アメリカンフットボールの世界最高峰、米プロフットボール・NFLは、間もなく今季の大団円を迎える。記念すべき第60回スーパーボウルが現地2月8日にカリフォルニア州サンタクララのリーバイス・スタジアムで開催されるが、今年はNFC代表のシアトル・シーホークス対AFC代表のニューイングランド・ペイトリオッツが対戦する。
シーホークスのQBサム・ダーノルド、WRクーパーカップという2人のベテランは、今季チームに加入した1年目だが、チームに完全に溶け込んで、重要な役割を担っている。NFCチャンピオンシップでのパフォーマンスを中心に、現在の2人を振り返った。
NFCチャンピオンシップシアトル・シーホークス○34-27●ロサンゼルス・ラムズ(2026年1月25日 ルーメン・フィールド、ワシントン州シアトル)
『最終的に俺がプレーを決める』WRカップ

シーホークスWRクーパー・カップは4年前栄光に包まれていた。
ラムズがスーパーボウルに勝った2021年シーズン、カップは歴史に残る活躍をした。レギュラーシーズンは17試合で145レシーブ、1947ヤード、16TD。「パスレシーブ三冠」に輝いた。スーパーボウルでは勝利を決めるファーストダウンを奪い、MVPも獲得した。
しかし翌シーズンからは負傷などで本来の実力が発揮できず。ラムズは昨年3月、遂に功労者カップを放出した。
カップはシアトルを目指した。高校・大学ともにワシントン州で過ごしたカップにとってシーホークスは故郷のチームだった。ラムズ時代のチームメートで、シーホークスにいるLBアーネスト・ジョーンズから「スーパーボウルを目指せるチームだ」という誘いも受けた。
シーホークスもまた、オフェンスを作り直していた。QBに、前シーズン活躍しながらミネソタ・バイキングスを放出されたサム・ダーノルドが加入。カップは、オフェンスの安定剤というべき役割を担った。
17試合でレシーブ593ヤードと、4年前のような爆発的なスタッツはない。それは、今季NFL最高の1793ヤードレシーブを記録した天才児ジャクソン・スミス=ジグバが背負った。しかしカップのクラッチなレシーブ力は衰えていなかった。
昨年まで共に戦ったチームメートを敵にしたNFCチャンピオンシップでも、カップはその力を示した。ゲームの中での初キャッチは第3Q。ラムズが、QBマシュー・スタフォードのTDパスで、24-20と4点差に迫ってきた後のドライブだ。
3rdダウン9ヤードで13ヤードのパスをレシーブ。3プレー後には、QBダーノルドからスミス=ジグバへのアウトサイドスクリーンを12ヤードゲインに変える的確なブロックを決めた。
さらに3プレー後、ダーノルドがカップへ13ヤードのTDパスをヒット。31-20と再び2ポゼッション差にした。巧みなルート取りで、ディフェンスのわずかな空白地帯に入り込んだ、カップらしいパスレシーブだった。結局これが勝負を決めた。
第4Q残り3分20秒では、カップは3rdダウンで決定的なキャッチを決めた。7ヤードのパスレシーブでドライブを継続。ラムズは残っていた2回のタイムアウトを使わざるを得なかった。このパスが決まっていなければ、シーホークスは残り約3分でパントを蹴らざるを得なかった。結局このドライブでシーホークスは4分29秒を消費、試合残り32秒まで攻撃を続けて、ラムズの逆転の可能性をはぎ取った。
スタッツとしてはカップのパスレシーブは36ヤードだったが、どのプレーも重要な勝負所で決めたものだった。
「ゲーム終盤に『最終的には俺がプレーを決めることになる』と心のどこかで感じていた」と語ったカップ。
スミス=ジグバは「彼がここぞという時に活躍するのは分かっていたよ」という。NFLで最高のWRは「クーパーの準備を見れば、この瞬間のために備えているのが分かる。彼の隣でプレーできることは光栄だ。彼が私のプレーを向上させてくれたことには、感謝してもしきれない」と最大級の賛辞を贈った。
ゲームが終わった後のフィールド。ラムズのQBスタフォードは、フィールドにとどまって、両チームの選手や関係者をかき分けながら、カップを探した。そして彼を見つけると抱き合って、言葉を交わした。「お前の糞ったれなスーパーボウルを勝ちに行けよ」という、去年までのQBの愛ある激励は、カップのモチベーションを一層掻き立てたことだろう。
「本当に信じられないような道のりだった。この街の熱狂を目の当たりにできて、このチーム、この組織の一員として、シアトル中に広がる興奮、私たちの築いたものに心から共感し、全力で支えてくれる人々。その一部となれるのは本当に素晴らしい」
『まだ常に成長の余地がある』QBダーノルド

QBサム・ダーノルドはまだ28歳だが、もうプロ入り8年のベテランだ。シーホークスは5チーム目だ。ダーノルドは2018年にドラフト1巡全体3位でニューヨーク・ジェッツに指名されたエリートだった。しかし、ジェッツでは苦戦続き、3シーズン13勝38敗で放出された。移籍したカロライナ・パンサーズも2年。ここでいったんスターターQBとしての立場を失った。
