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2020-05-18

『稽古場物語』発刊記念対談佐々木一郎(著者・日刊スポーツ新聞社)× 能町みね子(文筆業)

月刊『相撲』夏場所展望号(2020年5月1日発売)に掲載中の『稽古場物語』発刊記念対談のノーカット版をお届けします。著者の佐々木一郎さんと、相撲ファン歴28年で近刊の著書『結婚の奴』が話題の能町みね子さんとの対談は、本のことから、無観客で開催された春場所のことや、この先の相撲界のことについてなど、話は尽きませんでした。

日刊スポーツの佐々木一郎記者が月刊『相撲』に4年間(平成27年1月号~30年12月号)連載した『稽古場物語』が大幅に加筆、訂正した上で今年1月に単行本として発売され、好評を博している。同じく本誌に「大相撲中継 中継」の連載を持つ能町みね子さんが、雑誌『Number』999号(3月12日発売)の「新刊ドラフト会議」でこの書籍を温かい目で紹介してくださったのを機会に、3月場所中にこの対談が企画され、4月10日に行われることが決まった。しかし4月7日に「緊急事態宣言」が発令されたため、この対談も、急遽LINEによる〝リモート対談〟の形で行われた。話は延々90分に及び、書籍の話から、今年3月の〝無観客場所〟まで話は尽きなかった。単行本『稽古場物語』を横に置いて、お読みください。

佐々木一郎
昭和47年8月3日、千葉市生まれ。平成8年4月、日刊スポーツ新聞社に入社。11年11月から編集局スポーツ部。オリンピック、サッカーなどの担当を経て、22年3月場所から大相撲の取材を担当。現在大相撲担当デスク。ベースボール・マガジン社の月刊『相撲』の27年1月号から4年間にわたって「稽古場物語」を連載、今年1月に単行本として刊行。重版に至るなど、好評を博している。

能町みね子
北海道出身、文筆業。近刊に『結婚の奴』(平凡社)。相撲ファン歴28年。最初に好きになった力士は鬼雷砲。平成24年からおよそ2年半ほど「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン」内で「相撲ガール教習所」コーナーを持ち、大相撲ブームにひそかに貢献。NHKニュースシブ5時「相撲部」コーナーに出演中、月刊『相撲』にて「大相撲中継中継」を連載中。

面白かった芝田山部屋の話。
相撲部屋それぞれにある個性的なエピソード

佐々木 この度は書評を書いていただき、ありがとうございました。
能町 いえいえ、あんなのでよかったのかなと思いまして。

佐々木 いや、最高の書評でした。
能町 そうですかね。ありがとうございます。

佐々木 うれしかったのは、細かく書いた佐渡ケ嶽部屋とか、〝不穏なこと〟が書いてある時津風部屋ですとか(笑)、あとは、まさかの芝田山部屋のことを書いていただいて――。
能町 芝田山部屋は面白かったですよ。私もこの話は知らなかったので。建物自体の不備の話なんて、聞くことないですもの。
佐々木 はい。

能町 こんなことが起こりうるんですねーー現実的に考えれば、起こりうる話なんですけれども。
佐々木 はい、それでやっぱり、芝田山親方なので、スイーツの差し入れがあるのかとか―、そういう話かなと思って、いろいろ聞き始めたんですよ。もちろんスイーツに関する蘊蓄もいろいろお話はしてくれたんですけど、それよりも、稽古場の話をし始めたら、そっちのほうをどんどんしゃべる感じになっちゃって。

佐々木 だけどこれ、書いていいのかと思って親方に「かなりご苦労されたようなんですが、これは書いても大丈夫ですか?」と聞いたら、全然いいよという感じで、何にも気にされてなかったので。
能町 大らかですね(笑)。

能町 相撲部屋というだけで、観点が無茶苦茶たくさんあるじゃないですか。建物の話だけではなく、稽古の内容の話も当然あるし。部屋というものを作るためのエピソードというのもあるし。あらゆる部屋で逆に観点が多すぎて、このぐらいでよくまとまったなと思いますね。

芝田山部屋イラスト図/稽古場物語P94〜95より
稽古場を地下につくったことにより、湿気によるさまざまなトラブルに見舞われた。あらゆる対策を施し乗り越えたエピソードや現在の除湿対策が書き込んである

佐々木 そうですね(笑)。連載を始めたときには、行ったことがない部屋とか、よく知らない部屋もあったので、毎月、同じような話ばかり書くことになっちゃったりしたらちょっと嫌だなと思っていたんです。ところがいざ取材してみたら、意外と話題もバラエティーに富んでいたので、結果的には幅広くというか、いろいろな話題が取り上げられる感じになりましたね。

能町 あとこの本を最初に見たとき、大判(B5判)なんだということにびっくりしたんです。

佐々木 そうなんですよ。編集者の方が最初の段階で、この企画を本にするには、イラストを大きく見せたほうがいいだろうと。ただイラストでページをまたいでしまうと、ノドのところが見づらくなるので、どうなんだろうという懸念はちょっとあったんですが、それは、見開きしやすい本の作りにすれば解決できるので、これでいきましょうということで―。

『稽古場物語』は「月刊相撲」と同じB5判。ページをまたいで掲載されている稽古場のイラスト図がきれいに見えるように、しっかり開くことができる製本になっている

能町 全然気にならないですね。
佐々木 はい。だからレイアウトは雑誌連載時とはだいぶ変わったんですよね。もともとの原画があまり大きくないので、もうちょっと大きく描けばよかったかなと思っていますけどね。

