取材・構成/森田将義 写真/森田将義、gettyimages
島崎 人数が減った分、スペースが生まれるはずですから、それをより意識するようになりました。スペースと言うと、広いスペースばかりを想像されるかもしれませんが、私たちは狭いスペースも含めた活用法を考えました。ボールを狭いスペースにあえてもち込んでテクニックで打開したり、相手を引きつけて相手のいないエリアをつくったりすることで、より効果的なチャンスをつくる、という考え方です。至る所に味方と相手がいた11 人制よりも戦略的に試合を運べるようにもなりましたので、意図的に混戦をつくり、その中で私たちのストロング・ポイントである技術を発揮するのが狙いです。
ただし、8人制で活躍するのが選手たちのゴールではありません。11人制になったらサッカーがより戦術的になります。例えば、ラインをコントールしてくる相手との対戦の場合、縦10メートルの範囲に20人の選手が集まった狭いエリアでプレーする機会も増えることでしょう。相手の体も大きくなり、ドリブルを仕掛けても引っかけてしまうことが多くなると思います。11人制になってそのような変化があっても、狭いスペースでも落ち着いてゆっくりボールを回せる力を身につければ活きるはずです。
そういった考えから、練習でも狭いスペースをより意識させるようになりました。試合中の自陣でのスローインのときも、相手に囲まれることをあえて狙って近くに投げさせています。
島崎 普段の練習からスペースを狭くしています。3人1組で行なう「6対3」(下記のトレーニング・メニュー)であれば、選手のコンディションにもよりますが、6〜7メートル四方のグリッド内で行なうことが多いです。タッチ数を制限したり、同じ色のビブスの選手へのパスを禁止するなど設定を変えながら繰り返し練習しています。設定で多いのは「必ずツータッチでプレー」というルールです。ワンタッチよりもツータッチのほうが難しいと思っています。「必ずツータッチでプレー」という設定だと、選手はボールを止めるときの置き場所を考えるようになります。ファーストタッチで相手にボールを奪われない場所に置ければ、どれだけ相手にプレッシャーをかけられても簡単にはボールを失わなくなります。このようなことは、言葉で説明するよりも、「6対3」などのメニューを通して感覚として身につけさせるのがいいと思っています。
「相手に囲まれるとラッキー」、「自分が『1対2』になれば誰かがフリーになる」という意識になれば、11人制でプレッシャーが強くなっても苦労しなくなるのではないかと考えています。
島崎 11人制では前線のタレントにボールを集めてゴールを奪う戦い方が多かったのですが、8人制はフィールド・プレーヤー全員にゴールを奪うチャンスがあるため、守備の選手にも攻撃参加させています。選手には「守備を頑張れば攻撃のチャンスがくる」と言っています。11人制だと一人ひとりの役割が固定され、決まったプレーしかせずに済んでいたようにも感じます。また、相手の人数が多くてスペースが少なかったため、どこかで誰かが突破しないと得点になりませんでした。しかし8人制になってからは、考えてプレーすればスペースが生まれるので戦術的に戦いやすくなりました。
一方、11人制だとテクニックはあるけれど足が遅い選手や、テクニックはないけれどシュート力がある選手など、長所と短所がはっきりした選手も試合で活かせていたのですが、8人制になってからは長所と短所がはっきりした選手は試合で活躍しづらくなったとも感じます。OBの堂安律・選手(現在はオランダのFCフローニンゲン)は5年生のときに6年生の試合に出ていましたが、テクニックはあるものの足は速くはない選手でした。8人戦だったら6年生の試合に出しにくかったかもしれません。8人制ではすべてのプレーをある程度こなせる選手が求められている一方、部分的に光る武器を持った選手は育ちにくくなっている気がします。
島崎 メリットは守備がうまくなることでしょう。人数が少なくなれば考えて守る必要が出てくるからです。加えて、私たちの場合は5年生が終わるまではシステムを「1–3–3」で固定しています。頭を使わないと守れない状況にしているのです。自陣深くまでもち込まれたら1人では対応できませんので、そうなる前に高い位置でのボール奪取を身につけるようにしています。「最初に、誰がどのコースを切るか」、「次に、誰がどのポジションへ走れば相手を追い込めるか」など、試合の中で失敗しながら選手は学んでいけます。
デメリットを挙げるとすれば、空いたスペースを有効に使うチーム、そして前線に足が速い選手やフィジカルの強い選手を置くチームが増えたため、縦に速いサッカーが増えた点かもしれません。縦に速いサッカーは8人制のメリットを活かせないと私たちは考えており、なるべくゆっくりとしたサッカーをするようにしています。
2017年度の全日本少年サッカー大会(以下、全少)ではコーナーキックの際に消極的なチームが多いように感じました。コーナーキックではゴール前に人数をかければ得点の可能性が高くなりますが、カウンターを受ければ数的不利な状況を強いられ、失点のリスクも高くなります。負けないことを意識しすぎて、コーナーキックの際にゴール前に2、3人しか配置しないチームが多く、もったいないと感じました。私たちの場合は、少ない人数で守るのに慣れているのと、コーナーキックはゴールが奪えなくても相手のプレッシャーになると考えているため、積極的に狙いにいっています。
島崎 8人制では狭いエリアをつくるために、なるべくゆっくりとしたサッカーを意識させていますが、全少が終わり、卒業が近くなった6年生には、判断やパスなど、一つひとつのプレーを練習から速く行なうように意識させています。グリッドのサイズはこれまで同様になるべく狭くしています。この狭いサイズに対応できるようになると、中学年代以降も楽にプレーできるからです。
6年生になったら「2–4–1」というシステムを採用しています。「2–4–1」は各ポジションに1人ずつ足せば、11人制の「3–5–2」になります。横にいる味方との距離が近くなるだけなので、11人制に自然に移行できるのではないかと考えています。
進め方:①「3人組×3」で行なう「6対3」のボール回し②ボールを奪われた組が守備に回る③1タッチや2タッチなどタッチ数を制限したり、パスする相手のビブスの色を限定したりするなど、狙いに応じてルールを変えて行なう
ポイント:①ただパスをつなぐのではなく、相手にボールを奪われないためのファーストタッチを意識する②あえて狭いエリアでプレーし、相手を引き寄せることでフリーのエリアをつくるなど、スペースを意識しながらプレーする
<指導者プロフィール>
島崎久(しまさき・ひさし)/ 1969年9月7日生まれ、兵庫県出身。小学2年生のときに創部したばかりの『西宮SS』に加入し、サッカーを開始。大社中学校、甲山高校ではMFとしてプレーし、兵庫県の地区選抜にも選ばれた。20代後半で西宮SSで指導者となり、堂安律(現在はFCフローニンゲン=オランダ)らを指導。2017年度は兵庫県のU‒12タイトル4つすべてを制覇した。U‒12モデル地区トレセン(西宮市)でのコーチングも経験。D級ライセンス所持
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