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2017-09-21

沢田謙太郎が育成で大事にしている 「ひたむきさ」の植えつけ

 9月18日に13節を終えた『高円宮杯サッカーリーグ2017 プレミアリーグ』。
 昨シーズンはWESTを制し、チャンピオンシップ(EAST覇者の青森山田高校と戦い、PK戦の末に敗れた)に進出したサンフレッチェ広島F.Cユースが、8月以降に戦った5試合で4勝1分けの結果を残すなど、ここにきてエンジン全開。悪天候などで中止となり、試合を消化し切れていないチームもあるため暫定となりますが、遂にWESTの首位に立ちました。
 このチームを率いるのは、1993年に柏レイソルに加入し、95年には右サイドバックとして日本代表選手にもなった沢田謙太郎・監督です。沢田監督は99年に広島へ移籍し、2003年に現役から退いたあとも指導者として広島に関わり、15年からユースの監督を務めることになりました。
『サッカークリニック』では9月号で、沢田監督に指導哲学や育成年代の才能の伸ばし方を聞いていました。今回はその一部を紹介します(取材・構成/石倉利英、写真/BBM、石倉利英)。

――2015年にユースの監督に就任し、今年度が3年目となります。指導法などで変えてきたことはありますか?

沢田 1年目は映像を使って指導することが多かったのですが、2年目からは少なくなりました。選手たちは各自で試合の映像を見ていますが、指導者のほうから場面を切り取った映像を見せる機会は減りました。その分、練習で同じシチュエーションを再現し、「ここはスライドして守る」、「ここはプレッシャーをかける」などと伝えることが増えています。映像で分かったことを選手に伝え、本当に理解させるために必要なのは「繰り返し言いながらやることなのか」、「映像を使うことなのか」をよく考えるようになりました。
 その上で今年度の大きな課題は、勝つことへの執着心と貪欲さをより強く持たせることです。プレミアリーグのチャンピオンシップを連覇したとき(2011年、12年)のような広島らしい貪欲さとエネルギーを再び取り戻したいと思っています。公式戦に勝つだけでなく、練習試合で勝ったり、「1対1」の球際で勝ったりすることも勝ちですし、負けは負けです。「いい試合をすればいい」、「経験を積めばいい」という意識にならないように繰り返し伝えています。

――プロとの連係はJクラブのアカデミーの強みです。広島もユースとトップチームの練習場が隣接しているので、トップチームの若手主体の練習にユースの選手が頻繁に参加しています。

沢田 広島の強みは最大限に活かしたいと思っています。今年度も、週末に福岡遠征を行なったあとの月曜日に、トップチームの若手がJ3のギラヴァンツ北九州と練習試合をすることがあり、ユースから4人が呼ばれました。福岡遠征で2試合プレーしていた選手もいましたが、休ませることはしませんでした。貴重な場があったらどんどん参加させたいと思います。

――かつて広島は、ユース出身選手がトップチームの主力の多くを占めた時期もありました。しかし現在は少なくなり、近年はユースから昇格した選手が主力に定着できていません。ユースの監督として現状をどう考えていますか?

沢田 現在のユース出身の主力クラスは、森﨑和幸と大学を経由して加入した茶島雄介くらいでしょうか。J1の試合のメンバー表の「前所属チーム」欄を見ると、例えば柏はU-18出身選手が5~6人いるときもあり、広島も以前はこうだったと感じることがあります。トップチームの高いレベルの中でトップ昇格後すぐに活躍できる選手が毎年、何人も出てくるのは現実的なことではないとは言え、「プロのスピードやパワーに慣れればできるだろう」と感じさせる選手を地道に鍛えながら育成していくしかないと考えています。
 そのためにもトップチームとの連係は重要です。チャンスがあるときに呼んでもらい、足りないものを経験して再びユースでチャレンジしてほしいと思っています。解決の糸口だけでも見つけておけば進んでいけますし、自分の良さを出せるようになります。そういう選手をたくさん送り出せるように努力していきたいです。

――沢田監督が話したように、ユースから昇格後すぐに試合に出られる選手は限られています。それでも努力を続けられるメンタリティーも、プロ選手に求められる重要な要素の一つでしょうか?

沢田 最近、選手たちに「頭を鍛えろ」とよく言います。壁にぶつかったときは「どんな努力をすればいいのか」を考えなければいけませんし、そのためには頭を働かせなければいけません。ただし、1日で課題を克服するのは難しいので、「やり続けるメンタリティー」、「心が折れそうになっても違う工夫をしながら続ける粘り強さ」が求められます。その2つが鍛えられていないと社会人としても通用しないでしょう。

――沢田監督自身がプロの厳しさを体験しているのは、言葉に説得力を与えるのではありませんか?

沢田 試合に出られればいいですが、試合に出られず辛抱しなければいけない時期は必ずあります。そのときに「ひたむきにできるかどうか」で人間性も見えてきます。私としては、若い才能を預かっている以上、プレー面もメンタル面も、「持っているものを引き上げる作業」と「ないものを植え付ける作業」の両方が大事なことだと思います。

――指導者として喜びを感じるのはどんなときですか?

沢田 ジュニアユースの監督時代は、ユースに昇格できずに高校のサッカー部に進んだ選手が、インターハイや全国高校サッカー選手権に出て、プレーしているのを見るのが楽しみでした。ジュニアユース時代はハッパをかけてもうまくいかなかった選手が、高校で気持ちを出してプレーしているのを見るのがうれしかったのです。また、例えば昨年ユースからトップに昇格した長沼洋一が今年のルヴァンカップでゴールを決めましたが、プロでの活躍を見るのもうれしいことです。

――昨年はユースのイヨハ理ヘンリー選手が高校3年のシーズン途中にプロ契約を結び、今年もユースの大迫敬介・選手が高校3年でプロ契約を結んでいます。ユース出身選手が広島の主力選手としてどんどん成長してほしいですね。

沢田 やはり、ユース出身選手が中心になって盛り上げていってほしいです。「ユース出身選手は一味違う」と評価されてほしいですし、そのために今後もユースで教えなければいけないことがたくさんあると思っています。

2015年からサンフレッチェ広島F.Cユースの監督を務める。トップチームに好選手を送り込むだけでなく、昨シーズンはプレミアリーグ チャンピオンシップへ導くなど、チーム成績も残している

1993年に柏レイソルに加入し、95年には同クラブのJ1昇格にも貢献。日本代表として4試合でプレーした躍動感あふれる右サイドバックだった

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