能町 それはそうですね。でも、元がかなり細かい絵だから、別に見劣りは全くしないですね。
佐々木 そうですかね。拡大すると、ちょっと粗くなってしまうのが心配だったんですけれど。そこは何とかクリアできたかなとは思っています。

能町 これは、原寸より小さく描いていますね。
佐々木 ちょっと小さいですよね。ものによるのですがA4サイズを基本にできるだけ大きく描いているので、原寸より小さくしているところのほうが少ないかもしれないですね。

能町 でも私、ホント、こういうのは描けないんですよね。
佐々木 いやあ(笑)。

能町 こういうものを描く根性がないんですよ、私は。例えば、(旧東関部屋のページを見ながら)こういう線を1本1本描けないんですよ。この仕事の細かさ! 格子を描いたり。

佐々木  そういう風呂場のタイルとかは細かくなっちゃったんですけど、よくよく見ると、けっこうアラが出ていますね。集中力が途切れたところとか(笑)。

旧東関部屋イラスト図/稽古場物語P18〜19より
本書に掲載されている全44部屋のうち東関部屋をはじめ移転したところは旧部屋も掲載した。イラストはすべて手書き。風呂場のタイルの格子ひとつまで細かく書き込んである

佐々木 あと僕は、能町さんみたいに、キャラクターとか、人の顔を一切描けない。こういう無機質なものは描けるんですけど。だから本当は、この絵の中に、お相撲さんが座ってるところなどを描いてもよかったんですけど、それはできませんでした。

佐々木 ところで能町さんはイラストを描くとき、けっこう時間をかけるんじゃないんですか?

能町 あんまり時間かけないですね。下描きは一応してはいるんですけど、同じ絵を下描きと本描きで2回描くというのが本当は嫌なんですよね(笑)。できればいきなり〝本描き〟でどうにかしちゃおうという感じになってるので。よっぽど緻密なものなら別ですけど・・・まあ緻密な絵がそもそも向いていないんです。

佐々木 なるほど(笑)。

イラストを描く道具についてなど、
元力士の相撲漫画家・琴剣さんからいろいろ教わる

能町 (再び『稽古場物語』を見て)いやあ、この佐渡ケ嶽部屋、今見ても、やっぱり細かいですね。
佐々木 佐渡ケ嶽部屋は広いというのは前もってわかっていたので、ある程度、絵を描く力が上達してからじゃないと、やる気が出ないなと思ったので、後回しにしたんですよ。

佐渡ケ嶽部屋イラスト図/稽古場物語P82〜83より
「この部屋が広いというのは前もってわかっていたので、ある程度、絵を描く力が上達してからと、後回しにしたんです」(佐々木さん)

佐々木 佐渡ケ嶽部屋で一番難しかったのは―結局はうまく描けていないんですけれども、佐渡ケ嶽部屋の左上のあたりの「琴ノ若」と書かれている座布団があるじゃないですか。これは師匠(元関脇琴ノ若)の現役時代の座布団なんですけれども―その左側に、カッパみたいなのが寝そべってる絵があるじゃないですか。ここが一番うまく描けなかったんですよ。

能町 これは何なんですか?
佐々木 これは、ヒョウだかトラだかの剥製が、正面から見ると、襲い掛かってくるような、そういう―。
能町 へええ。
佐々木 この本でも、苦戦した跡が見られると思うんですけれども。
能町 けっこう描き直している感は見えますね。
佐々木 ここはもう、どうにもならなかったですね。

能町 これって、下書きを鉛筆で描いて、仕上げは、製図ペンか何かですか?

佐々木 いろいろペンは試したんですけど、行きつくところに行きついたのは、150円くらいのペンだったですね。
能町 私が細い線を描くときのペンは、こんなペンです(といって見せる)。0・05って書いてありますけど。
佐々木 ああそれ「コピック」ですかね?
能町 そうコピックです(「コピックマルチライナー」の0・05。コピックは㈱トゥーマーカプロダクツ[本社:品川区西五反田]の登録商標)。

佐々木 それも試しました。僕のはこれです。
能町 見たことありますね、ブランド名はわかりませんが。
佐々木 「ラッション」というブランドです(寺西化学工業製[本社:大阪市旭区]の登録商標)。

能町 ちなみにこのペンは何がいいんですか?
佐々木 ペン先が硬いので、多少力んでも太くならないというか――。
能町 それは大事ですね。ペン先がそのうち潰れるというか、何となく太くなっていくんですよね、描いていると。

佐々木 そうなんですよ。それでいろいろ試してみたら、これは本当に硬かったので、0・05とかでも、細いまま、しばらく使えるんですよね。
能町 そうですか、私も揃えようかな。
佐々木 ぜひ。しかも安いという。

能町 150円なら高くないですよね。ちなみに太さは何種類か使われたんですか?
佐々木 部屋の大枠の太さは0・3ミリで、文字や中くらいの太さの線が0・1ミリで、ほかの細かいところが0・05とか0・03です。

能町 4種類。だいたい私と同じです!0・3、0・1、0・05は使いますね。

佐々木 最終的にそれで落ち着きましたね、いろいろ試したんですけど。あとは、琴剣さん(佐渡ケ嶽部屋の元力士の相撲漫画家)にもいろいろ教わりました。

能町 ああ剣さん。そうですね、近いところでは 剣さんが一番お詳しいですよね。

佐々木 それで、剣さんに言われたのが、鉛筆の下書きは、そんなに消さなくても印刷のときに残らないから大丈夫だよ、ということですね。最初悩んだのが、ペンで描いたあとに、鉛筆の下書きを一生懸命消そうとすると、ペンもちょっと薄くなるじゃないですか。

