川口 静岡学園で最も大切にしているのが「ボールを持てること」です。その中にドリブルがあり、ドリブルは攻撃において欠かせない技術です。
ドリブルには複数の目的があると思います。例えば、「突破のドリブル」や「(ゲームをつくるための)運ぶドリブル」などがありますが、静岡学園では両方できる選手を育てたいと思っています。相手を突破して行くだけでなく、ゲームもつくれないといけません。
センターバックもドリブルできるべきだと思っています。なぜなら、ショートパスや前線へのロングパスだけしかできないセンターバックに私は魅力を感じないからです。パスコースがない場合は、ドリブルでパスコースをつくるなど、ドリブルで打開して次の展開も考えられるセンターバックでないといけません。
静岡学園は、どのポジションの選手でもドリブルができ、ボールを持てる選手を求めています。将来、サッカーで成功するためにも身につけるべきことだと思っています。どのポジションの選手でも上のステージに引き上げられる、その可能性をドリブルという要素に感じています。
川口 多くの場合、突破のドリブルは前線の選手が実践することになります。そして、前線の選手には得点を求められることも多いものですから、突破のドリブルをするには「点を取る」という意欲が欠かせないでしょう。
スピードがあるに越したことはありません。しかし、足が遅くても突破のドリブルは身につけられます。相手の情報を得て、相手の出方などをよく見たりすれば、逆をとることができます。そういった意味でも、「スピード」、「アジリティー」、「ボール・コントロール」、「駆け引き」など、どれでもいいのですが、自分の武器を把握していることが大切です。自分の武器を理解し、武器をドリブルに落とし込めれば、全員が突破のドリブルができると思います。
川口 ボールをもらう前にたくさんの情報を得ている選手です。たくさんの情報がある中で最適な判断ができる選手はいいドリブラーになれるでしょう。「ドリブルして相手を引きつける」、「パスして、もっと前でボールを受ける」などの判断を適切に下せる選手はゲームの局面を変えられます。
例えば、今年のU―20ワールドカップに出場した堂安律・選手(FCフローニンゲン/オランダ)も、ボールを受ける前に多くの情報を持てる選手だと思いました。「自分で行くか、味方を使うか」の判断に優れているのです。情報がたくさんあるからこそ、いい解決方法を導き出すことができていました。
その点で言えば、ドリブル一辺倒の選手は多くの場合、ヘッドダウンして周りが見えておらず、情報量も少ない選手だと思っています。そのような選手をドリブラーと呼んではいけません。
川口 タッチ制限のある設定の練習は必要です。ただし、「ドリブルしては(ボールを運んでは)いけない」という設定ではいけません。周囲を見て先を予測し、パスかドリブル(ボール運び)かを考えさせる練習をすべきです。
例えば、タッチ制限ありの設定で行なったあとに、タッチ制限なしの設定で練習を行なうといいでしょう。その際、「瞬間ごとに最高のプレーをしよう。ボールも取られるな」と声掛けをします。
川口 タッチ制限のある練習だけで終えてしまうと、「ドリブルしてはいけない」という間違った印象が選手の頭の中に残ってしまう恐れがあります。
現代サッカーでは「ボールを止める、蹴る」ことがうまい選手が多くなっています。その分、「ミスしたくない」という思いが働いてしまい、安全なプレーに終始してしまう面があると感じています。しかし、高校年代の指導者がすべきことは、選手に安全なプレーを選択させることではありません。選手をスペシャリストに育てることです。相手の妨害に遭いながらも、積極的にトライさせるべきです。ただし、やはり前提として、たくさんの情報を持てるようにならなければいけません。
川口 静岡学園が大切にしている「ボールを持てること」の実現に欠かせないのがボール・コントロールの向上です。ボール・コントロールは重要であり、世界トップクラスの選手たちは皆、素晴らしいボール・コントロールを身につけています。
また、ボール・キープ、ドリブル、リフティング、パスなどのボール・コントロールは小さい頃からの積み重ねがカギを握ります。私は中学1年生までにこうした能力をある程度は身につけてほしいと思っています。
ボールとの触れ合いでボール・コントロールを向上させたら、判断力を養って試合でのボール・コントロールの活かし方を身につけてほしいと思っています。その上にスピードを加え、試合で最大限に発揮してほしいと思うのです。「基礎(習得)と応用(活かし方)のセット」という考え方です。周りを見回すと、基礎の部分にあたるボール・コントロールの習得だけで終えてしまうチームが多いような気がしています。
「基礎と応用のセット」という考え方の指導は、井田勝通・前監督が20年以上も前からやっていた指導です。確かに、「キーパーまで抜いてからシュートしろ」という指導をしていた時代もありました。しかし、20年以上前からは、ゴールを奪うためのボール・コントロールの正しい使い方をテーマにして指導しています。
私は「ただのパフォーマーになってはいけない」とよく言っています。ボール・コントロールを教わって満足しているようではいけません。パフォーマーではなく、サッカー選手にならないといけないのです。
「真のサッカー選手」とは、自分の技術を相手に脅威を与えるものに変えられる選手のことです。私たちは真のサッカー選手を育てないといけないのです。
川口 中盤は「静岡学園の心臓」です。「4―3―3」システムを採用する私たちは、3人でトライアングルを形成するようにしています。中盤でボールを持てれば、相手のプレッシャーを受けてもかわせますし、主導権を握れます。また、中盤で1人かわすことができれば、局面を大きく変えられます。そのためには、ボールを奪われない技術と抜く技術の両方が求められます。要は、「ドリブルできる選手が中盤にいると攻撃の可能性が広がる」ということです。パスだけしかできないミッドフィルダーには正直、限界を感じてしまいます。
川口 例えば、最終ラインでビルドアップしているときに相手がいいタイミングで守備をしてきたとします。すると、味方とのパスのタイミングやポジショニングがずれたりして不利な状況を迎え、相手と「1対1」になり、パスコースもなくなってしまうでしょう。そのとき静岡学園では「ドリブルをしよう」と言っています。ただし、突破のドリブルではありません。「ボールを奪われないドリブル」です。奪われないドリブルをして時間を稼げれば、誰かが必ずサポートに来ます。ドリブルする選手はサポートの存在を見逃してはいけません。
ディフェンダーがドリブルするのは、「パスを出したい」という合図です。南米出身のセンターバックは、パスコースがないと判断したら、よくボールを運び出してパスコースをつくっています。
川口 そうです(笑)。困っているからドリブルをしているわけです。そのため、味方は早く気づき、マークを外してフリーにならなければいけません。そうしないと、いつまでたってもパスコースをつくれず、バックパスをしたり、最悪の場合は低い位置でボールを奪われることになってしまいます。
川口 「技術の使い方」と「サッカーの戦い方」を教えることが大切です。ただし、「試合の勝ち方」は教えてはいけません。「こうすれば勝てる」という方法を提示してしまうと、アイディアを活かしたチャレンジをしなくなります。高校年代までは、技術の使い方、サッカーの戦い方、頭の使い方を指導できればいいのです。そのためには「全力の邪魔」が必要とも思っています。攻撃力を高めるには相手の守備力が高くないといけないと思います。「攻撃側は全力で考えて仕掛け、守備側は全力で邪魔をする」といった攻防が、攻撃も守備も伸ばしていくのです。
出典:『サッカークリニック』2017年8月号
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