2023年、49ersでは1年契約450万ドルの控えQBでしかなかった。まだ26歳だったが、彼に将来を託そうというチームはNFLにはなかった。
2024年にはミネソタ・バイキングスに加入した。7年間で4チーム目。完全なジャーニーマンだった。バイキングスはこの年ドラフト1巡指名で、全米王者となったミシガン大からJJマッカーシーを入団させていた。経験のないマッカーシーを「煽る」役割もあったため、1年1000万ドルは、控えとしては高かった。
しかし、マッカーシーがシーズンアウトの負傷をした。これがダーノルドの転機となった。
バイキングスにはWRジャスティン・ジェファーソン、ジョーダン・アディソンという、NFL屈指のコンビがいた。さらにTEのTJホッケンソン、RBアーロン・ジョーンズも高いレシービング能力があった。
ダーノルドは先発に昇格すると、プロ入り後初めて、持って生まれた才能を開花させた。
17試合で4319ヤード、成功率66.2%、35TD・12INT、レーティング102.5を記録。チームは14勝3敗でNFC北地区優勝を果たした。しかしプレーオフの初戦がラムズ戦だった。
ラムズの強力ディフェンスが9サックを浴びせ、ダーノルドは「元の木阿弥」に戻り、バイキングスは惨敗した。
バイキングスがポストシーズンを勝ち進んでいたら他の選択もあったかもしれないが、バイキングスはマッカーシーを育成するという当初の方針に立ち返り、ダーノルドを放出した。そしてたどり着いた8チーム目がシーホークスだった。
ダーノルドは今季、2年連続でパス4000ヤード、25TDを超えた。ワイドアウトのスミス=ジグバをNFL最高のレシーブ成績に仕立て上げた。インターセプトは増えたが、シーホークスは14勝3敗の成績で、NFCの第1シードになった。先発QBが異なる2チームで2シーズン連続4000ヤードを超えて、同時にチームが14勝以上を挙げたのは、NFLでは初めてだった。
NFCチャンピオンシップでは、シーホークスはラムズとの対戦だった。
ダーノルドにとっては、昨年のプレーオフで9サックを食らっただけでなく、今季もレギュラーシーズン11月の対戦で4インターセプトを喫した天敵。そのラムズディフェンスを、この試合では完全に攻略した。パス25/36、346ヤード3TD。エースWRのスミス=ジグバには10本のパスで153ヤード(球団プレーオフ史上2位)1TDをヒットした。
ラムズQBマシュー・スタフォードも、パス374ヤード、3TDとダーノルドと互角の投げ合いを見せた。しかし、サードダウンコンバージョンで、シーホークスの「ダークサイド」ディフェンスに手を焼いたスタフォードは1回しかファーストダウンを奪えなかった。これに対し、ダーノルドはパスでファーストダウンを6回更新、その中にはWRカップへのTDも含まれていた。
実はダーノルドにとって、スーパーボウルは2度目だ。2年前の第58回大会で、49ersの控えQBとしてサイドラインにいた。しかし今回とは意味が全く違う。
「我々のQBを語らずして試合を語ることはできない」とシーホークス2年目の若いマイク・マクドナルドHCは語った。「彼は今夜、多くの批判を黙らせた。彼のために嬉しい」
「サムの活躍は言葉に尽くせない」とスミス=ジグバは語った。「素晴らしい最初の1年だった。あと1勝を残すのみだ。彼が乗り越えた困難を考えれば、俺は、1日中サムと一緒に走り回るさ」
シーホークスは、球団史上4度目、11年ぶりのスーパーボウル進出を決めた。前回出場時に敗れた相手、ペイトリオッツと再戦となる。
もちろん、当時はまだ高校生だったダーノルドは11年前のことは経験していない。しかし、ペイトリオッツには苦い思い出が多数ある。ジェッツ在籍の2019年、NFL2年目のマンデーナイトゲームでは、0-33で惨敗した。パスは11/32でわずか86ヤード、4インターセプトを喫した。ディフェンスに幻惑され、サイドラインで思わず「幽霊が見える」と語った言葉を、その後さんざんあげつらわれた。
「あの頃は知らなかったことがたくさんあったと思うから。この素晴らしいゲームの中で学び続け、成長していくだけだ。今からでも改善できることは山ほどある」とダーノルドは言う。
「(NFCチャンピオンシップでも)外すべきじゃないパスを何本か外した気がする。オフェンスの改善の余地があると感じている。だから我々は常に上を目指す。俺自身も常に上を目指す。この競技の素晴らしい点は、シーズンを通して勝利を重ねて、NFCチャンピオンになっても、まだ常に成長の余地があることだ」
※選手、コーチのコメント部分は、公式サイト、YOUTUBEなどから引用。
