取材・構成/杉園昌之 写真/松田杏子
ロティーナ(以下、L) 幸運だったのは、キャリアの初期でヌマンシアとオサスナを2部から1部に昇格させたことです。2シーズン連続でチームを引き上げたのでインパクトを残せました。現役時代に華やかな実績を残せなかった「名前のない監督」には、まず結果が必要です。
L もちろんです。ただし、結果の出し方はもっと重要です。監督がいい仕事をすればチームの結果もついてきます。
L クライフが率いていたFCバルセロナ(1988年から96年)はウイングをタッチラインいっぱいに張らせて攻撃の幅をつくり、革新的なサッカーを展開していました。クライフのチームからは本当に多くのことを学びました。当時のスペインには幅をうまく使ってポゼッションするチームはまだ少なかったと思います。
L 目新しかったのはビルドアップの仕方です。今では珍しくないのですが、センターバックを攻撃の組み立てに参加させたのは画期的でした。クライフが来る前のスペイン・リーグではセンターバックの仕事は限られていました。ボールを奪ったら、外に蹴り出すか、前線にロングパスを送ることがほとんどでした。
クライフはスペイン・サッカーを根本から変えたと言っても過言ではありません。ビルドアップの能力に長けたオランダ人のロナルド・クーマン(現在はオランダ代表・監督)をセンターバックに起用し、後ろからボールを丁寧につなぐサッカーを実現しました。3バックのときは両脇のセンターバックがサイドへ開いて攻撃を組み立てていました。また、4バックのときはボランチが最終ラインの中央に下がり、2人のセンターバックがサイドに開いてビルドアップしていました。ピッチには選手が均等に並び、幅と深さをうまく使っていたのです。今のバルセロナの原型と言っていいでしょう。そして時代は流れ、クライフの指導を受けたジョゼップ・グアルディオラ(現在はマンチェスター・シティの監督)が、バルセロナのサッカーを進化させました。
L すべてをコピーすることはできません。いくつかの要素を取り出し、選手たちに教えていました。現在も私の根本的な考え方は変わりません。他チームを参考にするときも、そのまま模倣することはないです。
選手は技術の高さだけでなく、戦術を理解する能力が重要だと思います。理解力のある選手は教えたことをすぐに吸収します。一方、時間がかかる選手もいます。ですから、毎日の練習が大切なのです。試合のあとに映像を見ながら、良くできた部分とできなかった部分の理由を説明し、確認します。練習では問題点を修正し、また確認します。その繰り返しの作業を続けています。
L 学ぶ意欲は高いと思います。総じて聞く耳を持っていますし、練習態度は非常にいいです。スペインでは、基本的な戦術をすでに理解している選手が多いため、チーム・コンセプトを浸透させるのはスムーズですが、難しい面もありました。私が説明をしても、「俺はすべてを知っている」という態度をとる選手もときどきいましたからね。
L テクニックとフィジカルに優れた選手を育てていると思います。一方、スペインは下部組織のときから試合経験を多く積んでいます。毎週のようにリーグ戦があり、厳しい競争にさらされています。必然的に、試合で勝つ方法をよく理解した選手が育っていると思います。スペインではユース年代だけでも3、4チームつくり、各チームがリーグ戦で多くの公式戦を戦っています。練習は大切ですが、公式戦の中でしか学べないものもあります。試合経験を重ねることでしか成長できない部分もあるはずです。
L すべてです。練習の成果を出すのが試合だと思っています。試合で成功と失敗を繰り返し、身をもって学ぶことができます。
L 育成年代における試合経験の少なさだけで一概にくくることはできません。日本の文化が育む人間性も関係していると思います。例えば、1-0のときの試合の終わらせ方について話します。試合終了間際、1点差でリードしている状況だとします。スペインでは育成年代の選手でもあらゆる手を使って時間稼ぎをするでしょうね。勝つための手段として幼い頃から教え込まれていますし、当たり前の風景になっています。
L 昨シーズン、ヴェルディで同じような状況になり、私は時間稼ぎの意図もあって交代のカードを切ったのですが、選手はピッチから走って出てきました。私が「なぜ、走って出てきたのか?」と聞くと、「相手サポーターがブーイングしていたから」ということでした。スペインであれば、12歳の子供でもふてぶてしく歩いて出てきたでしょう(笑)。
L いえ、怒りませんでした。スペイン人の私も、日本の文化や教育を理解しないといけないと思ったからです。否定するつもりはありません。各国で文化は違うものです。ただし、スペインの監督たちにヴェルディで起こった「時間稼ぎ」の件を話すと誰にも信じてもらえませんでした(笑)。
L スペインにはスペインの育成があり、日本には日本の育成があります。文化も違えば教育も違います。当然、サッカーの選手育成も違ってくると思います。
ミゲル・アンヘル・ロティーナ(MIGUEL ANGEL LOTINA)/ 1957年6月18日生まれ、スペイン出身。現役時代はログロニェスなどでプレー。現役から退いたあと、90年にログロニェスBで指導者のキャリアをスタート。その後、2部のヌマンシア、オサスナを1部に昇格させた。セルタを率いてUEFAチャンピオンズリーグを戦い、エスパニョールではスペイン国王杯で優勝に導いた。2014年以降はキプロスとカタールで指導経験を積み、17年から東京ヴェルディを率いている
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