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2025-12-25

【アメフト】ハイズマン賞にQBメンドーサ インディアナ大から初選出の背景とカレッジQBの現状

2025年のハイズマントロフィーを受賞したインディアナ大QBフェルナンド・メンドーサ

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アメリカンフットボールマガジンでは、掲載が遅れていた、本場アメリカのフットボールニュースを年末にかけてキャッチアップしていく。まずは、ハイズマントロフィーのニュースから。

米カレッジフットボールで、シーズンを通じて最も活躍した選手に贈られるハイズマントロフィーは、今季はインディアナ大学のQBフェルナンド・メンドーサが受賞した。現地12月13日に発表と表彰式があった。インディアナ大の選手が受賞するのはメンドーサが初めてとなる。

同大は、2025年、チーム史に残るシーズンを送っている。12月第1週の日曜日には、ビッグ10カンファレンスの優勝戦で、オハイオ州立大と12戦全勝同士で対戦し、13-10で競り勝って、13戦全勝で全米ランキング1位となっていた。

メンドーサは196センチ102キロのプロタイプパサー。今季、パス226/316(成功率71.5%)、33TD(タッチダウン)・6INT(インターセプト)、レーティング181.4。ランでも240ヤード6TDという成績を残した。インディアナ大の全米1位の原動力となっていた。


今回のハイズマン賞は、1位と2位のQBに共通点が見られた。所属カンファレンスでは弱小と見られていた大学を躍進させて、チーム史上初の成果をもたらしたことだ。

メンドーサは643票の1位票を含む2362ポイントを獲得。バンダービルト大のQBディエゴ・パビア(1435ポイント)、ノートルダム大のRB、ジェレマイア・ラブ(719ポイント)、オハイオ州立大のQBジュリアン・セイイン(432ポイント)を抑えた。全投票の95.16%に名前が記載され、歴代2位の得票率で2014年のマーカス・マリオタ(オレゴン大、現コマンダーズ)と並んだ。

ハイズマン受賞の他には、AP通信のMVPに選ばれ、マクスウェル賞とダービー・オブライエン賞も受賞している。

インディアナ大を全米1位にした原動力
インディアナ大学を全米1位に導いた、ハイズマンウィナーのQBフェルナンド・メンドーサ=Photo by Getty Images


日本の古い世代のファンは、メンドーサと聞くと、梶原一騎さん原作、ちばてつやさん画の名作「あしたのジョー」を思い出すことだろう。ボクシング漫画の金字塔として知られるこの作品で、主人公の矢吹ジョーの最後の敵「ラスボス」として登場するのが、バンタム級の最強王者ホセ・メンドーサだ。『キング・オブ・キングス』と称された漫画のメンドーサは、メキシコ人という設定だったが、QBのメンドーサもラテン系で、ルーツはキューバにある。

メンドーサ本人は米国で生まれ育ったが「自分の両祖父母はキューバ人」とルーツを語り、純粋キューバ系の米国人であることを明らかにしている。

フロリダ州のマイアミで生まれ育ったが、QBとしての評価は低く、フロリダ大やマイアミ大、フロリダ州立大などの地元強豪校には進めなかった。カリフォルニア大に進学して、2023年の途中から先発に昇格しパス1708ヤード14TD・10INT、2024年はパス3004ヤード、16TD・4INTと能力を磨いた。昨シーズン終了後に、トランスファー(転校生)ポータルに入り、インディアナ大に転校し、今回の栄冠となった。

話が脱線するが、メンドーサを含めた過去10シーズンのハイズマンウィナーは10人中8人がQBで、QB8人の内、7人がトランスファー経験者となる。カレッジフットボールのプロ化が拡大・進行する中、複数の大学で異なったオフェンスを経験するのが特にQBにとっては重要だ。過去10年でプロ入りしたハイズマン受賞QBの中で、最もNFLへの順応に苦しんでいるのが、アラバマ大だけの実績でドラフト全体1位となった、ブライス・ヤング(現パンサーズ)であることは忘れてはならない。

