岩谷 乾貴士選手(エイバル/スペイン)にも言っていたことがあります。それは、シザースでも切り替えでも「『やり切るばかり』では抜けない」ということです。シザースであれば、「シ」だけやって「ザース」はやらないということも必要だと思うのです。
つまり、相手がフェイントに気づいたらやめて次のプレーに移ったほうがいいということです。切り返そうとしたときに相手が察知してスピードを緩めて対応しようとしたら、「き」でプレーを切り上げ、スピードを落とさずに振り切ってしまえばいいのです。
ドリブルに限ったことではありませんが、サッカーで大事なのは相手より先にボールに触れること、つまり、「走る速さ」ではなく「触る速さ」が重要なのです。常に相手より先にボールに触れられたならば、ボールを失うことはありません。ドリブルは、自分がボールに先に触れる距離を保ちながら進むプレーとも言えます。
岩谷 ドリブルでは、相手がいない状況で思ったようにボールを扱えることがベースとなり、相手がいない状況ではトップスピードでボールを離さないようになりたいところです。そして試合では、「いつ、トップスピードのドリブルを使うのか?」を考えなければいけません。いつもトップスピードのドリブルを使っていたらガス欠になりますし、パスを選択すべき局面もあるからです。
練習では、トップスピードでのプレーを選手に求めます。そうすれば、「ミスしない70パーセントのスピード」が体感できるでしょう。その過程では多彩なステップやフェイントを行なうことでボディー・バランスを向上させ、素早くボールに触れるような動作を身につけていきます。ただし、あくまでもそれはベースであり、それができるから「うまい」とは言いません。「本当にうまい選手」は対人練習の中で育つものだと考えています。
岩谷 できるようになると思います。ただし、必要とする時間は異なるでしょう。1年でできる子供いれば、3年かかる子供もいるでしょう。その差は、子供の熱意や練習量、あるいは運動能力や器用さの違いから生まれます。
もっとも、「できる」の意味を考える必要があります。
繰り返しになりますが、「思い通りにボールを操れる(=できる)=うまい」ではないと思っています。それはベースにすぎません。実戦で使えるテクニックにするには、そのベースの上に変更力や修正力を上乗せしなければなりません。相手に読まれたときや対応されたとき、プレーを変えたり、修正したりしなければならないからです。スピードに乗りながらそうしたことを行なうには、ボディー・バランスや「目の良さ」が必要になるでしょうし、さらに的確な判断力が求められます。
岩谷 技術不足を補う方法はいくらでもあります。例えば、「駆け引きで勝る」、「スピードを活かす」、「フィジカルを活かす」などです。しかし、思ったようにボールを扱えなければ、サッカーの楽しさを1つ失っている気もします。ですから、最終的な到達レベルに差があったとしても、思ったようにボールを扱えるようになりたいと努力してほしいと思います。
1つのテクニックを1年でできる子もいれば、3年かかる子供もいます。1年でできる子供のほうが優れているように見えるものです。しかし私は、3年かけてマスターしたテクニックには3年分の濃さがあると考えています。ですから一概に、「時間のかかる選手はダメ」とは思いません。 ■
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