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2017-06-30

岡山学芸館のポジショニング学 「A、B、Cシフト」って何?

7月29日に開幕する今年のインターハイ。岡山県大会の決勝では、岡山学芸館高校が玉野光南高校を下して3年連続での全国大会出場を決めました。
同校を率いる高原良明・監督は、サッカークリニック5月号でポジショニングをテーマにしたインタビューを受けてくれています。
今日は高原監督が教えてくれた「岡山学芸館流 ポジショニングの指導コンセプト」の一部を紹介します。

攻守両面において
数的優位を目指す

――ポジショニングの考え方を教えてください。

高原 攻撃においては、サッカーの目的である「ゴールを目指す」過程において、ゴールに到達するために最もいい場所にポジションをとることです。一方、守備においては、シュートを打たせないのが最も大きな仕事になり、そのためのポジションをとることです。例えば、「1対1」の練習から始めたりして、シュートを打てたり、シュートを防げるようなポジションニングができるように指導しています。

――ポジショニングとは、ゴールを奪ったり、奪われないようにするためのものなのですね。

高原 さらに、攻撃に関してはゴールという目的がある中、私には「ゴールをシンプルに目指したい」という思いがあります。相手と味方の状況を見て、数的優位をいち早くつくれるポジションをとってもらいたいのです。例えば、相手のギャップをできるだけ広げ、そこに味方を走り込ませてクサビを入れ、「3人目の動き」などで前進していけるようなイメージを持って練習しています。
 守備に関しては、ボールの近くではやはり数的優位になって守りたいです。もちろん、「1対1」に強いディフェンダーがいるに越したことはありませんが、難しい点でもあります。であれば、グループで相手のボールを奪い、攻撃に素早く転じたいと思っています。攻守両面において、数的優位な状況を数多くつくり出せるポジショニングが理想です。

――攻守両面で数的優位をつくるコンセプトを浸透させるために、どのようなことをしていますか?

高原 岡山学芸館の練習はゲーム形式がメインです。しかし、まずは「3対2」など、攻撃側が数的優位な状態をつくって攻撃させる練習も行ないます。クロス・オーバーを繰り返しながらゴールにシンプルに向かわせる練習です。守備側は数的不利のため、チャレンジ・アンド・カバーが大切です。最終的にはゲーム形式の中で細かくコーチングしながら選手に浸透させるようにしています。

守備で大事なのは
コンパクトさ

――「ポジショニングの前提条件」のようなものはありますか?

高原 私たちは「A、B、Cシフト」と呼んでいる決まりごとをつくっています。
「Aシフト」=高い位置で前線からボールを奪いに行く守備
「Bシフト」=相手が相手陣のセンターサークルの手前部分を越えてから守備
「Cシフト」=相手がハーフウェーラインを越えてから守備
 簡単に説明すると、この3段階があります。選手に理解させ、相手によって変えています。

――「Aシフト」でのポジショニングで重視する点は何でしょうか?

高原 前線が高い位置で相手にプレッシャーをかけることになりますが、大事なのはディフェンス・ラインでもあります。ラインをしっかりと上げなければいけません。高い位置での守備は連動性が大事ですので、味方との距離を縮め、単発にならないように組織的にボールを奪いに行きます。ボールを奪ったら、もちろん素早く攻めます。「Aシフト」にするのは、相手が引いているときが多いです。私たちが主導権を握れそうな状況で高い位置からプレッシャーをかけ、奪ってから素早くフィニッシュを目指すイメージです。

――「Aシフト」を採用する際の注意点を教えてください。

高原 常に細かく動き、ポジションをとり続けることです。ボールを奪ったあとはワンタッチ・プレーを多くすべきです。そうしないと時間とスペースはすぐになくなってしまいます。

――やはり、「Aシフト」を採用することの理由を選手は理解していないといけません。

高原 ゴールを奪う最短ルートを探るための「Aシフト」です。その点で言えば、高い位置でボールを奪ったとしても、味方の体の向きが後ろ向きではいけません。体が前向きになれるようなファーストタッチが重要です。選手には「ボールを失うことを恐れずに、積極的にボールを前に運ぼう」と伝えています。
 高い位置でボールを奪えれば、ミドルシュートも効果的かもしれませんし、アーリー・クロスもいいでしょう。効果的な攻撃をするためにも、選手には数多くの選択肢を持たせたいと思っています。

――続いて、「Bシフト」ではどのように変化するのでしょうか?