名コーチのシグネッティとケミストリー
インディアナ大学を全米1位に導いた、ハイズマンウィナーのQBフェルナンド・メンドーサと、HCのカート・シグネッティ=Photo by Getty Images


インディアナ大は、強豪校・伝統校がひしめくビッグ10カンファレンスの中では、弱小校で、125年間の歴史の中でシーズン10勝以上は一度もなく、2000年以降の24シーズンで勝ち越しはわずか2回というありさまだった。しかし、現在のカレッジフットボールで最も高く手腕を評価されているコーチの一人、カート・シグネッティが2年前にHC(ヘッドコーチ)として着任して、歴史が変わった。

シグネッティの率いるインディアナ大は昨年11勝2敗で、カレッジフットボールプレイオフ(CFP)に進出。1回戦でノートルダム大に敗れた。しかし、その後、メンドーサという「黄金のQB」が加入したことによって、さらなるケミストリーが生まれた。ついにビッグ10で優勝し、全米ランキング1位にまでたどり着いたのだった。

インディアナ大は、今年のCFPでは第1シードとなり、1回戦を免除されている。1月2日に2回戦で戦うのは、あのアラバマ大だ。アラバマは、2023年オフに、名将ニック・セイバンが退任後、真の強さを失った。今季もSECの優勝戦ではジョージア大に大敗した。

2026年ドラフト候補の1人であるQBタイ・シンプソンが在籍し、攻守にタレントは揃うが、セイバン時代の圧倒的な強さはない。

来年ドラフトの全体1位有力候補と目されるメンドーサにとって、「卒業試験」が続いている。第1関門のBIG10優勝戦は見事にクリアしたが、メンドーサのパス成績は、目立ったものではなかった。

もしアラバマディフェンスの前に敗れるようなことになれば、内容次第では、メンドーサの評価も急落することになりそうだ。


弱小チームを引き上げたリーダー…バンダービルト大QBパビア
バンダービルト大をチーム創設123年目で初の二けたシーズンに導いたQBディエゴ・パビア。ハイズマン投票で2位となった=Photo by Getty Images


2位のディエゴ・パビアは1位票189を獲得した。パビアもまた、SEC(サウスイースタン・カンファレンス)の弱小校、バンダービルト大コモドアーズを躍進させた原動力のQBだ。今季は大学記録となるパス3192ヤード、27TD・8INTを記録した。ランでも、826ヤード9TDを刻んだ。彼は、ヴァンダービルト大学史上初のハイズマン賞ファイナリストである。

テネシー州のバンダービルト大は、学業水準は極めて高く、「サウザンハーバード」と称される名門中の名門私立大だ。しかし、フットボールでは、カレッジ最強と目されるSECにあって、長年「ドアマットチーム」に甘んじていた。あえて例えるなら、日本の東京六大学野球における東京大学のような存在だった。

パビア加入後のコモドアーズは、2024年は、アラバマ大に対する大アップセットで話題をさらった。今季はSECの強豪から6勝を記録。しかも4チーム(サウスカロライナ大、ルイジアナ州立大、ミズーリ大、テネシー大)は全米25位以内のランキングチームだった。

バンダービルト大は1902年のチーム創設以来、123年目にして初の10勝を挙げたのだった。

パビアは高校時代は無名で、スカラシップのオファーはなく、ミリタリースクール(ジュニアカレッジの一形態)で2年経験を積んだ後、ニューメキシコ州立大に入学し、エースQBとして活躍した。バンダービルトでの2シーズンと併せ、4シーズンでパス9908ヤード、86TD・27INT、ラン3058ヤード30TDは堂々たる成績だ。

ただ、NFLからの評価は低い。公称6フィート(183センチ)だが、実際には5-10(177センチ)前後という。ポケットパサーとしてはリードが早すぎる傾向があり、身体能力も並みとされているため、得意のQBキープも通用しないと見られている。パスも数年前の全米王者ジョージア大のエースQBステットソン・ベネットのような存在だが、チームの水準はもう少し低い。

