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2017-06-23

強豪校はテクニックをどう磨く? 本田裕一郎の飽くなきチャレンジ

6月18日に行なわれたインターハイ千葉県大会の決勝を制したのは流通経済大学付属柏高校でした。
「永遠のライバル」とも言える船橋市立船橋高校を下し、3年連続で「千葉県の夏の王者」となった同校を率いているのが
御年70歳の大ベテラン指導者、本田裕一郎・監督です。
本田監督はサッカークリニック7月号(発売中)で「テクニックの磨き方」について答えてくれていました。今日はその一部を紹介します。

技術を磨くことで
選択肢の数を増やす

――朝練ではボール・コントロールもドリル練習として行なっているようですね。

本田 そうですね。私の考える最高の技術はワンタッチ・プレーです。ワンタッチ・プレーを正確に行なえるようになるためにもボール・コントロールの感覚を身につけてほしいと思い、積極的に取り組ませています。
 例えば、2人1組でインステップ・キックだけを使ったリフティング・パスをさせることがあるのですが、このドリルをさせると分かることがあります。「何度かコントロールしてからパスしていい」という設定であれば、高校年代の選手は基本的にはボールを落としません。100回でも200回でも続けられることでしょう。しかし、ワンタッチ限定で行なわせると、続けられたとしても10回から20回程度になります。
 タッチ数を多くしたりして次のプレーの準備をすることを私は「ちょっと待って(のプレー)」と表現することがあります。しかし、ゴルフや野球で素振りをするときのような「ちょっと待って」の時間はサッカーにはありません。ボールが来た瞬間にパッと、可能であればワンタッチでプレーできなければいけません。そのために、ボール・コントロールのドリルも行なうのです。
 ボール・コントロールを最適の形にドリル化したのは、静岡学園高校の井田勝通・前監督だと思っています。南米に何度も足を運び、技術を抽出して整理し、日本人に合った合理的なドリルを考案していました。

――「リフティングやドリブルを高校年代で練習しても仕方がない」という意見の指導者もいます。

本田 私は無駄だとは思いません。高度で実戦的なものを求めるのであれば、敵(相手)を入れて行なえばいいのです。ボールを素早く動かしいたりすればいい練習になるでしょう。また、試合でのパフォーマンスが悪かったときのフィードバックのメニューとして使うのもいいと思っています。もちろん、小学生年代ではたくさん取り入れていいでしょう。
「技術を習得するのは高校年代が最終段階」ということも、静岡学園の井田前監督はかつて言っていました。私も同感です。子供たちの成長の可能性を信じて取り組ませています。

――では、「使えない技術はない」ということでしょうか?

本田 「試合で使えない技術」はあります。例えば、仰向けになって両脚を上げて、足裏でボールを転がしてリフティングすることです。しかし、このようなリフティングを試合中にはしませんよね? それでも、ボールを手で扱うようなレベルに近づけるくらいまで足裏の感覚を磨くためにも、このリフティングは大切だと思っています。特に日本人は、さまざまなボール扱いの中で足裏を使うことは劣っていると思います。足裏でのボール感覚を身につけるためにも無駄ではありません。

――指導歴の長い本田監督は、ボール・コントロールをどのように位置づけていますか?

本田 バスケットボールの選手が手でボールを巧みに扱うように、足でできるようになることを理想としています。そして、それは可能だと思っています。
 例えば、文章表現に置き換えると分かりやすいかもしれません。幼児の頃は平仮名が書けなくても、小学生になれば日記を書けるようになりますし、中学生、高校生と成長するにつれて、語彙は増え、起承転結も覚えて立派な文章を書けるようになります。簡単なボール・コントロールから難易度を上げていくことにより、テクニックも向上していくのです。
 音楽、学術、芸術、スポーツのいずれの分野であっても、先達が編み出したものをマネして(コピーして)基本としているように、あらゆるボール・コントロールをマネしてできるようになった上で自己流の技術習得に進むべきです。マネもできない選手は、次の段階への創造力も働かないのではないでしょうか。

――プロ選手は、高校年代では少なくともボール・コントロールを完璧にマスターした選手たちと言えるのでしょうか?

