリッドの中に残ることができた選手にシュトゥーバー氏は賛辞を送った。
「このようなメニューで戦うことの大切さや勝つ喜びを感じさせることができます」(シュトゥーバー氏)。
 続いて、狭いグリッドの中に16人を入れてドリブルさせたあと、グリッドの中にボールを持たせた8人を配置し、グリッドの外にも8人を配置した「(ボール保持者の)牢屋からの脱出」というメニューを行なった(図3)。
「グリッドの中にいるボール保持者は空いているスペースを見つけてドリブル突破をする練習になります。一方、グリッドの外にいる守備者は味方と連係した守備を学ぶことができます」(シュトゥーバー氏)
 同じグリッドを使い、グリッド内にボールを持った4人を配置し、各角のコーン横にも4人を配置した「パスとドリブルを組み合わせたメニュー」を実施(図4、図5)。コーン横でボールを受ける子供に対する要点は「ボールを足元に止めるのではなく、次のプレーへの第一歩となるファーストタッチ」(シュトゥーバー氏)だった。
 続いて、ボールを受ける子供に対し、グリッド内からパスした子供が少しプレッシャーを与えるようにもさせた。「受け手は相手のプレッシャーをかいくぐってドリブルしなければいけません。実戦をより意識させることができます」とシュトゥーバー氏はメニューの利点を説明した。
「ドリブル」に重点を置いた午前のクリニックの最後にチーム対抗戦を行なわせた(図6)。「試合を決定づける大きな要素」とシュトゥーバー氏が言う「1対1」での勝ち方を習得させることが狙いだった。また、チームが勝利を収めたら「上位の大会に昇格(負けた場合、下位の大会に降格)」できる大会方式にし、子供たちのモチベーションを高めていた。
※「パス」を重点的に指導した午後の部は近日公開します。

メニュー1<図1>:ドリブル<1>

図1 ドリブル<1>

進め方:コーンなどで狭いグリッドを4箇所つくり、各グリッドに8人ずつ入れて各自自由にドリブルさせる
ポイント:顔を上げたドリブル
オプション:指導者の合図で、例えばAグループとCグループがドリブルで移動して場所を入れ替わる

メニュー2<図2>:ボール・キープ

図2 ボール・キープ

進め方:(1)図1と同じグリッドを使用。(2)ボールをキープしながら相手のボールを突いてグリッドの外へ出す。(3)最後まで生き残った選手の勝ち
ポイント:競争心をあおる

メニュー3<図3>:ドリブル<2>(牢屋からの脱出)

図3 ドリブル<2>(牢屋からの脱出)

進め方:(1)グリッド内でボールを持っている選手はグリッド外にいる選手の守備をドリブルでかいくぐってグリッドから出る。(2)成功したら次はグリッド外から中へのドリブルを試みる
ポイント:各辺に2人ずつ守備者がいるが、守備者の動きをよく見て(スペースを見つけて)突破

メニュー4(図4、図5):ボール・コントロール

図4 ボール・コントロール

図5 ボール・コントロール

進め方:(1)グリッド内にいる選手はコーン横に立つ選手にパスし、コーンへ移動(図4)。(2)コーン横の選手はパスを受けたらグリッド内へドリブルで入る(図5)
ポイント:受け手はボールを足元に止めるのではなく、ファーストタッチを意識
オプション:グリッド内にいる選手はコーン横に立つ選手にパスしたあと、少しプレッシャーをかけつつコーンへ移動

メニュー5(図6):チーム対抗の「1対1」

図6 チーム対抗の「1対1」

進め方:(1)例えばA=アマチュア・リーグ、B=Jリーグ、C=チャンピオンズリーグ、D=アジアカップ、E=ワールドカップなどと大会名をつける(大会レベルがAから順に上がっていくイメージ)。(2)各大会、3人1組のチームから1人ずつ登場して「1対1」を行なう。(3)1人3回(計9回)の「1対1」を行ない、ゴール数の多かったチームが1つ上の大会に昇格できる(例えばAからBへ)。負けたチームは1つ下の大会に降格する。(4)各グリッドの横幅は無視してプレー可能。ゴールが決まるかシュートを打ったら次の「1対1」を始める。(5)指導者がボールを空中に投げて「1対1」をスタートする

<指導者プロフィール>

クリニックを担当したベルント・シュトゥーバー氏 写真/BBM

ベルント・シュトゥーバー(Bernd Stöber) / 1952年9月6日生まれ、ドイツのケルン出身。76年から指導者の道に進む。ブンデスリーガやドイツ各州協会のチーム、U-15 ~ U-20ドイツ代表で監督などを歴任。現在はドイツ・サッカー協会指導者講習チーフインストラクター、UEFAインストラクター、FIFAインストラクターとして指導にあたっている

<ショート インタビュー>
日本サッカー協会・技術委員会副技術委員長の山口隆文氏に聞く

日本サッカー協会で副技術委員長を務める山口隆文氏がベルント・シュトゥーバー氏のクリニックを視察していた。「ドリブル」と「パス」(「パス」の内容は近日公開)に重点を置いたクリニックの印象や日本の指導に落とし込めそうな点などを聞いてみた。

いいジュニア指導とは?

──シュトゥーバー氏のクリニックはいかがでしたか?
山口 とてもシンプルなオーガナイズでしたが、押さえるべきところを押さえていたと思います。「子供に教える」というよりも、まずはプレーさせ、プレーの様子をよく観察していたと思います。その上でポイントを伝えていました。
──ポジティブな声掛けも多かったと思います。
山口 私もジュニア年代には特に大切なことだと思っています。万が一ネガティブな要素があったとしても「今は良くなかったけれど次はきっとできるよ」など、ポジティブな働きかけは子供にとって助けになりますし、練習は活性化します。今日はネガティブな声掛けがほとんどなかったと思います。
──今日1日を通して見て、子供たちの成長を感じましたか?
山口 例えば午前中に取り組んだ「ドリブル」では、ドリブルをしながら目線を上げたり、周囲を見たりする要素を含めていました。「周囲を見ろ!」と言うのではなく、手を挙げる合図をして顔を上げさせたり、「守備側の空いたところを突破しよう」などと言ってスペースを見つけさせたりする(図3)など、コーチングに工夫がありました。ただプレーさせるのではなく、「狙い」の感じられるメニューだと思いました。
 要求したことに対して子供の動きが良くなったら欠かさず褒めていましたし、指導者側の思惑通りにクリニックが進んでいたと思います。シュトゥーバーさんの「コーチング・ストーリー」の中には学ぶべき要素の順序があり、子供たちが要素を一つずつ習得していった印象を抱きました。
──今回のクリニックを通して日本の指導者が共有できそうな点は何でしょうか?
山口 「子供たちの様子を見る」ということです。どのメニューでも動きをしばらく観察します。その中でいい動きを見せた子供がいたら、その子供に見本を見せてもらうなどをして、どんどん褒めていくのです。褒める中で「プレーの基準」を与えるようなコーチングをしてほしいと思います。
──悪いプレーを指摘するだけではなく、いいプレーの基準を示すのですね。
山口 例えば、「ディフェンスを破るとはどういうことだと思う? 相手の背後をとることだよ。そのためにはどうしたらいい?」などと投げかけ、いいプレーを見せたら褒めるのです。プレーの基準(あるいはプレーの目的)を伝えた上で子供たちの変化を見てあげられるといいと思います。

クリニックを視察した感想を話してくれた山口隆文氏(日本サッカー協会・技術委員会副技術委員長) 写真/BBM

取材・構成/髙野直樹
協力/一般社団法人メディアブレインユナイテッドアカデミー
通訳/柳沢力

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