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2018-05-10

日本に帰ってきたクルピ 公式戦の価値は練習の5倍!?

 不安定さはまだ残るが、J1リーグ第7節での初勝利を皮切りにホームで4連勝を収め、開幕からの大不振を抜け出したガンバ大阪。
 2014年度に国内3冠を達成したガンバは、16年、17年と無冠に終わると、今シーズンは日本での豊富な指導実績を持つレヴィー・クルピ氏を監督として招へいし、再スタートを切っている。
 セレッソ大阪の監督時代には、若き日の香川真司、清武弘嗣、乾貴士らの成長を後押しするなど育成に定評がある指導者に、「試合」についての考え方や選手へのアプローチ法などについて話を聞いた。
(出典:『サッカークリニック』2018年6月号)

取材・構成/下薗昌記
写真/宮原和也

セレッソ大阪の監督時代は何人もの若手の才能を伸ばしてきたクルピ監督。ガンバ大阪でも積極的に若手を起用し、試合経験を積ませている

「いい選手」なら
若手もベテランも関係ない

──クルピ監督は攻撃的なサッカーを志向することでも知られています。指導哲学を聞かせてください。

クルピ サッカーは多くの人に喜びを与えるスポーツです。喜びのためには当然、勝利を目指さなければいけません。私はゴールを守るためだけに選手をピッチに送り出すことはありません。しかし、サッカーは2つの要素で成り立っているとも思っています。攻撃も守備もどちらもできなければいけません。バスケットボールもバレーボールも同じです。

──ブラジルではサッカーは2つに分類されます。多くのブラジル人が好む『フッテボウ・アルテ(芸術のサッカー)』と勝負にこだわる『フッテボウ・レズウタード(結果のサッカー)』が存在します。クルピ監督が好むのはどちらですか?

クルピ どちらかを選べと言われたら、前者を選びます。ただし、私は『フッテボウ・レズウタード』も嫌いではありません。ブラジルのサッカー界において、試合に勝てない監督は生きていけないからです。ブラジルでは守備的な戦いをする監督が揶揄されることもありますが、技術面で劣るチームが勝機を見出すための正当な戦い方でもあるからです。いい選手がそろっていないクラブが、サンパウロやサントス、フラメンゴのようなビッグクラブに対して攻撃的に挑もうとしたら、大敗を喫してしまうでしょう。だからこそ監督は所属選手の質に応じた戦い方を選ぶべきなのです。

──クルピ監督はかつて指揮したセレッソ大阪でも香川真司・選手(現在はドルトムント)や乾貴士・選手(現在はエイバル)ら当時の若手を成長させたり、ブラジルでも若手を発掘してきたりした指導者として知られています。若手を見出す秘訣を教えてください。

クルピ 選手から感じ取るフィーリングを大事にしています。ただし、「いい選手」と感じるときに「若手」と「ベテラン」を区別してはいません。「いいプレーをしている」と感じた選手をピッチに送り出しているだけです。ですから、才能を持っている若手が、私が今まで率いたクラブにいてくれたという幸運にも恵まれたと思っています。

──ガンバ大阪でも、就任後初の公式戦で高校卒ルーキーの福田湧矢・選手をスタメンに抜擢するなどして周囲を驚かせました。選手を見出すフィーリングはどのように感じるものなのでしょうか?

クルピ ボールの蹴り方やプレー・スタイルの細かな部分まで、自分の目でしっかり観察することです。練習で目をつけた選手が、次に紅白戦などでどんなプレーを見せ、どんな成長を見せるかなどを観察します。キープの仕方や、パス、キックなどすべてをしっかり見るようにしています。

──ガンバ大阪でも紅白戦など試合形式の練習が目立ちます。練習中の観察で目についた選手を、試合形式でさらに見極めるのでしょうか?