本田 プロ選手の中で高校生がやっているような技術を発揮できない選手はいません。さまざまなことができると思います。試合中に技術を発揮しないからといって、その技術ができないわけではありません。プロ選手の多くの場合、技術をひけらかしてミスすることもありません。極力シンプルにプレーしているのです。
 全国の強豪校も例外ではありません。例えば、全国高校サッカー選手権で何度も優勝したことのある国見高校(長崎県)はロングボールを主体にしたスタイルでした。しかしそれは、技術がないからではありません。個々のボール・コントロール技術が高かったからこそ可能となったスタイルです。
年代が上がるにつれて、チーム戦術に即してプレーしなくてはいけません。どんな戦術でもいいパフォーマンスができるようにするため、ボール・コントロールの技術は大切なのです。

――「この技術は試合で使えるレベルかどうか」を考えてプレーすることも大切でしょうか?

本田 試合で使えるかどうかではなく、瞬時に対応したり、判断するために大切なのです。何度も何度も繰り返し、ボールを見なくてもできるようにするのが目標です。
 ただし、試合で言えば、同じような厳しいマークでも、選手によってプレッシャーの感じ方は違います。例えば、リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドは技術レベルが高く、技術を使う判断も優れているため、多くの人には厳しく見えるプレッシャー下でも持ち前の技術を発揮して突破したりします。また、使おうと思った技術が使えないと判断したときは、違う技術へと瞬時に変更できます。そう考えると、技術がなければプレーの選択肢はどんどん減っていくことになります。

1年生を技術指導を行なう本田裕一郎・監督。取材日は相手とのハイボールの競り合い方なども指導していた

ボールを奪える選手は
ボール扱いもうまい

――本田監督は、今年度は1年生を重点的に指導しています。その理由は何でしょうか?

本田 コーチ陣が成長したため、彼らに3年生や2年生を任せられるようになったのが理由の1つです。そして、1年生の段階では、戦術面の指導を行なうよりも、さまざまな技術を身につけておいたほうが次の段階に入りやすいので、ボール・コントロールの技術をもっと高めようと、私が重点的に見るようにしました。基本的には全学年を見ていますが、これまで以上に1年生を重点的に指導しているのは確かです。
 1年生には、ボールを持った状態での技術を高めると同時に、相手のボールを奪う技術も指導しています。「コインの裏表」の関係と似ているかもしれませんが、ボールをうまく奪えなければ、相手のボールを奪うために走り回されるだけです。ボールがなければ攻めることはできません。

――ボールを持ったときにうまい選手は、ボールを奪うこともうまいものでしょうか?

本田 そうとは限りません。味方にボールを奪ってもらってパスをほしがったりするだけで、ボールがなければ何もできない選手は多いものです。小さい頃からボールを持った上でのプレーばかりしてきたからでしょう。ただし、ボール奪取のうまい選手はボールをコントロールする力も総じて高いものです。
「ボールを回されて楽しい」と思う選手はいません。ボールを持って初めて楽しくなるのがサッカーですから、ボールを奪うことの重要性は何度も言っています。

――高校1年生はボールを奪えるようになることを優先したほうがいいのでしょうか?

本田 攻守のバランスは大事です。つまり、両方できなければいけません。何度も言いますが、守備ができないと相手に走らされることになります。1年生全体に言えることですが、守備の戦術レベルはまだ低いと思っています。

――中学年代までに守備を十分に学べていない高校生が多いのでしょうか?

本田 守備を学べていないというよりも、ボールを持った上でのプレーを優先してきたからでしょうし、それは仕方のないことでもあります。しかし、1年生の段階で守備のセオリーなどを教えたりしてしっかり指導すれば、自分が奪われるリスクも考えるようになり、ボールを持ったときに工夫するようになるでしょう。私はボールを持ったときの技術力も相乗効果で高まると考えています。

7月29日に始まるインターハイの全国大会を控える本田監督

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