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2018-05-31

ロシア・ワールドカップ 日本代表に選ばれた大迫。 多彩な攻撃を可能にした 「収められるFW」の逸話

 5月31日、ロシア・ワールドカップ(6月14日開幕)に挑む日本代表メンバー(23人)が発表された。昨日行なわれたガーナ戦でスタメン出場を果たしていたFWの大迫勇也も、2014年のブラジル・ワールドカップに続き、選出されている。
 08年度の『全国高校サッカー選手権大会』で10ゴールを挙げて保持している「1大会における最多得点記録」など、プロ入り前から数々の全国大会で脚光を浴びてきた大迫が育ったのが、鹿児島県の鹿児島城西高校だ。
 ここでは、同校を1993年から指導している小久保悟・監督に、ポスト・プレーを持ち味とする大迫の逸話を絡めた「オフ・ザ・ボール」に関する考え方を聞く。
(出典:『サッカークリニック』2018年3月号)

※上のメイン写真=ロシア・ワールドカップに挑む日本代表メンバーに選ばれた大迫勇也
写真/gettyimages

味方の動きを活かすポスト・プレーが得意な大迫 写真/gettyimages

FWが収められると
周囲は信頼して走れる

――攻撃におけるオフ・ザ・ボールの動きで重要な点は何でしょうか?

小久保 オフ・ザ・ボールの動きにはさまざまなものがありますが、例えばゴールに直結させるのであれば、フォワードにパスしてから飛び出したりしていく動きが重要なものの一つと言えるでしょう。
 その際にポイントとなるのがフォワードの技量です。フォワードがボールをしっかりと収めることができれば、攻撃に厚みが生まれ、選手が2列目から効果的に飛び出すことができます。ですから、低い位置ではなく、高い位置でボールキープでき、前を向いて突破もできるフォワードがいると、多くのバリエーションを基に攻撃戦術を組み立てることができると思います。

――いいポスト・プレーヤーがいると、オフ・ザ・ボールでフォワードに関われる選手が増えそうです。

小久保 そうですね。例えば、「3人目の動き」や、サイドバックの果敢なオーバーラップで攻撃に関わることができます。いいポスト・プレーヤーがいると、くさびのパスを入れた瞬間に全体が前を向いて仕掛けられます。ボールを失いにくくなりますし、動きが活性化します。

――いいポスト・プレーヤーがいる年はどんな練習が増えるのでしょうか?

小久保 シンプルに攻撃練習が増えます。その中で、「ゴール前でのポスト・プレーからの展開」や「3人目の関わり」などに取り組むことが多くなります。
 特に、日本代表の大迫勇也がいた2008年度は、大迫以外にもう1人、野村章悟というポスト・プレーヤーがいました。当時は、2人の関係から相手の背後に抜けるなど、さまざまな攻撃ができ、相手を守りにくくさせることができていました。攻撃の練習の質やバリエーションは自然と増えていました。

――やはり、その年に在籍している選手の能力次第で練習内容やレベルは変わりますか?

小久保 そうですね。2008年度は必ずどちらかがボールを収めてくれましたので、周囲の選手たちも信頼して走れました。オフ・ザ・ボールの動きも活発になりましたし、3人目や4人目も関わった攻撃ができていました。得点力をもっと高めていく意欲も湧いてきました。
 加えて、相乗効果として改善されたのが守備面です。守備陣はバリエーションのある攻撃を毎日相手にしていたため、かなり鍛えられたのです。

――反対に、いいポスト・プレーヤーがいない年はどうしていますか?

小久保 新3年生の中にいいポスト・プレーヤーがいない場合、まずはポスト・プレーヤーを育てるために、春先からいろいろな選手を起用して試します。ただし、大迫、あるいは野村クラスの選手は簡単には現れません。そんなときは、ポスト・プレーからの展開だけでなく、例えばフォワードが相手の視野から消えて動き出したスペースを2列目以降の選手が使うこと、などに取り組みます。
 また、フォワードにはボールの受け方を何種類か指導したりもします。例えば、「初めにボールに寄る動き」、「初めに相手に体をぶつけてからボールを受ける動き」、「初めにボールに寄ってから止まり、また動き直す動作」、そして、「相手がインターセプトを狙ってきたときの体を使った入れ替わり方」などです。センター・フォワード候補の選手たちはこれらを反復し、下地をつくります。また、オフ・ザ・ボールの動きに関しても、フォワードの変化のある動きに対する関わり方が練習の中心になります。

コンスタントにプロ選手が誕生する鹿児島城西高校。2017年度の高校3年生では生駒仁⑤が横浜F・マリノスへの加入を決めた 写真/安藤隆人

味方のどんな動きにも
合わせることができた大迫勇也

――ポスト・プレーヤーを育てながら、オフ・ザ・ボールの動きを絡めた攻撃のバリエーションを増やす練習としては、どのようなものを行なっているのでしょうか?

小久保 よく行なっているのが、ゴールを設置した「3対2」、「3対3」、「4対3」、「4対4」などです。これらの練習では、ボールを動かしながらボールの受け方を工夫することが求められます。その際、ポスト・プレーヤーに対する守備者を配置することがポイントになります。ポスト・プレーヤーに楽をさせるのではなく、相手の存在を意識しながら、体の向き、動き出しの方法、ファーストタッチの仕方などを身につけてほしいからです。くさびのパスを出すほうも、ポスト・プレーヤーの意図を考えてプレーしなければいけません。
 一方、ポスト・プレーヤーにつく守備者には本気でボールを奪いにいかせます。「フォワードを潰し、攻撃させない」という意識を持たせるようにしています。

――ポスト・プレーヤーのマーカーに最も求めることは何ですか?