能町 そうなんですよ。
佐々木 印刷がよく出なくて、どうもうまくいかないな、と思って、剣さんに聞いたら、勧められた消しゴムはこれです(プラス株式会社の「エア・イン・ソフト」)。

能町 見たことありますね。
佐々木 はい。よく消えるし、軽くこするだけで、ペンが薄くならない程度になるよ、と教えてもらったので。国技館で剣さんに会った時、剣さんの売店の前で教えてもらいました。

能町 むしろ佐渡ケ嶽部屋は、ものすごく力を込めて、最初のほうに描いたのかと思ったんですよ。
佐々木 いやいや、最初の頃はまだ絵がヘタなので、書籍化にあたり、かなり描き直したんですよ。

能町 ああ、佐渡ケ嶽部屋は、描き直した部分なんですね。
佐々木 はい。最初の頃の絵は、今見るととても恥ずかしくて、商品化できるレベルにないので。

能町 雑誌連載の第1回目(平成27年1月号)はどこでしたっけ?

佐々木 伊勢ケ濱部屋です。最初は、描きやすいところとか、ある程度部屋の事情がわかるところから書いていこうかなと思ったんですよね。

「月刊相撲」連載の第1回目(平成27年1月号)は伊勢ケ濱部屋。こちらが連載当時のイラスト原画

書籍化にあたり描き直した伊勢ヶ濱部屋のイラスト原画。「最初の頃の絵は、今見るととても恥ずかしくて、商品化できるレベルになかった」と佐々木さん

伊勢ヶ濱部屋(稽古場物語P26〜27より)。イラスト原画に部屋についての書き込みを加えて完成。次のページには、部屋にまつわる歴史や隠れたエピソードなどが文章で綴られている

能町 これ、イラストは描き直したんでしょうけど、記事のほうは?
佐々木 記事のほうも書き直してますね。

能町 かなり手直しをされているんですか?
佐々木 はい。一番苦労したというか――雑誌連載時は、その時どきのことを書いてしまっているんですね。

能町 そうか、そうですよねえ。
佐々木 はい。もうすぐ大関に上がりそうとか、いい新弟子が入ったとか、でもそれを書籍にすると、相当時間がずれちゃってる、というか今に合わなくなってしまったんです。本当なら最初から――例えば師匠が部屋を作ったきっかけとか、常に変わらない指導方針とかを書いておけば、書き変える必要がなかったんです。だけど、ほとんどが書き変えないと、意味が通じなくなっちゃったんです。

佐々木 だから、いやらしい話ですけれど、書籍化を意識した連載の書き方を、あとあと学びました(笑)。
能町 ああ、それは大事ですね。

佐々木 はい。あと10年ぐらいたったら、部屋の師匠も代替わりしているところも多いでしょうし、新しい部屋もできていると思うので、もし今度、このようなものを書く機会があったら、のちのち読んでもおかしくないような書き方をしたいな、と思いました(笑)。

写真は一部屋で約200枚撮影。
取材を重ねるうちに徐々にコツをつかむ

能町 ところでこれ、一部屋につき、どのくらい写真を撮るんですか?

佐々木 だいたい200枚くらいですね。

能町 一部屋で200枚! 1回取材に行ったときに一気に撮るんですか?

佐々木 はい。

能町 今、伊勢ケ濱部屋を見てますけど、奥の倉庫の長机の並びとか、どれだけ撮ったらこれだけ描けるんだろうと思いました。見落としとか出そうなものですけど、出ないものですか?

佐々木 最初の頃はたまにあったのですが、慣れてくるとあまりなくなりましたね。資料写真を撮るにも、だんだんコツがわかってくるんです。例えば、伊勢ケ濱部屋も、勝手口を入った側から見たら、すぐ右側というのは、陰になるじゃないですか。そうすると、そこは撮らなくていいんですよ。

能町 あ、なるほど。
佐々木 はい。勝手口を入って、正面突き当たりの裏側のところも、こういうイラストにすると見えないので、あまり熱心には撮らなくてもいいんです。

能町 それが把握できるようになるって、かなり、完成図が頭の中にできていないと難しいですよね。
佐々木 そうですね。でも、だんだんやっていくうちに、手際がよくなるんですよ。

能町 すごいな。どこまでを描くか、どこを省略するかとかいうのもあるじゃないですか。ここは描かなくていいとか、これは省こうとかも、考えなければいけないわけですね。

佐々木 そうですね、だから、最終的には、稽古場があるフロアを全部描こうと思ったんですよ。ただ、上がり座敷がちらかっていたりすると、親方から「こういうところは描かなくていいからね」と釘を刺されたりとか(笑)。あと、時々空白になっているのは、プライベートな空間で描くのを避けました。ただ、かなり見せていただいたので、各部屋の師匠のお陰であることは、もう間違いないですね。それに、どうしても撮り忘れてしまったときには、部屋の親方とかお相撲さんに、「あそこを撮ってLINEで送って」とか、そういうこともありました。

佐々木さんの取材ノート。写真撮影と同時に、歩測をしてノートに大まかな見取り図を書いた

佐々木 個人的には、風呂場を見るのが面白かったですね。
能町 はいはい。面白そう。
佐々木 どれだけ広いところで入っているんだろうと。普通の取材だと、風呂場はなかなか見ることがないので。

能町 イラストの周りにある黒い注釈みたいな字は、あとから加えてるんですか?
佐々木 そうですね。
能町 別立てで組み立てているんですか?

