取材・構成/森田将義
写真/gettyimages、森田将義
加藤 創部から指導方針として掲げるのは「個の育成」です。私のような「お父さんコーチ」が教えることが多く、年度や学年によって指導者が違いますが、それぞれが選手や学年の個性に応じながら個の能力を高めるためのメニューを考えています。特定の練習を徹底しているわけではありませんが、上のステップに進むために大事な「止める、蹴る、運ぶ」の3つを重視しています。
加藤 宇佐美選手は入ってきた時点で持っているものが違いました。相手がいない練習でも頭の中でイメージしながら、1人でドリブル練習を繰り返していたと当時の担当コーチから聞いています。指導者が見ていないところでも努力できていたそうです。彼のような特別な選手を育てるのは難しいのですが、今いる子供たちにもドリブルがうまくなるように、練習では相手との距離感やボールの置き場所をアドバイスしています。
「1対1」で勝つためには左右両足でボールが蹴れることが大事です。素早くボールの落下地点に入ることができ、自分のイメージ通りに体を動かせることも重要です。運動神経がいい子供は、サッカーの技術が身につきやすい傾向があります。そのため、低学年の間はサッカーを教えるよりも、動ける体づくりを先に心がけています。ラダー・トレーニングを取り入れたり、練習ではバックステップも意識的にさせています。最近はサッカーしか経験していない子供もいるので、ボールをまともに投げられないこともあるくらいです。そのため、運動能力を全体的に上げるために、練習の中でドッジボールも行なっています。
加藤 どのような練習でも「1対1」の局面を増やすようにしています。「1対1」で大事な駆け引きは経験を積み重ねないと身につきません。高学年になり、駆け引きのバリュエーションが増えてくれば、サイドで有効な仕掛け方、時間帯や点差に応じた勝負の仕方など、実際の試合を想定してプレーさせます。8人制ではコートが広く、ドリブルがうまい子供が1人いれば勝てる可能性が高まりますが、11人制では1人でドリブルをしていても試合に勝てません。子供たちの選択肢を増やし、局面に応じた判断ができるようにすることが大事です。
加藤 周りからはよく「長岡京SSSは個人技が高い選手がいるね」と言われるのですが、ドリブルだけが個人技ではありません。ボールを正確に遠くへ蹴れることも個人技の一つです。選手それぞれが持つ個の能力を伸ばすことが私たちの役目だと考えています。「1対1」は重視していますが、特化はしていません。ただし、「1対1」はサッカーで起こり得る最小人数の局面であり、相手をかわせるとフリーでロングボールを蹴れるなど個の能力を活かしやすくなります。そのため、低学年の間は「まず1人かわしなさい」、「ボールを取られたら、すぐに取り返しなさい」と声をかけ、意識させています。
加藤 「1対1」に強い選手はボールに触る数が違います。意欲がある選手は朝、学校に行く前の5分、10分の間にリフティングしますし、放課後も友達とボールを蹴っています。経験値の違いが差になるのでしょう。チームに1人そうした選手がいると、周りの選手も引っ張られていきます。うまい子供をコンスタントに育てられるといいのですが、結局は子供の主体性にかかってくるのが実情です。指導者が「ドリブルしなさい」、「リフティングしなさい」と声をかければ、その場ではやりますが、練習後に自分たちが率先してやるかと言えば、やらないと思います。「サッカーが好き」という気持ちがある子供は主体性を持って動けると思うので、そうした気持ちの育成を意識しています。
反対に、「1対1」が弱い子供は主体性が持てず、自己主張ができないケースが多いです。自己主張ができないから、ボールを持っても「パスしないといけない」と思ってしまう傾向があります。そうした子供を伸ばすには、指導者が成功を経験させてあげることがポイントだと思います。例えば、ドリブルが苦手な子供にとっては1人かわせることだけも大きな喜びです。サッカーで最もうれしい場面は点を取る瞬間なので、1年間に全員が1点取ることを目標に活動しています。喜びを経験させてあげると、子供もチームに居場所を感じ、自身が必要とされる存在だと思うことができます。それが自信につながります。
<指導者プロフィール>
加藤泰久(かとう・やすひさ)/1972年9月29日生まれ、京都府出身。中学校までは野球に励み、西乙訓高校進学とともにサッカー部に所属し、GKやDFを務めた。卒業後は長岡京サッカースポーツ少年団の社会人チームでプレー、現在もシニアチームでプレーを続ける。実子が長岡京SSSに入団した2000年から指導を開始。卒業後もチームに残り、現在はチームの指導員長を務める。指導者D級ライセンスと審判4級ライセンスを保持
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