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2017-10-27

小林祐希に聞いたオランダのトレーニング 「『パスの優しさ』の概念に日本と違いがある」

日本代表として4試合目の出場となる10月10日のハイチ戦のピッチに立った小林祐希。彼は現在、オランダのSCヘーレンフェーンでプレーしています。サッカークリニック10月号に掲載したインタビューでは、オランダで厳しいポジション争いを繰り広げながら、日々の練習から「違い」を感じていると語ってくれていました。日本とオランダの差は一体、どこにあるのでしょうか――。日本の次代を担う男に、ディテールまで掘り下げて話を聞いたインタビューを再収録してお送りします(取材・構成/安藤隆人、写真/安藤隆人、gettyimages)。

「受け手に優しいパスの本質が違う。
『速くて強いパス』ほど、思いやりがある」

――率直に、日本とオランダの練習の違いを感じますか?
小林 練習内容は日本とそれほど変わりません。大きく違うのはシュートへの意識です。オランダでは、どのポジションの選手でもシュートの意識が高いです。だから守備者はすぐに体を寄せないといけません。ボールへアプローチする能力も自然と磨かれると思います。オランダには「対人で負けなければ、試合にも負けないだろう」という単純な考え方があるのです。
――ボールへのアプローチの速さが大切になりそうですね。
小林 だからこそ、攻撃側も意識しないといけません。パスが弱ければ受け手が相手に詰められてしまいます。大切なのはパス・スピードです。近い距離の味方に対しても「思い切りパスしろ」と言われるのです。前提として「受け手はしっかりとコントロールできるから問題ない」という考えがあります。「受け手に優しいパス」の本質は、日本では「相手が受けやすいパス」ですが、オランダでは「相手ディフェンダーとの距離が少しでも離れている状態で受けられるパス」です。優しさの概念が違います。
――考え方の違いには戸惑いましたか?
小林 戸惑いはありませんでした。僕はオランダの考え方のほうが合理的だと思っています。ただし、日本人の筋力的な問題も影響していると思います。
――日本ではオランダ的な考え方でパスを出すと、「受け手のことを考えていない」と怒られてしまいそうです。
小林 「お前には思いやりがない」と言われますよね。僕から言わせれば、オランダのほうが思いやりがあると思います。
――考え方を変えないかぎり、日本のパス・スピードはきっと上がらないのですね。
小林 本当にそう思います。僕が東京ヴェルディで教わったのは「弱いパスの有効活用」でした。速いパス一辺倒ではなく、時折遅いパスを加えることで、速いパスにスピード感が生まれます。相手をわざと食いつかせる弱いパスをヴェルディでは習得しました。
――ヴェルディで「あえて遅いパス」の感覚を養い、オランダでは「相手を思いやる速いパス」の感覚を磨いています。2つの感覚を持ち合わせているのですね。
小林 かなり重要なことだと思います。パスの受け手と出し手の意思疎通ももちろん大事ですし、パスの強さで自分の意志や情報を相手に伝えることもできます。「敵(相手)が来ているのか、来ていないのか」、「左足に出すのか、右足に出すのか」で、敵の状況をパスで伝えることができます。レベルが上がったとき、もっといろいろなことを伝えられると思います。
――弱いパスはオランダの選手は使わないのでしょうか?
小林 あまり使いません。弱いパスはインターセプトされるリスクが大きいので、考えて出さないと危険です。使う場所や使い方も重要です。僕もすごく頭を使うようになりました。
――ヘーレンフェーンに小林選手が入ったことで、スピードの強弱がついたのではないですか?
小林 練習は基本的に、すべてにおいてハイスピードで行なわれます。ただし、練習ではハイスピードで良くても、試合ではそうはいきません。あえて遅いパスを入れることも重要です。味方を少し休ませたいときはゆっくりとポゼッションします。スピード感があり、その中でリズムを変えるには、周りの状況を誰よりも理解しておかないといけません。トレーニングではなかなかできないことです。試合で実践しています。
――トレーニングはずっとハイペースで行なわれるのでしょうか?
小林 10分や15分の紅白戦でもすごく激しいです。体力的にはかなりきついですね。ヘーレンフェーンの練習の特徴として、紅白戦は小さいグリッドで数的同数で行なうことが多いです。少人数のトレーニングであれば、レギュラー11人で回していきます。

「判断ではなく決断。
自分で決めることが大事」

――ハイスピードの中で行なわれる練習では、周りがしっかりと見えていないといけません。
小林 攻守問わずに状況を把握し、周りが見えていないといけません。守備のときは周りの選手の居場所を把握する必要があります。もちろん、攻撃のときも同じです。首を振る回数は意識的に増やしています。
――首を振る回数を増やすだけでなく、空間認識や状況把握のポイントも変わったのではないでしょうか?
小林 僕の個人的な感覚なのですが、「見えていなくても知っている」という状態をつくり出せたらいいと思います。例えば、自分が走って来たコースを覚えておいたり、いい体の向きをつくっておいたりすることは大切です。常に半身にしていたり、前向きの姿勢をつくっていたりしておけば、「見えていなくても知っている」状況をつくれます。上のカテゴリーでプレーするようになったときもきっと役立つと思います。
――予測と記憶は重要なのですね。
小林 特に記憶は重要です。オランダの選手は判断するのではなく、決断しています。日本人は頭で考えても実行するスピードが遅いと思います。例えばミスを分析してみると、判断はできていたのに決断できなくて中途半端になってしまうことが多いです。オランダの場合、「決断した結果としてミスになる」という感覚です。ここにも日本とオランダの違いはありますね。日本人が幼少期にいかに「自分で決めること」をしていないか。本田圭佑さんがよく言っていますが、教育から変えないといけないと僕も思っています。幼少期から自分で決めるのはすごく重要なのです。
――「判断しよう」という指示はよく聞きますが、「決断しよう」という指示はあまり聞きません。
小林 「判断」という言葉に惑わされてはいけません。「判断」の裏には「決断」が必ずついてくるものだと思っています。「判断」と「決断」はセットになっていることを理解して実行し、うまくいけば自信はもっとついていくはずです。プレーの質も上がることでしょう。僕はオランダに来て学ぶことができました。僕自身、「判断ができても、決断が足りない」と、あらためて感じているところなのです。

日本代表として10月10日のハイチ戦に出場。タメをつくって攻撃にアクセントを与える場面を何度も演出

<プロフィール>
小林祐希(こばやし・ゆうき)/1992年4月24日生まれ、東京都出身。東京ヴェルディジュニアユース、ユースを経て、11年にトップチームに昇格した。12年にジュビロ磐田へ移籍し、チームに欠かせぬ司令塔として活躍。16年夏にオランダのSCヘーレンフェーンへ完全移籍した。16-17シーズンは30試合に出場し、1得点。年代別日本代表を経験し、16年6月にはA代表でデビューした。182cm、72kg

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