佐々木 これは、編集者の方のアイデアがよかったんです。まず雑誌連載時の建物だけの原画を1回作って、それをコピーして、文字を入れたりしました。もともとの部屋の原画は残っていたので。

能町 なるほど。すっぴん状態の原画があったわけですね。

佐々木 はい、それを流用して、トレーシングペーパーを上に重ねて、新たに書籍用のレイアウトに合わせて、もう1回文字を書き直したっていう感じです。

部屋名などのタイトルまわりとのバランスを見ながら稽古場のイラスト原画をページのなかに配置して、その上にトレーシングペーパーをかけてネームを書き込んでいった

佐々木 この文字情報も新しいものにしなくちゃいけなかったので、引退した人を外したり、新しく関取になった人たちを入れながら、文字情報も新しくした感じですね。

能町 大嶽部屋も相当細かいですね。

佐々木 そうですね。大嶽部屋も描き直した部屋で、描き直しているところは最終的に書籍化に向けて、かなりモチベーションも上がっていたときなので、頑張って描いた感じですね。

能町 この一つのイラストを描くのに、どのくらい時間がかかるんですか?
佐々木 いちおう20時間ということにはしているのですが……。
能町  ええ、すごい!

佐々木 ただ、実際は一気に描くわけではなく、その都度、時間をきっちり計測していたわけではないので、なんとも微妙ですね。だいたいそのくらいかかっているかと。

能町 いや、すごいです。新聞記者として〝本業〟をしながらの作業ですからね。
佐々木 いえいえ(笑)。そこはもう意地になって作りました。でもこうやって形(書籍)になって、達成感でいっぱいですよ。

能町 この本は〝永久保存版〟ですよ。連載時は、本になることはあまり考えていなかったのですか?
佐々木 途中から、そうなればいいなとは思っていたんですけど。

能町 書籍化に向けて、イラストを描き直したのは何枚くらいあるんですか?

佐々木 10枚くらいじゃないですかね。連載は4年間だったのですが、最初の1年間ぐらいの絵はダメですね。漫画家の方が、連載を続けているうちにだんだん絵がうまくなっていくという、ああいうやつです(笑)。

能町 〝こち亀〟(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)の両さん(主人公の両津勘吉)の顔が連載初期と、100巻の頃とでは全く違うみたいな(笑)。
佐々木 そういうことです。

『稽古場物語』のエピソードでたびたび触れた育成のこと。
相撲部屋への偏見を解きたかった

佐々木 話は変わるのですが、書籍を出版してみて、宣伝したくなる気持ちがすごくよくわかりました。
能町 本は、宣伝しないと売れないんですよ(笑)。
佐々木 これは、能町さんの手法を参考にさせてもらったのと―。
能町 いやいや……。

佐々木 そうやって、実際に本を出されている方の気持ちがよくわかるようになりました。あと、これも能町さんの気持ちがわかったのは――例えば、SNSとかに感想を書いてくれる人がいるのは、ものすごくうれしいというか、初めての経験でした。
能町 あれはホント、ありがたいです。宣伝のためにたくさん感想をリツイートしても、意外とそんなに嫌がられないということも、だんだんわかってきました。

能町 書評にも書いたんですけど、私にとってはこの本はもちろんとても楽しいのですが、相撲本って、普通はマニアックじゃないですか。
佐々木 そうですね。
能町 相撲関連の本が、こんなに大ヒットするって、なかなか考えられないことなので。

佐々木 大ヒットではないと思いますけれど(笑)。お陰様ですごくうれしいんですけど、能町さんの『結婚の奴』と比べたら、ケタが違いますよ。

能町 いやいや、あれだって私の中では相当頑張ったほうですけど、別に大ヒットではないです。ともかく、今相撲ブームというにはちょっと落ち着いちゃてますし、相撲の本でこんなにいろいろな取り上げられ方をするっていうのが私はうれしかったんですよね。

佐々木 書評のなかでそういうふうに書いていただいて、すごくうれしかったです。あと、「令和の時代らしい育成論」ということを書いていらっしゃいました。これも、今は怒鳴ったり、ぶったたいたりすることはもうないのですよ、ということは、けっこういろいろな部屋で書きました。相撲界をよく知らない人への誤解を解きたい気持ちは強かったので、そこはちゃんと書いておかないと。「いつまでも暴力ばかりで体で覚えさせてるんだろう」と思っている人の気持ちを変えたいなという思いは常にあったので。

能町 相撲を全く知らない人からすると〝ブラックボックス〟ですよね、相撲部屋って。なんか怖い、恐ろしいところ、みたいなイメージがありそうですよね。

佐々木 だから、この親方は怒鳴るわけじゃないんだ、ということを、いくつもの部屋で書いてしまったので、また同じことを書いちゃったなというのがあったんですけど、そこは多少、強調してもいいかなと思ったところではありましたね。書評ではそういうところも触れていただいたので、本当にありがたかったです。

荒磯親方、押尾川親方、中村親方など、
今後が楽しみな若手親方衆

能町 佐々木さんの本とは関係のない話になりますけど、荒磯親方(元横綱稀勢の里)のインタビューを読むたびに、面白いんですよね。
佐々木 そうですね、はい。

能町 最近の若い親方は言っていることがみんな新しくて、しかも面白い人が増えてきたので、そういうところが広まったらいいなと思うんですよね。最近の人だと、押尾川親方(元関脇豪風)とか、中村親方(元関脇嘉風)とか、言うことが面白いですし。解説もみんな個性があるんですよね。