彼がハイズマンファイナリストの2位だったというのが、2024年のカレッジフットボールをある意味象徴しているのかもしれない。


名門の馬車馬、24試合で35TDの決定力が魅力…ノートルダム大RBラブ

ジェレマイア・ラブは名門ノートルダム大学での傑出したシーズンで46票の1位票(トータル719ポイント)を獲得した。ラン1372ヤード、18TD、1試合平均114.3ヤードを記録した。過去2年でレギュラーシーズン25試合に出場、24試合でランTDを記録(2シーズンで35TD)というコンシステントな決定力が魅力で、最優秀RBにドークウォーカー賞を受賞し、コンセンサスオールアメリカンにも選出されている。ノートルダム大は今季10勝2位ながら、全米王者を決めるCFPのトーナメントに進出できなかったので、他のボウルゲーム招待をすべて断った。このため、ラブが次にプレーするのはNFLのゲームということになりそうだ。

シーズンパス成功率の新記録を樹立…オハイオ州立大QBセイイン

セイインは昨年の全米王者、オハイオ州立大のQB。185センチ94キロ。高校通算86TD・10INTという成績で、5つ星評価のエリートとして、2024年に入学した。当初はアラバマ大進学を約束していたが、セイバンHCの退任でキャンセルし、オハイオ州立大に進路を変えた。1年目はレッドシャツで、2年目のフレッシュマンとして、今季のスターターになった。
開幕戦で、プレシーズンランク1位のテキサス大と、ハイズマン候補とされていたQBアーチ・マニングに勝って、そのまま勢いに乗った。

セイインのパス成績は13試合で3329ヤードで31TD6INT。特筆すべきはパス成功率の高さ。279/356で78.4%は最上位カテゴリーFBSのシーズン記録を更新した。レギュラーシーズン13戦で、60%台だったのはわずか2ゲームで、80%以上が5試合だった。

ビッグ10優勝戦で、QBメンドーサのインディアナ大に僅差で敗れたが、ハイズマン賞の投票はその前に締め切られていたとされる。

得票が4位に落ち込んだのは、1年生のため「4年生優先の考え方があるハイズマンレースでは不利だったという面はある。加えて、オハイオ州立大のOL、RB、レシーバー陣があまりにタレントレベルが高く、環境に恵まれているからと見られたことが大きい。実際、セイインはインディアナ大戦の前までは12試合で5サックしか喫していなかった。

今年7月に20歳になったばかりで、最速でも2027年のドラフトにしかエントリーできない。通常なら2028年ドラフトの目玉となりそうだ。

                ◇

4月に2025年のNFLドラフトが終了した直後、「来年のドラフトはQBが豊作」という記事や情報が、米のメディアでもファンの間でも飛び交った。

ペイトン、イーライのマニング兄弟の甥という血統で、テキサス大エースのQBアーチ・マニングを筆頭に、ギャレット・ナスマイヤー(ルイジアナ州立大)、ドリュー・アラー(ペンシルバニア州立大)、ケイド・クラブニク(クレムゾン大)、ラノリス・セラーズ(サウスカロライナ大)、サム・リービット(アリゾナ州立大)といった面々がドラフトにエントリーし、その多くが1巡で指名されるという予想だった。

今回のハイズマン賞のレースでは、彼らは1人として、4人のファイナリストのみならず、候補者TOP10にも残ることがなかった。

今年のカレッジフットボールには、いったい何が起きていたのか。そして2026年のドラフトはどうなるのか。NFL解説者で、Xリーグのオリエンタルバイオ・シルバースター監督でもある有馬隼人さんは「QBは空前の大凶作」「下手をすると3巡までQB指名がない」とさえいう。この問題は別の機会に書いていきたい。

【小座野容斉】

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