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2017-07-06

「1対1」の考え方とトレーニング方法 (ディアブロッサ高田FC/奈良県)

発売中の『ジュニアサッカークリニック2017』の特集は「強豪チームに学ぶ『1対1』に勝てる指導」。ピックアップ・クラブ05として取り上げたのが奈良県のディアブロッサ高田FCだ。テクニック指導に定評がある同クラブの川上弘仁・監督のインタビュー(一部)とトレーニング・メニューを紹介する。
取材・構成・写真/森田将義

――ディアブロッサ高田FC(以下、高田FC)で意識している「1対1」のポイントを教えてください。

川上 「1対1」の目的にも種類があり、相手を突破するものもあれば、ボールを取られないためのキープもあります。使い分けによって動きは変わってきます。取られないためには、体の前にボールを置くのではなく、体の横や後ろに置いて相手からボールを隠す動きやボールを運びながらターンする動きが大切になります。突破する場合は、キープとは逆です。相手にボールをさらすような場所に置き、フェイントを入れ、相手の立ち位置や体の重心が動いたタイミングを狙います。低学年の間はタッチやフェイントを教えていますが、学年が上がるとこうしたポイントは細かく指導しません。あえて「相手をだますことが大事」と大まかな助言だけを与えています。なぜなら、自由にドリブルする中で、ポイントをつかんでもらいたいからです。
「1対1」だけでなく、サッカーのコツをつかむためには、失敗してもチャレンジの回数を増やさないといけません。100回やって99回失敗しても100回目で成功すればいいのです。1回成功すれば子供たちは感覚をつかみ、以降は成功する回数も増えていきます。とにかく、ドリブルをたくさんやらせることが大切です。今の子供たちは、インターネットの動画で世界的スターのプレーをよく見ています。指導者がプレーについて口を出すよりも、子供たちがやりたいプレーを自由にやらせるほうが選手としての幅が広がると思います。

――タッチやフェイントを低学年の選手にどのように教えているのでしょうか?

川上 高田FCはボールにたくさん触れさせることを意識しています。1人あたりのボールに触る時間を長くすることで、ボールタッチの感覚を学んでもらいたいからです。フェイントはあまり細かく教えていません。コーンを使ったドリブルも、シザーズやダブルタッチなどのテーマを与えるだけです。ボールの置き方や間合いも完全には教えません。
リフティングをさせることもあります。練習時間の半分近くは一人ひとりがボールを持ち、ボールに触っているメニューが中心です。ゲームをする際もなるべくボールに触る機会を増やしたいので、ボールを2つ使った「6対6」(下図)などにしています。

――では、ボールタッチを身につけた上で、「1対1」に必要な要素とは何でしょうか?

川上 いろいろな考え方があると思うのですが、私はボールを持っている選手に「どれだけ心に余裕があるか」が重要だと思っています。表現は難しいですが、相手をあざ笑うくらいでいいでしょう。「コイツは俺に抜かれに来た」というくらいの気持ちでプレーできれば「1対1」で負けることはありません。足元の技術で負けない自信があれば、「1対1」に勝てるだけでなく、ボールを奪いに来た選手を味方とのパスでかわすこともできます。心の余裕がプレーの選択肢の幅につながると考えています。「1対1」は試合になれば必ず生まれます。自由にボールを扱うことができれば、「1対1」に強くなり、自信も生まれます。試合で「絶対に抜いて来い」とまでは言いませんが、指導する上で「1対1」は重視しています。

――ジュニア年代では、自信だけでなく足の速さや体の大きさも「1対1」で勝つためのポイントになります。その点はどのように指導していますか?

川上 足の速い選手が「1対1」に強いのは事実です。それでも、ジュニア年代で足が遅い選手のほうが工夫してプレーするため、中学生以降に大成するように思います。反対に足が速い選手に対しては、「大きくなれば(カテゴリーが上がると)簡単に抜けなくなる」と声をかけ、練習でも力や特徴が似た選手と組ませることで簡単に抜けない状況をつくるようにしています。格上のチームとの練習試合やトレセン活動で「1対1」に勝てない経験をするのも成長を促すでしょう。抜けなかった経験は刺激になります。直面した壁を超えるために工夫し、努力すれば、成長につながります。

――練習メニューを考える際に気をつけていることを教えてください。

川上 状況の設定を与えることです。例えば、中盤や最終ラインの局面という設定で行なう場合の「1対1」は、相手に簡単にボールを奪われてはいけない状況です。
 よく行なうのは、「1対1」にフリーマン4人をつけたトレーニング(下図)です。基本的にはグリッドの中で何度も「1対1」をするのですが、フリーマンにパスをしてボールをもらい直し、ボールをキープしてもいいです。パスをすると見せかけて、相手をかわしたり、ボールキープしたりしながらフリーマンをうまく使う感覚を養います。
 大事なのは後ろ向きでボールキープするのではなく、「相手に対して前向き」を保つことです。相手に間合いを詰められたら、前を向きながらもボールを隠すために体の後ろでボールに触るように意識させています。練習で「キープ」と言うと、後ろ向きでボールを持ってしまいがちです。ただし、実際の試合では前を向かないと、相手にプレッシャーを与えることはできず、前線の選手も受ける準備ができません。

――相手をかわすための「1対1」であれば、どのようなメニューがあるのですか?

川上 「コーンでつくったゴールを2つ用意した『1対1』」(下図)は、よく行なうトレーニングです。「GKありとGKなし」の2種類を用意したり、スタート位置を真ん中にしたり、端からにしたり、次の守備役が攻撃側にパスをしたり、と複数のバリエーションがあります。
対角線上から始まるパターンはよく行ないます。実戦により近づけるために、相手と斜めの状態で向き合う場面をつくっています。直線に進むと見せかけて方向を変えるなど、駆け引きをしながら仕掛けるコツをつかんでもらいたいと思っています。
 攻撃側にパスを禁止した「2対2」(下図)も「1対1」に有効なメニューです。ボールを持った選手はドリブルで積極的に仕掛け、もう1人の選手はこぼれ球を拾って勝負します。守備側もボールを奪い返してすぐに仕掛けるようにします。実際の試合でも「『1対1』でかわして終わる」ことはありません。次に来るディフェンダーをかわす必要がありますし、ボールを失っても奪い返せば、攻撃を再び仕掛けることができます。その感覚を養やしなってもらいたいのです。2人の間を抜けていくドリブルも有効です。この練習では単なる「1対1」では生まれない状況をつくっています。

――その「2対2」の練習では、後ろ側の選手にどのような意識づけをさせていますか?

川上 「前の選手はボールを取られると思っておきなさい」とよく言います。ドリブルで仕掛けた状態で生まれるこぼれ球では相手が体勢を崩していることが多いので、ボールを拾えればファーストタッチで抜け出すことができます。前の選手に対しても、「いいドリブルをすれば、いいこぼれ方になるかもしれないから取られても問題ない」と伝えています。どこにボールがこぼれて来るかを感覚的に知ることも大事です。これが、試合で活きるポイントだと思います。

ジュニア サッカー クリニック2017―Soccer clinic+α 全日本少年サッカー大会

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