佐々木 そうですね。そこはまだあまり世に知られてないところかもしれないですよね。

能町 私、月刊『相撲』に「大相撲中継 中継」っていう連載を書かせていただいていて、そこで中村親方のことを書いたんですけど、言うことがかなり厳しいんですよ。それがすごく斬新で。最近は荒磯親方も含めて、割と褒めて解説される方が多いですよね。昔は確かに辛辣な親方はいらっしゃいましたが、当時はあまり愛のない辛辣さだったというか(笑)。でも、中村親方は辛辣さに愛情が含まれていて、それがとても素晴らしいです。

佐々木 こういう若い親方たちが部屋を持って師匠になると、部屋の方針も、個性が出るでしょうし、教え方もどうやるのか、楽しみなところはありますよね。
能町 そうですね。ちゃんと理論に基づいて指導する人が増えるんじゃないですかね。

佐々木 あとは、そんななかで、伝統文化の部分をうまい具合に残しながら……というふうにやれたらいいな、とは思いますね。
能町 そうなんですよね。あまりにスポーツ化してしまうと、それはそれで悲しいんですよね。

佐々木 「修業」の部分を一切なくせばいいかというと、そうでもなかったりするじゃないですか。
能町 厳しいところは厳しくあってほしいですよね。
佐々木 そこのバランスはけっこう難しいところだとは思いますね。

能町 『稽古場物語』はそういう内容面にまで踏み込んでいるところが面白いですね。

佐々木 鳴戸部屋では、そういうところを表現できたと思っているんですよ。鳴戸親方(元大関琴欧洲)はけっこう、いろんなことを考えているので。例えば、風呂場に浴槽を2つ作って、交代浴をするだとか、稽古のビデオを撮るというのは、いろんな部屋でやってますけれども、あとは目標設定シートのようなものを書かせたりだとか。もっとこうすればよかった――と現役時代に思っていたことを、どんどん具現化している感じは、すごくありましたね。

能町 先日はYouTubeで生で動画配信をやってましたね。

佐々木 そうなんですよ。今日もやってましたね。それでちょっと驚いたのは――日刊スポーツで記事(4月6日付)にさせていただいたんですけれども、次の日に芝田山広報部長(元横綱大乃国)が電話で報道対応をするときに、あのネット中継を、好意的に受け止めて話してくれたんですよ。

能町 へええ。

佐々木 内部では「ああいうことをやったらいいんじゃないか」という声は出ていたんだけれども、実現にはちょっと難しいかもという感じで。みんなで一緒にやろうというところまではいってないんですけれど、ベテランの親方でも前向きに受け止めて、「いいことだね」という感じで話してくれたのは、よかったなと思いましたね。

能町 風通しがいいですね。
佐々木 はい。

掲載するのをかなり悩んだ「部屋別 稽古見学ガイド」

能町 (本を見ながら)錦戸部屋も面白いな。私、錦戸部屋には行ったことがないんですけれども。
佐々木 ああそうですか、気楽に入れますよ。

錦戸部屋イラスト図/稽古場物語P148〜149
上がり座敷が円形だったり、玄関に黒光りする石を使用していたりするなど、デザイン性の高い錦戸部屋。土俵があるのは共通していても、稽古場にはそれぞれの部屋の個性が光る

能町 そうなんですね。この、相撲部屋の機能としてはあまり意味がなさそうな斬新さがいいですね(笑)。小上りが丸くカットされているのとかも、そんなに実益はない気がするんですけれども。

佐々木 その丸くなっているところが、黒い、ちょっと高級そうな石なんですよ。だから、モダンな感じなんですよね。

能町 不思議ですよね。(平成16年2月に部屋を作ったときは)錦戸親方はまだご結婚される前ですよね(結婚は平成28年2月)。

佐々木 そうです。だから親方のセンスだと思いますよ。あそこは上がマンションになっているんですよ(3~5階部分がマンション「MITOIZUMI」)。それで、上の部屋も、普通の間取りではなくて、ちょっとデザイナーズマンションっぽくなっているそうなんですよ。

能町 へえ! そうなんですね。

佐々木 はい。それは錦戸親方(元関脇水戸泉)が言ってました。だから、どうやら親方は、そういうのが好きみたいですね。

能町 油絵を描いたりしてた親方だから、そういうところがあるんですかね。

佐々木 はい。だから造りが個性的で、上のマンションもちょっと捻りを加えているような、そういう形みたいですよ(笑)。

能町 行きたくなりますものね、これを見ていると。

佐々木 そうですね、それで、この本の最後に、「部屋別 稽古見学ガイド」を掲載して、稽古を一般ファンに公開しているのか、非公開にしているのかを入れたんですよ。今現在、新型コロナウイルスの影響で当然非公開ではあるんですけれども、問題が収まったときには見に行ってみると――けっこう感動するじゃないですか、稽古を見ると。

能町 いやあ、そうですね。

佐々木 はい、みんな頑張っているなと。見てみると、よりいっそう、本場所の相撲を見るときの気持ちの入り方が違いますし。

能町 下のほうの力士も応援したくなったりしますからね。

佐々木 ただ、このガイドを載せるときにけっこう難しいなと思ったのは、相撲部屋というのは、ちょっと敷居が高いというか、勇気を出して初めて入れたときの喜び、みたいなものもあるじゃないですか。

能町 はい、はい。

佐々木 なんでもかんでも、手取り足取り、書いてしまうのがいいとは思わなかったので、載せることはかなり迷ったんです。ただ稽古を見てみると、感動もするし、いいものなので、とても恐れ多くて近づけないよ、という人のためには、こういう手助けがあってもいいかなと思って、思い切って載せました。

