今季からアジアリーグに加盟した「スターズ神戸」。ここまで11試合を行なっており、11月20日現在、勝ち星を挙げるには至っていない。11月29日・土曜日は16時から、30日・日曜日には14時から、地元・兵庫の尼崎スポーツの森アイススケートリンクで、前身の古河電工チームを含めて創部100年の「栃木日光アイスバックス」2連戦が予定されている。スターズには日光にゆかりのある選手やスタッフが多く、いっそう気持ちが高ぶっているようだ。スターズ神戸の代表、黒澤玲央(くろさわ・れお)さんは、もともと日光アイスバックスでプレーしたこともある。初のホームでアイスバックスを迎える、今の心境を聞いてみた。
自信になった今月のレッドイーグルス戦。ただ、1500人のお客さんを呼びたかった。 スターズ神戸株式会社。ヘッドオフィスを立ち上げてから、もう1年が過ぎている。黒澤玲央代表の本音は、いかがなものか。「うまくいかないなあ」なのか、それとも「うまくいかないけど、これはこれで勉強になる」という考えでいるのか。
リーグが開幕して、スターズは11連敗中。今度の週末には、黒澤さんにとって古巣でもあるアイスバックス2連戦が控えている。
「アイスバックスは一番、分が悪そうな相手だと思っています。たまたまかもしれませんが、どこが相手でも連戦の最初の試合では差がついて、2試合目は接戦になることがある。でもアイスバックスだけは、2試合目も点差がつくんです」
「リーグの勝敗に関しては、正直、こういうことになるだろうと思っていました。アジアリーグの場合、よそのチームから主力を出してもらうのが、ちょっと難しいんです。アマチュアでやっていた選手。既存のチームでやっていて、移籍を希望する選手。外国人の選手。数をそろえるには、これしか選択肢はないんです。仮に私たちでなくても、1年目はなかなか勝てないだろうというのが、現状だと思うんです」
NHLのように「エクスパンション・ドラフト」のような制度が、アジアリーグには存在しない。今後、「プロのチームを増やしていきたい」という題目を唱えるのであれば、避けては通れない「関所」になるだろう。
11月1日、2日には、ホームリンクで初の公式戦を迎えた。相手は、現在リーグ首位のレッドイーグルス。両日ともに、1000人を超える観衆が来場している。
「2戦目に1点差のゲームになったのですが(11月2日、1-2)、内容としてはレッドイーグルスの優位だったと思います。ただ、最後の最後まで選手は食らいついていった。そこは自信になったと思うんです」
試合内容とは違う部分で、クラブには反省点が残っている。
「尼崎のスタンドは1500人入れるんですが、開幕シリーズは満員にしたかったというのがあるんです。関西圏は、選手自体は多いのですが、アイスホッケーを観戦に行く文化がない。尼崎のリンクは、車で行くと案外、近いと思ってもらえる場所にあるんです。集客の面では、引き続き課題になります」
5月のアジアリーグの記者発表で、正式な加盟会見を行なった。両端の2人は、会社の幹部であり、ともに汗を流すクラブのスタッフ(ⒸSTARS KOBE) 「尼崎スケートリンクの足の問題。優先順位はあるけど絶対にやります」 今月中旬には、昨季の優勝チーム、HLアニャンとのホーム3連戦があった。開催日は平日を含めて3日間。集まった観客は、3日合わせても1000人足らずだった。
黒澤さんは言う。
「有料の観客は、割合では高いほうだと思っているんです。仮に招待券でお客さんを集めようと思ったら、満員にするのは、それほど難しくないかもしれない。ですが、クラブの継続性を考えた時に、チケットを売ってなんぼ、もうけを出してなんぼ、なんです。有料のお客さんの数からいうと、そんなに悪いほうでもなかったのかなと」
クラブで働く人を増やせばいいじゃないか。そういう見方もあるかもしれない。今のスターズの常駐スタッフは、片手で足りるからだ。ただ、スポーツチームというものはクラブごとのカルチャーがあって、そこを理解した上で職員が働いている。スターズには、スターズの「哲学」があるのだ。それをないがしろにして、いたずらに従業員を増やすことは得策とは思えない。
「クラブが発足して1年目、2年目は、かなり苦労すると思います。3年目以降にファンの人がだんだん増えていって、世界が広がっていく。そんなイメージをしているんです。スタートアップは、どこでもそんなもの。今は、寝る間も惜しんで仕事をしている。そんなところです」
アイスホッケーは面白いスポーツ。なのに人気が追い付いていない。この業界で生きている人は百パーセント、その思いを抱えている。逆に、日本のホッケーの歴史の中でも、もしかしたら今が一番、人気がないのではないか。そんな気持ちさえしてくる。
「一企業がお金を出してスポーツチームを運営する。そんな時代は終わった気がするんです。企業が撤退してクラブチームになって、そこでうまくやっていけなかったら廃部になる。そういう動きが、ホッケーの世界でもあったじゃないですか。であれば、どういうチームだったらやっていけるのか。ホッケー界に好事例がないと、結局、チームはなくなってしまうんです。そういう意味でも、アイスバックスはリスペクトできるチーム。関西でスターズがやっていかなきゃいけないのは、地域の企業さんに支えてもらって、チームを無理なく運営していくこと。そうすれば、国内で新たなチームをつくる参考になるかもしれません。われわれはスターズを絶対に成功させたいと思っているんです」
今のところ、尼崎スポーツの森がメインリンク。バスの便が少ないというのが悩みの種だ。いっぽうで神戸ポートアイランドスポーツセンターには、場所によってはハイボードがなく、気温が上がりすぎるとサーフェスに問題が生じる。どれもこれも悩ましい問題で、しかし黒澤さんは、「優先順位はありますけど、必ずやっていきますから」と言っている。
ここまでは文字通り「かなり苦労する」1年目が続いているスターズ神戸。でも、それは人生の宝物だ。たとえ、うまくいかないことのほうが多くても、目標を達成する人生のほうが面白い。そうですよね、黒澤さん。
※11月29日(土)と30日(日)の「スターズ神戸」と「H.C.栃木日光アイスバックス」2連戦の詳細は、スターズ神戸の公式サイトをご参照ください。
黒澤玲央 くろさわ・れお
スターズ神戸・代表取締役。1983年1月10日生まれ。青森県八戸市出身。小中野小3年で「八戸南ジュニア」でアイスホッケーを始め、その後は小中野中、八戸高を経て慶応義塾大学へ。卒業後は1年間、アメリカのマイナーリーグ「モホークバレー・アイスキャッツ」の一員としてプレーし、その後1年のブランクを経て、2008-2009シーズンに日光アイスバックスで選手兼営業に。翌シーズンもバックスでフロント業務を行い、その後は商社に就職する。以降はバスケットボールチームで6年、Jリーグチームで7年間働き、2024年5月に「スターズ神戸株式会社」を設立。今年5月、アジアリーグ加盟が決定する。