小久保 まずはフォワードにボールを触らせないことです。フォワードにボールが収まってから奪いにいくのではなく、インターセプトを常に狙います。次に、インターセプトを狙ったコースを消されたのであれば、フォワードがコントロールした瞬間を狙ったり、パスされたあとに受け手に対してプレスに行ったりします。その瞬間に駆け引きの要素が生まれますので、オフ・ザ・ボールの質を考えなければいけません。フォワードにボールが収まる前提で守備をしてはいけないのです。

――ゴールを設置した「3対2」、「3対3」、「4対3」、「4対4」を行なうとき、大迫選手はどんなプレーを見せていましたか?

小久保 彼はとにかく、私が特別言わなくてもしっかりできる選手でした。マーカーと常に駆け引きをし、相手を上回っていました。また、受け方のバリエーションも豊富でした。最も驚かされたのが、オフ・ザ・ボールの動きをする選手に合わせてボールの受け方を変えていた点です。良くないポスト・プレーヤーはこのような練習をしたとき、ボールを受けることばかり考えてしまうものですが、大迫は周りの状況を常に把握し、状況に合わせた受け方をして味方のオフ・ザ・ボールの動きを活かしていました。腕の使い方も見事でした。手ではなく腕をうまく使い、相手の力を利用して一歩前に出たり、突っ込んで来る相手に対して自分のプレー・エリアを確保しながらブロックしてプレーしたりしていました。
 こんなエピソードもあります。ある練習日、大迫をマークしていた選手たちが、大迫に何度もボールを受けられ、抜かれていくのを見て、私が声を荒げたことがありました。業を煮やして「俺がやる!」と私が大迫のマーカーとしてついたところ、ボールを簡単に受けられてしまったのです。一度受けられたら、体を寄せてもボールがまったく見えません。ここまでボールを隠されたのは大迫が初めてでした。それでも、「コースを限定すれば止められる」と思った部分もありましたので、大迫にプレッシャーを掛けて右サイドに追いやったりしました。そうすれば、大迫がターンして左足でシュートを打つ状況になりますので、その際にブロックしようと思ったのです。しかし、注意していたはずなのに、私が反応できない速さで反転され、左足でシュートを決められてしまいました。もう、驚きましたよ……。あらためて、「大迫がボールを受けるときに、味方がさまざまな動きでシュート・エリアに入っていければ、より分厚く、より破壊力のある攻撃ができる」と感じたものです。

――同じ練習でも、大迫選手がいるのといないのとでは練習の質に大きな差が出たのではないでしょうか?

小久保 そうですね。大迫がいた年は練習のアイディアが次々と湧いてきました。特に「4対4」から人数を増やしたときにスムーズに練習が進んだ記憶があります。普通であれば、人数が増えた分だけ「エラー」が増えるものですが、大迫のようないいポスト・プレーヤーがいると、周りの動きも良くなるのです。ボールを前に運ぶリズムがすごく良かったのです。

――では、大迫選手がいた年で最も印象に残っている攻撃練習はありますか?

小久保 ゴール前の「2対2」、「3対3」を数多く行なった印象があります。「3対3」(下の図)であれば、例えば攻撃陣形を三角形にし、3人の守備者も配置して行ないます。その中、くさびのパスの入れ方、くさびのパスの落とし方、「3人目の動き」などがスムーズに行なえていました。やはり、個の能力が高い選手が1人いると、戦術のバリエーションが増えます。

――鹿児島城西高校に限らず、大迫選手のようなストライカーはなかなか現れません。

小久保 可能性を秘めたフォワードがいるのであれば、突き詰めて育てていくべきです。高い位置でボールを失わない選手、高い位置でも個で打開できる選手の育成は、私たち指導者がやるべきことだと思っています。

【鹿児島城西高校のトレーニング・メニュー】
「3対3」

「3対3」 ©BBM

進め方:①図のように、ポスト・プレーヤーを1人、シャドーを2人配置②各攻撃者に対して1人ずつDFを配置③ゴールを設置し、GKも配置④数的同数の状態でコーチの配球から開始⑤オフサイドあり
ポイント:①ポスト・プレーヤーがマークされている状態でも、くさびのパスを正確に入れる②くさびのパスを攻撃のスイッチにし、相手の背後に飛び出す③ポスト・プレーヤーは体の向き、マーカーの状況、味方とマーカーの状況を見て、受け方を変える④ボールをしっかりと収めて、質の高いボールを味方に配球する

自身2度目となるワールドカップ日本代表メンバー入りを果たした大迫勇也を育てた鹿児島城西高校の小久保悟・監督 写真/安藤隆人

【指導者プロフィール】
小久保悟(こくぼ・さとる)/1967年12月29日生まれ、鹿児島県出身。鹿児島商業高校と東海大学を経て、古河電工でFWとしてプレー。93年に鹿児島城西高校に赴任し、同校サッカー部の初代監督に就任した。日本代表FWの大迫勇也を擁した2008年度は、インターハイでベスト8、高円宮杯全日本ユース(U-18)でベスト8、全国高校サッカー選手権大会で準優勝の成績を残した

取材・構成/安藤隆人

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