能町 でも、これがあっても、それなりに敷居は高いですよね。だから、あっていいと思います。このガイドがあったからってすぐにじゃあ行ってみようという、そこまでは下がりすぎないとは思うんですよ。

佐々木 はい。ただすごく慎重に書いたのは、例えば外国人旅行客のツアーに相撲部屋見学が勝手に組み込まれちゃったりーー。

能町 あれはマナーとしてひどいですよね。

佐々木 そういう話も聞いていたので、書いたものの、ちょっと心配だなというのは、今でもあります。ある部屋の親方なんかは「道を歩いている人が、トイレだけ借りに来るんだよな」とぼやいていたりしていたので―。

能町 ええ? 相撲部屋をなんだと思っているんでしょうね(笑)。

佐々木 でも実際にあるそうなんですよ。だからここは本当に気を使って慎重に書いて、注釈のところには、その都度事情が変わるので、部屋の指示に従ってくださいという注意書きは入れました。

能町 ホントに知らないと、稽古場でペチャクチャしゃべっちゃう人もいたりしますからね。

佐々木 そうなんですよ。特に外国人の方なんかは、悪気なく寝そべったり、パンを食べたりとかというのは(笑)、知らないから、普通にやっちゃうらしいんですよ。

能町 そう考えると荒汐部屋はすごいですよね。それを考えて、ガラス張りにして外から自由に見られるようにしたんですもんね。外から見るぶんには、何をしていても、ご飯を食べていたっていいわけですからね。

佐々木 はい。だからあれは、いいアイデアですよね。

3月の〝無観客場所〟裏話

能町 3月に大阪で行われた〝無観客場所〟は、私はテレビで見ているだけだからよかったのですが、取材はとても大変だったのではないですか?

佐々木 そうですね、はい。僕も初日と2日目しか行ってないのですが、あの静けさは、ちょっと異様な感じの空間だったですね。
能町 まあ、そうでしょうね。
佐々木 はい、びっくりしました。

能町 だってテレビに、横綱土俵入りの際の砂を擦る音が入りますからね。

佐々木 場所中も話題になったり、語られたことではあるのですが、音が聞こえるというのは、すごかったですよね。横綱土俵入りのときの、行司さんの「シー」という警蹕(けいひつ)を初めて知る人も多かったですし、僕が初めて「あっ」と思ったのは、時間いっぱいになったときに呼出しさんが関取にタオルを差し出すとき、呼出しさんも「時間です」って言ってるんですよね。

能町 ああ、言ってますね。

佐々木 はい。あれは知らなかったです。あとは、稽古場などでは、投げられた方の力士が、「アッ」とか「痛っ」とか言うんですけど、それを本場所でも―当たり前ですけど、出ちゃうんだなっていうのが、初めてわかりましたね。

能町 初日と千秋楽の理事長による協会挨拶は、誰がどう考えたのでしょう。びっくりしました。

佐々木 そう、すごく評判よかったじゃないですか。今までさんざん〝テンプレート〟だのと言われていましたけど、今回は本当に素晴らしかったですよね。

能町 素晴らしかったですね。

佐々木 はい。だから、能町さんがおっしゃったように、僕も、誰がどう考えてどう練って、あの原稿になったのか、というのを知りたいので――今は、こんな状況なので、なかなか落ち着かないんですけれども、タイミングを見て理事長なり、周りの方とかには、ちゃんと取材して聞いてみたいなとは思いました。

能町 いや本当に「ドキュメント無観客場所」、見たいですもんね。
佐々木 はい。あの協会挨拶は、説得力がありました。
能町 幕内力士を全員並べたこともすごかったです。

佐々木 あのあたりのアイデアも、どこからどう出てきたのかというのも、まだあまり表に出てきていないので、ちゃんと取材してみたいなとは思いましたね。

能町 「無観客場所プロジェクト」のようなものを高崎親方(元幕内金開山)が中心になって動いていたというのをどこかで聞きましたが。

佐々木 どうやらそのようですね。25人ぐらいが、毎日会議をやっていたということなんですけれども―当時はあまり疑問に思わなかったんですが、まあ今より状況もよかったんですよね。

能町 人が集まること自体は、そこまで危険視されてはいなかったですからね。

佐々木 とはいえ、15日間〝完走〟できたことは奇跡的かなとは思います。

能町 私もそう思います。最初はもう、やめた方がいいと思っていました、正直(笑)。絶対に何か予期できないことが起こると思っていましたね。

佐々木 感染者が出たら中止って最初に言っちゃったもんだから、そこはけっこうヒヤヒヤしましたよね。

能町 そうですよね。14日目あたりに感染者が出たら、どうするんだろうと思っていました。

佐々木 もし途中で終わったとき、優勝者はどうするんだ、番付編成をどうするんだ、という疑問も出たんですけれど、その時点で決めていないというのも、なかなかすごいんですけれども(笑)。

能町 リスキーすぎましたけれどもね。

佐々木 怖かったのは、誰か1人感染者が出て、万が一中止になってしまったとき、その人にかぶせられかねない責任が、ちょっと重すぎるんじゃないかという懸念はありましたね。ましてや関取だった場合には、人物が特定されて発表されてしまう可能性が高かったので、そうなったときには、いろんな意味で怖かったなと思います。

能町 そうですね。

佐々木 あと、ちょっとわからないなと思ったのは、テレビの視聴率は、初日に限っては、前年より上だったんですよ(関東地区15・1%、昨年は14・8%)。ただ、場所をトータルして見ると、実はそんなに数字はよくはなかったんですよね。

