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2018-01-10

<Special Report> 竹田南高校に女子サッカー部が誕生 サッカーを通じて人間形成と地域活性化を目指す

 2019年にワールドカップを控え、期待が高まるサッカー女子日本代表『なでしこジャパン』。その機運を後押しするように、柳ケ浦高校に続き、大分県内2チーム目となる女子サッカー部が誕生する。
 女子サッカー部を新設するのは大分県竹田市の竹田南高校だ。JFLに所属する『ヴェルスパ大分』のサポートを得て、2018年4月からの活動開始を目指しており、関係者は「女子サッカーを通じて地域を活性化したい」と抱負を口にする。その抱負を実現するため、人工芝のグラウンド(「ベースボール・マガジン社 施工」)を整えて全国から部員を公募し、3年以内の全国大会出場を目指す。同校を運営する稲葉学園の平野孝光・理事長も「竹田から女子サッカー選手が育ってほしい」と語る。
 竹田南高校サッカー部の描く未来図を平野理事長とヴェルスパ大分を運営するNPO法人『大分スポーツ&カルチャークラブ』の清原裕輔・副代表に話を聞いた。

※上写真は今春から女子サッカー部が創部する竹田南高校

(クレジット)
取材・構成/柚野真也
写真/今枝あき

女子活躍の場を提供したい

――女子サッカー部創設に至った経緯を教えてください。

平野 みんなで協力して何かをつくり上げることが現代の子供たちは得意ではありません。スマートフォン普及の影響もあってか、人間関係が希薄です。そうしたことを改善するには道徳やホームルームの時間だけでは十分ではないと判断し、体を動かし、お互いを理解し合う必要のあるサッカー部かラグビー部の創設を考えていました。そして竹田南高校の校風を考慮し、協調性と協働性が求められるサッカーを取り入れることにしたのです。女子サッカー部設立を決断した背景には2つの理由があります。1つは女子が活躍する場をつくりたいこと、そしてもう1つは大分県内に女子のサッカー部が少ないことです。

――竹田南高校どのようなスポーツを通じた教育に取り組んでいたのですか?

平野 ほとんど手つかずの状態でした。ですから今後は、スポーツを通じての人間形成や社会性を育てるために学校を挙げて取り組みたいと思っています。スポーツは結果を出すことも大事ですが、優劣だけではなく、サッカー、そしてスポーツを好きになってもらうことも大切にしていきます。さらに、社会生活で必要とされる人間性を身につけてほしいのです。それを可能にするのがサッカーだと思います。
 一昨年から構想を抱き、昨年の1月に具体的な計画が出来上がりました。そして、ヴェルスパ大分のオーナーと会って「一流の社会人をつくることがチームの理念」と聞き、共にサッカーを通して教育していこうと一致しました。

「プロ」が最優先ではない

――チーム理念の具体的な話を聞かせてください。

清原 ヴェルスパ大分はJリーグで活躍するプロ選手も輩出してきましたが、決してプロ養成所ではありません。プロになることを最優先しているわけではなく、「結果としてプロになる」という感じです。プロになるという夢を追いかけるのは大切なことですが、すべての選手がプロになれるわけではありません。それが現実です。また、プロになっても、引退後の生活のほうが長いものです。ですから、社会人としてしっかりと歩めるように人間形成を重んじているのです。

平野 生徒には、サッカーを通して人間性を磨き、自分で考えて行動できるようになってほしいと思います。いつ、どこで、何をすべきかを考え、責任を持った上で行動し、人生で欠かせない自立心を育んでほしいと思います。
 単独行動を好み、人との関わりを避ける傾向が最近の生徒からはうかがえます。サッカー部が一石を投じ、グラウンドから聞こえてくる楽しそうな声に人々が集まり、「仲間に入ってみよう」、「サッカーをやってみよう」という生徒が増えてほしいのです。そんな変化を期待しています。
 サッカーは選手だけのものではありません。見る人や応援する人など、関わり方はいろいろあります。サッカー部が核となって学校の一体感をつくり、学校の誇りとなる、そういう未来を思い描いています。

清原 サッカーは90分間のスコアで勝敗が決まります。そして、選手たちによる瞬間、瞬間の判断の積み重ねが最終スコアなのです。ですから、選手は自立して自分で判断を下さなければなりません。自立が土台になるのです。
 また、技術や戦術もサッカーには欠かせません。同様に、逆境に立ってもあきらめず、懸命にプレーすることも大切なのです。サッカーの競技力にかかわらず、こうした姿勢は誰でも身につけられます。そういう選手を育てていきたいと思います。

「サッカーを通じて人間形成を磨いてほしい」と話す竹田南高校の平野理事長

目標は3年以内に全国大会出場

――今後の計画、目標を教えてください。

平野 4月からの活動は1期生だけで行なうことになります。ですから、ヴェルスパ大分レディースとの練習で競技力をアップし、在校生からの入部によって活動を充実させたいと思います。また、2期生の部員募集にも注力します。大会視察、そしてクラブや中学校の訪問によって選手を集め、3年間後には60人規模の部にしたいのです。一方、「3年以内での全国大会出場」という目標も掲げています。

清原 ヴェルスパ大分は全力で、強化と選手募集をサポートしていきます。サッカー好きな選手に集まってもらい、プロになる選手、進学してサッカーを続ける選手、そしてヴェルスパ大分レディースに入るような選手が続々と出てほしいと思います。将来的には、出身選手が竹田南高校の指導者になってくれたらいいですね。

平野 フットサルコート1面の広さではありますが、人工芝のグラウンドを校内につくりました。全校生徒にとってサッカー部が身近に感じられてほしい、という願いからです。市営グラウンドを併用しますから、強化に支障はないと思います。また、サッカー部が使用しないときにはほかの部活や学校外の方々にも開放する予定です。

清原 最高級の人工芝を選びました。ボールの転がり、反発高さ、衝撃吸収性を熟考した上での決断です。4月には素晴らしい人工芝のグラウンドで練習できます(「ベースボール・マガジン社 施工」)。楽しみですね。

――ハード面もソフト面も充実しています。理事長として監督や選手に求めることは何ですか?

平野 サッカーを通じて学校や地域を活性化していきたいのです。そして、監督には選手一人ひとりの個性を引き出す指導、選手には「楽しく、厳しく、心をつなぐサッカー」の体現を期待しています。
 近年は、我慢や忍耐の価値が薄れているようにも感じますが、結果だけでなく過程における努力も大切なのです。そういう過程を通じて自信を持って行動できる選手になってほしいと思います。困難や試練にも立ち向かえる人間になってほしいものです。

――大きな期待を背負ってのスタートとなりますね。

清原 サポート役ではありますが、卒業生がヴェルスパ大分レディースに入って活躍してくれる流れができれば、いいスパイラルが生み出せるでしょう。女子アスリートの場合、高校年代から上の活動環境は限られてしまいます。ですから、選手としてはもちろん、引退後もサッカーに関われる環境づくりのスタート地点にできるようにサポートしていきます。

平野 女子サッカー部創設の好影響はすでに見られます。剣道、柔道、卓球、野球など、活気が感じられるようになりました。その波及効果が学内だけでなく、町に広がることを期待しています。若者にはそれぞれの個性があり、可能性を秘めています。本当に4月が待ち遠しいです。

JFLに所属するヴェルスパ大分が全面サポートする

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