クルピ 私は5回練習するよりも、1回公式戦を経験させるほうが選手を伸ばせると思っています。ブラジルには「練習は練習、試合は試合」という言い回しがありますが、若手は試合の中で伸びていくものです。公式戦を経験することは大切なのです。

ケガから復帰した元日本代表の今野泰幸。11節のベガルタ仙台戦では決勝ゴールをアシスト。ボランチとしてチームに安定感ももたらす

日本はシュート時の
判断と技術が課題

──それでも、実績がない高校卒ルーキーを開幕戦で抜擢するのは日本人監督には難しいことかもしれません。

クルピ 日本独特の文化が関係しているのかもしれません。日本ではすべての面において過程が重視されているように感じます。ベテランへのリスペクトもあります。しかしサッカーにおいては、ベテランだからと言って必要以上にリスペクトしなくてもいいのです。もちろん、経験のある選手への敬意は必要ですが、もし若手がベテランよりもいいプレーをしているのであれば若手をピッチに送り出すべきです。

──若手はときに欠点も持ち合わせているものです。才能ある選手を伸ばすのに必要なことは何でしょうか?

クルピ 選手の特長をしっかり見ることに尽きます。ただし、特長については選手個々によって違います。私自身もブラジルで指導していたときに「この選手は伸びる」と思って起用した選手が伸びず、見極め違いだった経験があります。若手はそれぞれに個性があるからこそ、指導者は我慢して起用することが必要なのです。日本の若手とブラジルの若手を指導する際に感じる違いは特にありません。いずれにせよ、若手に関しては常に特長に目を向けるのです。

──セレッソ大阪の監督時代を含め、日本のサッカー事情に精通するクルピ監督は、日本サッカーの欠点や課題をどう見ていますか?

クルピ 欠点はフィニッシュです。筋力的な部分も関係していると思いますが、それ以上にシュート技術の低さが問題です。シュートのときにまず、「自分がどうフィニッシュしたいのか」をイメージし、実際にプレーに移せなければいけませんが、多くの選手がそれをできていません。
 例えば、シュートを打つ前には「コースをしっかり狙うか、強烈なシュートを打つか」を選択すると思いますが、瞬時にいい判断を下せなければいけません。現在、私がガンバ大阪で指導する中で選手たちに強調している点でもあります。その中でもケイト(中村敬斗)は、私が若手を見る上で重視している「天賦の才」を持っている選手です。非常に強くて正確なシュートを蹴れるのが彼の特長ですし、「ゴールを決めたい」という強い気持ちを持った選手です。

──シュート精度に関しては育成年代の課題なのでしょうか?

クルピ まさにそう思います。日本はもっと筋力的な部分を上げ、フィニッシュの精度も磨かなければいけません。ボール回しに関しては日本のサッカー界も高いクオリティーを持っていると思いますが、フィニッシュに関してはさらなる改善が必要です。

19歳の食野亮太郎は今季出場機会を増やしている若手の1人。昨日行なわれたYBCルヴァンカップのサンフレッチェ広島戦でJ1チーム相手に公式戦初ゴールを決めた

──指導者としての夢や目標があれば教えてください。

クルピ 私のような年齢(65歳)に達すると、今後のプランを考えるのではなく、日々の過ごし方を現実的に考えなくてはいけません。やはり、ガンバ大阪でタイトルを獲得することです。「監督としての履歴書」において、日本でのタイトルが最も必要なものだと思っています。

──サッカーの指導者やこれから指導者を目指す人にメッセージをお願いします。

クルピ サッカーの指導者を志す人というよりは、私の『アミーゴ(友人)』としてアドバイスを送りたいと思います。すべてのことを自分の頭で考えて決断してほしいと思います。「他人がどう思うか」を気にする必要はありません。成功しようと失敗しようと他人の責任にすることなく、自分で下した決断に対して自分で責任を負ってほしいのです。それが私から皆さんへ送る言葉です。

<プロフィール>

レヴィー・クルピ(LEVIR CULPI)/ 1953年2月28日生まれ、ブラジル出身。現役時代はセンターバックとしてプレー。現役から退いたあと、監督としてブラジルの名門インテルナシオナル、クルゼイロ、サンパウロ、アトレチコ・ミネイロ、サントス、フルミネンセなどを率いた。セレッソ大阪では97年と2007年途中から11年、そして12年途中から13年まで指揮を執った。18年にガンバ大阪の監督に就任した

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