能町 そうなんですね。

佐々木 場所が始まった頃は今ほど状況は悪くなかったですけど、どちらかといえば〝家にいましょう〟という雰囲気はありました。だから、相撲にあまり関心のない人もテレビで相撲を見て面白いなと思って、視聴率はだんだんと上がっていくのかな、と思っていたんですよ。だけど、そうでもなかった。だからこれが、なぜなのか今ひとつわからないんです。これは、ひょっとするとなんですけれども、テレビを見る側も、相撲場のお客さんが盛り上がっている様子が見れた方が、関心を持って見やすいのかなという―そうとしか考えにくいんですけどね。

能町 私もテレビで見ていて、いつもより淡々と過ぎちゃうように感じましたね。相撲自体は、3、4日目ぐらいから白熱した取組が増えてきた気がしたんですけど、なんかこう―メリハリがないんですよね。

佐々木 だから、観客も含めての興行なんだなっていう―当たり前ですけど、痛感した感じがしました。

能町 そうですね。私もホントは、大阪に行こうかと思っていたんです。せっかく毎年行っているので、たとえ本場所は見られなくても、無観客場所開催中の大阪の雰囲気ぐらい、味わいたいなと思って。でも、出待ちすらダメだという話を聞いて、確かにそうだなって思って行かなかったんですけど。視聴率以外の面でも、大阪在住の人が、大阪の街自体に本場所を開催している感じがなかったって言っていましたね。

佐々木 やっぱり力士幟も立っていないと雰囲気も出ませんし、人の動きもあまりなかったですから。僕は神田川俊郎さん(料理人・料理研究家、81歳)に電話して取材させていただいたんですけど、めちゃめちゃ寂しがってましたね。

能町 ああ。

佐々木 あと大村崑さん(コメディアン・俳優、88歳)にも取材させてもらったんですけれど、向正面で観戦してテレビに映っていたことが――ご本人曰くなんですけれども、毎年の生存確認の場だったそうなんですよ、友達にとっては(笑)。

能町 確かに(笑)

佐々木 だから、春場所がなくなったのは寂しいと言っていましたね。

能町 今回、視聴率は振るわなかったのかもしれませんが、相撲ファンのなかには、「この際だからこう楽しもう」みたいな感じで、ネット上で〝実況〟している人が何人か登場しましたね。あと、親方の解説―結局私は見られなかったんですけれど、相撲協会公式YouTubeで親方が3~4人集まって、何かやっていましたよね。

佐々木 「親方ちゃんねる」ですね。

能町 そう「親方ちゃんねる」! 音羽山親方(元幕内天鎧鵬)とか、小野川親方(元幕内北太樹)とかが毎日やってましたね。私の中ではまず、NHKがあり、AbemaTVもあり、「親方ちゃんねる」があり、それに普通にファンの人がやっているサイトもあって、なかなか活発だったなという印象です。初日は、キンボシ西田君(お笑いコンビ「キンボシ」の西田淳裕)がYouTubeで実況――午前8時半の序ノ口から結びの一番まで〝【史上初。無観客】大相撲初日序ノ口から結びの一番まで10時間配信〟をやると言っていたから―(東京・渋谷区の「よしもと∞ホール」の楽屋から生配信)。

佐々木 あれ能町さん、結局行ったんでしたっけ?

能町 幕下あたりから〝乱入〟しました(幕下上位五番から結びまで約4時間)。

佐々木 そうだったんですか!

能町 そうなんですよ。

佐々木 僕もあそこに〝乱入〟しようかなと思ったんですけど。

能町 ええ? それは超豪華ゲスト!

佐々木 結局、大阪で仕事だったので行けなかったんですけど。

能町 でも実況をやってみて難しいと思ったのは、意外と、何を言っていいかわからないんですよね。

佐々木 ネタだけ言っても時間がもたないですからね。

能町 そうなんですよ。NHKの実況放送を見ながらしゃべるから、取組中はさすがに黙って見ているし、NHKの実況も聞きたいし(笑)。自分で実況をやってみようとしても難しいし。

佐々木 だからアナウンサーの方の、その場をうまく回したりする能力っていうのは、すごいですよね。能町さん、放送の現場に行ったことがあるから、そのへん、アナウンサーの様子、わかるんじゃないですか?

能町 手元の資料がすごかったですね。手さばき帳もそうだし、そのほかに個別の力士カードなど、なんでもすぐ出てきますしね。

佐々木 ただこの春場所は、お客さんがいないから、実況放送は若干いつもと雰囲気が違ったようですね。(アクリル板を張った放送ボックスに)囲われていたじゃないですか、声が外に漏れないように。アナウンサーの方は盛り上がりにくかったみたいですよ。

能町 ああ、そうでしょうね。

佐々木 やっぱり、お客さんがワーッとなってもないのに(笑)、テンションを上げるっていうのは―。
能町 どう盛り上がるんだっていうことになっちゃいますよね。
佐々木 はい。その気持ちはわかりますよね。

能町 初日の北の富士さん(NHK相撲解説者、元横綱)の元気のなさがすごかったですね。ちょっと心配になるくらい元気がなかったです。

佐々木 そうですね(笑)。たぶん北の富士さんは、ブースに入るところで、ファンに囲まれながら入ってテンションを上げるという感じがいいんじゃないですか、ホントは。

能町 そうかもしれない 。ホント、寂しそうでしたね。

佐々木 でもああいう、北の富士さんの変化に対しても(ネット上で)敏感な人は、非常に多かったですよね。

能町 舞の海さんが(放送ボックスに入って)囲われている姿も面白かったですね。宇宙にいるみたいな感じになってて(笑)。不思議な姿でした。

佐々木 あれも相当、いろんな書き込みがあったのは、僕も見ました、確かに。舞の海さんに、「こんなふうに書かれていたりすることはご存じなんですか?」っていうことを、いずれ確認してみたいなとは思っています。