高原 先ほども説明したように、相手が相手陣のセンターサークルの手前部分を越えてからプレッシャーをかけに行くことになりますので、相手を自陣に少しおびき寄せる感覚が大事です。相手をおびき寄せておいてからプレッシャーをかけてボールを奪います。その後は「Aシフト」と同様です。攻撃の突破口がサイドか中央かを把握してから攻めて行きます。

――「Bシフト」での守備をもう少し詳しく教えてください。

高原 相手が相手陣のセンターサークルの手前部分を越えたら、「Aシフト」と同様にパス・コースを限定しながら相手に対して数的優位をつくっていきます。ここで重要な点は、「2ボランチは中央を締めること」です。ボランチが中央を締め、ディフェンス・ラインは下がらずに、フィールド・プレーヤー全員がコンパクトになるのを意識します。
 この点は、「A、B、Cシフト」のすべてに当てはまる前提条件です。陣形はコンパクトにしながらも、「Bシフト」ではプレッシャーをかける位置が「Aシフト」よりも低くなります。ボランチは中央から突破させないようにします。前向きにボールを奪えるように、サイドの選手やディフェンス・ラインの選手はポジションを高めにとります。「Bシフト」でボールを奪えたら、相手の背後にスペースがあるはずです。背後を素早く突くようなショート・カウンターを仕掛けるようにしています。

――「Cシフト」はどのように動くのでしょうか?

高原 相手がハーフウェーラインを越えてからの守備になりますが、「受け身の守備」では決してありません。「Bシフト」よりもさらに自陣に相手をおびき寄せることで、ボールを奪ったときは「Bシフト」以上に相手の背後にスペースができていることになります。攻撃のスペースをさらに広げることが狙いです。
「Cシフト」で守りながらも、相手がボールを持っているときは有効に活用できそうなエリアを探し、あくまで前向きにボールを奪って相手の背後を突くのです。「Cシフト」では特に、相手のおびき寄せ方は重要です。

――シフトの種類は試合の展開によって変えるものですか?

高原 もちろん変えます。例えば、立ち上がりの15分は「Aシフト」で前からどんどんプレッシャーをかけにいき、相手がそれに慣れてきたと分かったら、「Bシフト」にして中盤でのプレスに重点を置くなど変えたりします。選手にも柔軟性を持たせています。

――「A、B、Cシフト」でのそれぞれの動き方を選手に植えつけることはできても、試合中に柔軟に変化させるのは難しいことではないでしょうか?

高原 確かに、選手の理解力に差が出る部分だと思います。まず、選手には「A、B、Cシフト」それぞれに生まれるメリットを理解させます。そして、各シフトに伴うポジショニングも伝えます。例えば、紅白戦などで攻守の切り替えが発生したとき、「バランス面で何が発生するか」、「攻撃まで意識できているか」などを細かく確認します。この作業をしていくと、ポジショニングの理解力や相手の動きを見ることの力の差が選手間ではっきりと出るのです。その力の低い選手は、周囲との距離を測れなかったり、相手の力量や試合状況を見極められなかったりします。そのような選手には「このポジションでは相手にボールが入ったときにプレスバックに行けない」、「このポジションだと、中央にボールを入れられたら誰も行けない」などと何度も伝え、確認するようにしています。

(取材・構成/安藤隆人、写真/安藤隆人)

3年連続でのインターハイ出場に導いた岡山学芸館高校の高原良明・監督

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