アメリカンフットボールの日本選手権「ライスボウル」に5年ぶりに進出した、オービックシーガルズ(秋季リーグ2位)。国内最高峰・Xリーグ「X1 スーパー」BIG 3の、パナソニックインパルス(秋季リーグ1位)、富士通フロンティアーズ(同5位)の前に、過去4シーズンは後れを取っていた。そして今季、クラブチームの雄が、王座に返り咲くための最終ステップまで来た。オービックの今を探る。
今季のオービックは、スタッツから言えば、オフェンス主導のチームとして完全に生まれ変わった。リーグ戦6試合で259得点は昨年と変わらないが、相手ディフェンスによってムラが生じた昨年と違い、コンスタントにオフェンスで試合の主導権を握れるようになった。2024年と比較して、パス獲得ヤードは約3割、パスTD数も16%増えた。ランでも獲得ヤード数、TD数ともに前年を上回った。
その主役は、今季新加入のQBピアース・ホリーだ。パスでX1スーパー最多となる、21TDを記録した。さらに、李卓が引退したRB陣も、島田隼輔、廣長晃太郎、長尾涼平というルーキートリオが活躍した。
接戦で決めた値千金のインターセプトオービックシーガルズ○10-7●エレコム神戸ファイニーズ(2025年11月23日、富士通スタジアム川崎)

そのオービックが、今季最も苦戦したのが、ライスボウルトーナメント1回戦の対エレコム神戸ファイニーズ戦だった。エレコム神戸の強力なパスラッシュに、QBホリーが苦しんだ。
えてして高得点でパスハッピーなオフェンスは、そういうものだ。パスオフェンスが主体の、NFLや米のカレッジフットボールでも、シーズン中に1度や2度は、全然パスが決まらない、パスTDが奪えないという試合がある。
レギュラーシーズン中なら、仮にそれで敗れても、シーズンそのものが終わるわけではない。しかし、この試合はトーナメントだった。どんなにシーズンが好調だとしても、負ければおしまいのトーナメント初戦で、「オフェンスが絶不調の試合」がオービックに訪れた。
前半を終えて、3-7とリードされた。前半、オービックの攻撃は4シリーズ。FGを決めた3回目のドライブを除くと、3回のオフェンスシリーズで44ヤードで、ファーストダウンは4回だけと封じ込まれた。
ディフェンスは、エレコム神戸のオフェンスをよく止めていたが、QBデビッド・ピンデルは、パスでもランでもビッグプレーがある選手。プレーコール的には止まっていたプレーでも、交通事故のような一発でTDを決められる可能性が常にあった。
第3Q、オービックはQBホリーが、WR佐久間優毅に35ヤードのパスを決め、一気に敵陣に侵入した。この試合で20ヤード以上のパスが決まったのは、これが2回目だった。さらに、山中隆哉、渡邊ジャマールへのパスで、ゴールまで3ヤードに迫ると、DBジェイソン・スミスをQB起用した。3年前には1シーズンQBをプレーしたこともあるスミスが、3ヤードを飛び込んでTD、オービックが逆転した。
しかし、リードはわずか3点だった。エレコム神戸は、第4Qに反撃に出た。ファーストダウンを4回更新し、45ヤードを進んでゴールまで34ヤード地点。反則で15ヤード罰退したために、サードダウン25ヤードだったが、ファーストダウンを更新しなくとも、ある程度進めば、同点のFG(フィールドゴール)圏内だった。
エレコム神戸のQBピンデルは、スローバック気味のパスをミドルゾーンに投げ込んだが、そこがオービック守備陣の思うつぼだった。主将のDB坊農賢吾が、ボールをキャッチすると、フィールドを横切るように17ヤードをリターンした。
まさに値千金のインターセプトだった。坊農は「シチュエーション的にパスが来るとわかっていた。QBピンデル選手とホットラインのレシーバー内田(大喜)選手 が来るルートを張って待っていて。あとはQBのリードをしながら、ボールを追って狙っていけた」
「常日頃から言っているのは、試合が終わった時に勝っていればいいということ。そこまでの過程は何も考えなくていい。1プレー、1プレーやり切って、最後時計がゼロになった時に1点でも上回っていればいい」
この日の試合が、その通りだった。オービックは、この後、QBピンデルからさらにもう1本インターセプトを奪った。LB高橋悟がラッシュし、跳ねたボールをDLの樋口尚行がキャッチした。
そして、3点差を守り切ったのだった。

ターンオーバーバトルで完勝オービックシーガルズ○35-9●東京ガスクリエイターズ(2025年12月14日、Uvanceとどろきスタジアムby Fujitsu)

準決勝、オービックオフェンスは順調だった。QBホリーはパス403ヤード4TD。ただ、このゲームでも、前半のパントブロック(記録はファンブル)を含め、4回のターンオーバーで試合を締めたのはオービックディフェンスだった。
LB張湧実、LB板敷勁至がファンブルリカバー、DBジェイソン・スミス、DB小椋拓海がインターセプトを決めた。
DB坊農は、ゴール前直前から東京ガスがTDを狙ったトリックプレーで、エンドゾーン内でTE小野航輝のボール確保を手をねじ込んで防ぎ、TDを許さなかったプレーが光った。


オービックは、やはりディフェンス主導のチームだ。ディフェンスで攻めて、ボールを奪い、試合の流れを奪う。塚田昌克HCも、試合後の取材の中で、ターンオーバーバトルの完勝については、納得の表情を見せていた。
無敵の王者として4連覇を達成したのは2010~13年のシーズンにかけてだった。昨年でDB藤本将司が引退し、チーム最年長は清家拓也になった。清家が加入したのは、2014年から。つまり今のチームには、4連覇時代を経験した現役選手はいない。
DEケビン・ジャクソン、バイロン・ビーティージュニア、LB古庄直樹、塚田、DB藤本、三宅剛司らディフェンスの勇者たちが、4連覇の原動力となった。彼らはフィールドを去ったが、アグレッシブでミーンなディフェンスはチームの軸であることには変わりはない。
今季キャプテンに就任の坊農は、それをしっかり認識している。試合後のハドルでは、大声を張り上げたり、感情をあらわにすることはないが、力のある言葉で選手たちを引き付ける。
今回のライスボウルで対戦するパナソニックインパルスの青根奨太主将は、坊農とは関西大学カイザースで同級生。DB坊農が主将、LB青根が副将で、カイザースを引っ張った。
オフに、青根は坊農から「主将をやることになると思う」と連絡をもらったという。Xリーグでの主将歴は、2023年就任の青根が先輩となる。その青根は、坊農を「周囲がよく見えている冷静なリーダー」と評価し、警戒する。
12月末に発表になった2025年のオールXリーグでは、オービックからは、DBで坊農とスミス、DE山田琳太郎が選出された。かってのビッグネームたちに劣らない選手たちの台頭。強力ディフェンスの伝統は脈々と受け継がれている。
パナソニックは、強力なランオフェンスばかりが取り上げられるが、パスオフェンスでも、QB荒木優也にミスが少なく、強敵相手でも確実にパスでTDを奪うことができる。オービックが王座を奪還するには、坊農が率いるディフェンス陣が、冷静に、アグレッシブに、そしてミーンに戦い続けなければならないだろう。