能町 舞の海さん、見てるんじゃないですかね、そういうのは。
佐々木 でも、あんまり見すぎて意識すると、持ち味が出なくなっちゃいますよね、きっと。

能町 最近、錣山親方(元関脇寺尾)と舞の海さんとのコンビネーションが完成しつつあって、すごい好きなんですよ。
佐々木 ほう。
能町 舞の海さんが反論できない感じ。

佐々木 なるほど(笑)。でも能町さんは、連載で「大相撲中継 中継」を書いていらっしゃるから、映像はもちろんですが、解説者たちが何を言っているかっていうことを気にしながら見なければいけないということなんですよね。大変ですね(笑)。

能町 かなり気にしてますね。ちょっと大変ですね(笑)。
佐々木 いろんなところに神経を使うじゃないですか。

能町 まあ基本的にNHKだけを見ていればいいんですけれど。でも、解説者の方が何を言ったかは、かなりメモしなきゃなと思いますね。

佐々木 ははあ。でも、印象に残るやり取りとかがあったりすると、原稿のネタにもなるし(笑)、「よっしゃー」っという感じにはなるんですよね。

能町 なります(笑)。だから錣山親方と舞の海さんとのやりとりはありがたいです。

佐々木 じゃあ、何事も起きずに、淡々と進んでしまうっていうのが一番ダメなんですね?
能町 困ります(笑)。コメントしづらいので。

佐々木 でもあの連載はずっと続けられるから、いい企画ですよ。
能町 あんなのでよければ、喜んでやります。

佐々木 ちゃんと毎日見なければいけないーーつまりアプリとかでダイジェストを見ればいいっていうものじゃないところが大変ですよね。
能町 そうですね。毎日ほぼ3時間半、たっぷり見ます。まあ十両は仕事の関係でたまにパスしますけど。

佐々木 能町さんは、取組を見ながら、ノートに1人ずつ◎とか〇とかつけてるじゃないですか。あれも、いいアイデアだなと思いました。自分に対してですよね、あれは。

能町 そうですね。もう一度見たいくらいいい相撲だったら◎、それ以外の白星は〇、というふうに星取表をつけてます。でも、なるべく主観じゃなく、客観的に見てもいい相撲、という基準にしてるつもりではあります。あれは後から見ても自分で参考になりますね。

佐々木 あとこの春場所で覚えているのは、こういう状況でも、懸賞を出し続けた企業なんかが、相撲ファンにとってはすごく好意的に受け止められていたとか―。
能町 そうですね、確かに。

佐々木 あとは、お茶屋さんが心配だとかっていうのが話題になっていましたね。これが結局どうなったかというのも、ちゃんと取材しなきゃなとは思っていたんですよね、

能町 そうですね。お茶屋さん、どうなったんだろう。

佐々木 はい。当時はまだ補償問題に向けて話し合いの結論が出ていないということだったので、その後、どうしたかなとは思っています。

能町 大損害ですよね。お茶屋さんだけじゃなく、お土産系も、何も売ることができずに。琴剣さんなんか、商売あがったりじゃないですかね。
佐々木 そうなんですよ。

能町 3月場所のパンフレット、通信販売で販売されていたんですよね。申し込んでおけばよかったんですけど、忘れちゃって。徳勝龍が表紙という時点でレアものだから、欲しかったんですけどね。もうやってないんですかね。(検索して)ああ、完売って書いてありますね、

佐々木 そもそも、あんまり刷ってないんですかね。
能町 ええ、欲しかったな。

佐々木 あとは夏場所の番付が通信販売のみになってしまったので、これも刷る枚数を多少調整するのか、どうなのかっていうのも気になるところですね。番付も売り切れるかもしれないですね。
能町 そうですね。

佐々木 番付が発表されても、場所が中止になったりしたら、レア物になってしまうかもしれないですね。私、個人的には、高砂親方(元大関朝潮)が12月に定年なので、できれば新しい横綱を高砂部屋から何とか年内に、という点でいうと、できれば一場所たりとも中止にはなってほしくはない気持ちはあるんですけれどね。

能町 ただでさえ3場所だと、相当厳しいですけれども(笑)。

佐々木 あと、荒汐親方(元小結大豊)が(定年で)最後の場所だったんですけれども、世間的には知られざる形で、何となく退くようにも見えてしまいました。場所が一つなくなると、定年を迎える親方がいた場合は、ちょっと残念な感じになりますよね。

能町 定年もそうだし、お客さんがいない場所で引退というのも気の毒すぎますよね。豊ノ島とかも―。

佐々木 そうなんですよ。本当だったら、家族に最後の姿を見せたかった力士が、ほかにもいたかもしれないですからね。

新大関の朝乃山が楽しみ

能町 ともあれ、次の場所の話ですが、朝乃山は楽しみですね。
佐々木 そうですね。

能町 朝乃山って、ここ最近出た大関、横綱の感じとは、ちょっと違う感じがするんですよね。メンタル面が安定してそうで。
佐々木 そうですね。

能町 今思うと、稀勢の里(現荒磯親方)は、すごく上がっていたんだろうなと思うんですよね。単純に緊張しすぎて、本来の力が出ない、みたいな。貴景勝も、すごく頑張って気合を入

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