取材・構成/安藤隆人 写真/安藤隆人、gettyimages、BBM
大塚 パスに関しては「ゴールにつなげるため」という考え方を大切にしています。すべてのパスには「ゴールに向けて」との意図があるべきだと思います。最終ラインでの横パスもゴールを奪うための布石という意識で行なってほしいのです。
大塚 私が実際に見てきた選手の中で受け手として突出していたのが柳沢敦さん(富山第一高校出身。元日本代表FW)です。ボールがないときも、シュートにつながるような動き方を常にしていました。裏でパスを受けられるように動き、ダメなら動き直すというイメージです。それを繰り返していました。しかも、裏を狙うための予備動作もしっかりとしていました。
大塚 イングランドで放送されている『マンデーナイトフットボール』というサッカー番組を私はよく見ています。ある放送ではクリスチアーノ・ロナウド(レアル・マドリード)の動きを取り上げていました。彼は、相手センターバックを視野に入れたポジショニングをしつつ、相手センターバックが自分に寄せて来たときに『スピン(相手に背中を向けて回転し、裏を突く)』していたのです。以前のセオリーは「守備のギャップに入ってからウェーブの動き(弧を描くような動き)をしなさい」というものでした。「ボールと相手を視野に入れながらウェーブの動きで背後や脇を狙う」との教えが主流だったのです。
しかし現在のヨーロッパのトップレベルでは以前のセオリーは通用しません。それでは「遅い」からです。ボールや相手から目を離すことになりますが、スピンで一瞬にして入れ替わるプレーが増えています。当然、出し手もスピンすることを理解しておき、そのタイミングを逃さないようにしなければいけません。先ほどの番組では、センターバックのセルヒオ・ラモス(レアル・マドリード)がC・ロナウドのスピンを見逃さずにパスしているシーンが紹介されていました。
昨年12月に『AFCプロ・ライセンス』の講習を受けた際、UEFAのインストラクターもスピンに言及していました。「ウェーブの動きも選択肢にはなる。しかし、その動きでは遅いことがある」と彼は言っていたのです。スピンの重要性を再確認しました。
大塚 今年の春先からは「スピンしてボールを受けるトレーニング」を取り入れました。今日の試合(『プリンスリーグ北信越』の第10節/7―1新潟西)でもスピンして抜け出すシーンが見られました。もっとも、スピンする選手と出し手の判断やプレー精度に改善の余地があり、パスを出せないシーンがあったのも事実です。
大塚 練習の甲斐もあり、スピンの精度が上がりました。相手のセンターバックが来たと感じた瞬間、シャープな動きでスピンしているためにパワーとスピードを持ってゴールに迫れています。
スピンのポイントは「相手(DF)とボールを同一視野に常に入れなくてもいい」ということです。こうすることでスピーディーな動きを可能にするのです。野球の外野手も予測したボールの落下点に向けてダッシュする際、ボールから目を離します。ボールを気にしながら走っていたら速度が上がらないからです。同じように、C・ロナウドもスピンしたり、鋭いクロスに合わせたりするときはボールから目を離しています。セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)もスピンや「目を離す」というプレーをうまく使ってシュート・チャンスをつくっています。日本人選手にもこうした動きは必要だと思います。「ボールと相手を見ながら……」と杓子定規にプレーしていると、「遅い」ということになりかねないからです。
富山第一のキーパー・コーチと話していると、キーパーもクロス・ボールから目を離してダッシュしているようです。素早い動きで優位なポジションをとり、キャッチングに備えるのです。そもそも、ボールが蹴られた瞬間に落下地点を予測して自分(GK)が行くのか、ディフェンダーに行かせるのかを判断しなければ、ゴールを奪われる可能性が高まります。
大塚 そうした能力はキーパーだけでなく、ディフェンダーにもフォワードにも必要とされます。できなければ、キーパーはキャッチできませんし、ディフェンダーはクリアできません。そしてフォワードは点を取れないでしょう。ですから、そうしたトレーニングをするようにしています。
大塚 あるパスに関する意図と動きが合致しなければなりません。ただし、ベースとなるのは「ゴールに向かうこと」です。このベースの上で意図と動きが合っていなければ、チームとしていい結果を得られないでしょう。当然、いつでもゴールに直結する選択肢が存在するとは限りませんから、そういう場合はゴールへの最短コースを切り開ける選択肢を優先することが大事になります。
例えば、C・ロナウドはディフェンダーやキーパーのロングキックを受ける際もボールから目を離して相手のセンターバックやサイドバックを見ています。スプリント力だけでなく、予測力にも優れているため、先に落下地点に入ってボールをコントロールできるのです。
彼のようにすべての面で優れている選手と同じようにプレーすることは簡単ではありません。しかし、意図的に目線を切ってプレーできるようになれれば、日本人選手は俊敏性をより活かせるようになると考えています。あるいは、「間で受ける」というコーチングがメンタル的なブレーキをかけているのかもしれません。
大塚 そうですね。ゴールを奪うためにプレーしているわけですから、「(ボールを)受けて終わり」ではありません。ですから指導者は、「受けて、抜けて、ゴールに迫る」という意識を選手に植えつけなければなりません。
大塚 映像を見ることから始め、イメージを持って練習に臨みます。練習では、スピンをマスターするトレーニングをやり、さらにスピンという選択肢がある中でパスの出し手に意識させて実践してもらうトレーニングを行ないます。当然、選択肢はスピンだけではありません。ウェーブの動きや間で受ける動きも身につけつつ、スピンの選択肢を加えることで攻撃の幅をさらに広げるのです。受け手がゴールへの最短ルートとなるスピンを意識して動けば、出し手もポジ最短距離をたどるパスを意識して準備しなければなりません。
一方、守備側は最短ルートを最も警戒するでしょう。ですから攻撃側は、難関の最短ルートを意識して準備を終えた上でほかのルートを考えます。そういう流れができれば攻撃はスムーズになりますし、いい相乗効果が生まれます。
大塚 そう思います。後方でのパス交換も前線における準備といいショニングに向けた布石であるべきです。すべてのパスはゴールへの最短ルートをつくり出すための準備であるべきだと思います。「最終ラインでボールは動くけれど、その次は手詰まりになる」というのでは意味がありません。「ただのパス」からは先のストーリーが生まれないのです。
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