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2017-11-10

●スペシャル対談 水泳ファミリーの結束を、より強く! 青木 剛(日本水泳連盟会長) 河合純一(日本身体障がい者水泳連盟会長)

 オリンピック・パラリンピックを通じて世界でその存在感を放ってきた日本の水泳界。2020年東京大会開催の決定に伴い、日本のスポーツ界が活気づくなか、全競技を引っ張る存在としても大きな注目を集めている。11月18日(土)~19日(日)には、第34回日本身体障がい者水泳選手権大会が千葉県国際総合水泳場にて開催。
 そこで今回は、日本水泳連盟の青木剛会長(写真右)と、日本身体障がい者水泳連盟の河合純一会長(写真左)のおふたりにご登場いただき、東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組み、両者の協力関係や目指すべきものについて語り合っていただいた。

トップ強化と普及
共通の目標に向かって

――東京オリンピック・パラリンピックまであと3年に迫っていますが、2014年に日本障がい者水泳協会が日本水泳連盟に加盟して以降、互いに協力しながら強化を進めてこられました。まずは2014年以降の取り組みの成果について、お聞かせください。

【青木剛会長(以下、青木)】私たちはオリンピックで金メダルを獲り、メダル数も多く獲得してきましたが、パラリンピックでは私たち以上にメダルを獲得されてきました。そういう意味で、今度の東京オリンピック・パラリンピックでもどちらも大きな期待をしていただけると思います。

 これはお互い同じで、国民からの期待の大きさも共通しています。目標は同じですから、これまで同様に、今後はさらに協力体制を整えて良い結果を双方が残せるように取り組んでいきたいと考えています。それらが見えたことが今までの成果でもありますし、今後の課題、目標につながるのではないかと思っています。

【河合純一会長(以下、河合)】昨年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック時に代表されるように、壮行会や報告会を合同で行なったことは日本のスポーツ界全体に対して、水泳界から大きなメッセージを発信できたと考えています。また、代表クラスレベルの現場では、国立スポーツ科学センター(JISS)の利用調整をはじめ、トレーニング方法、高地トレーニングのノウハウも含めて様々な情報をいただき、それを成果に結びつけるために努力を続けています。

 そして、日本スイミングクラブ協会や日本マスターズ水泳協会も一緒になって、『水泳の日』というかたちで普及にも取り組めていることも、大きな成果だと思っています。また、各県水泳連盟等でも「障がい者委員会」などが設置され出していますね。こういったムーブメントを全国各地まで届くように、これまで同様、協力していくことが、東京オリンピック・パラリンピックでの成果を挙げることと同時に、私たちに期待されているところだと感じています。

【青木】確かに、私たちもトップ強化と同時に、“国民皆泳”という、普及面においてものすごく大きな目標を設定していますので、日本障がい者水泳協会が加わったことで、今まで以上に普及が進んでいる、『水泳ファミリー』が広がっている、と考えています。

【河合】そうですね。私たちの会員もそうですし、水泳が好きだとか、泳ぐことが好きという方は潜在的に多いと思うんです。そういう方々に応援してもらえるようなチームや選手を育てる、ということも、共通している部分ですよね。頂点のレベルをさらに上げていくという目標と、競技者の裾野を広げていくという目標があって、そのなかに老若男女問わず、また障がいのあるなし関係なく、水泳界が一丸となって取り組んでいこうと、青木会長のもと、誰もが思っているところですから、私たちも協力できるところは協力して、よりよいものを作っていきたいですね。

あおき・つよし●1947年1月3日生まれ、大分県出身。佐伯鶴城高(大分)―早稲田大。東京スイミングセンターで指導者として数々の選手を育て、日本代表でも手腕を発揮。オリンピックでは、1988年ソウル大会でヘッドコーチ、1992年バルセロナ、2000年シドニー、2004年アテネ大会でも水泳監督、日本代表選手団役員等を務めてきた。2015年10月から現職。
写真:大泉謙也/スイミング・マガジン

――障がい者水泳の現場において、現状の課題はどのような部分ですか?

【河合】強化の部分で言えば、トップ選手に対するサポートは厚くなったとはいえ、育成段階というか、これから世界を目指していこうというレベルの選手たちのサポートや指導者が少ない、という状況は大きな課題です。

【青木】パラリンピックでも、今では競泳のトップクラスの指導ノウハウがないと、金メダルはなかなか獲れない時代にきている、ということはうかがっています。

【河合】おっしゃる通りで、世界のトップ選手たちはそういうかたちで取り組んでいますから。障がいの軽い重いはありますが、障がいの軽いクラスであれば、かなりノウハウを生かせる部分が多いと思います。水中トレーニングはもちろんですが、今注目されているのは、ドライランドです。水泳競技に特化したドライランドトレーニングももちろんですが、様々な競技で指導されているストレングス&コンディショニングコーチの方々が関わってくださることで、選手が持っている能力を幅広く生かせたり、動かせる部分を最大限利用する能力を高めたりすることは、どんな競技でも共通した部分です。ですから、ここでの協力体制は非常に大きな力になります。

 また、指導者育成という面で見れば、今までも研修など様々な取り組みをしていますが、様々な障がいに対応できるような指導者を育てようとしてきた部分がありました。これは方向性として合っている、間違っているという問題ではなく、障がいといっても、様々な特徴があって、それに合った指導も大切なのではないか、とも考えています。

 たとえば視覚障がいもありますし、脊髄損傷や手脚の切断もあります。そういう様々な障がいを持つ選手に対して、皆全く同じ指導をしても効果があるかというと、やはりそうではありません。ですから、そのスイミングクラブに所属している選手が持つ障がいに合わせた情報や指導法を提供する、という工夫をしていったほうが良いと考えています。そういうチャレンジも、私たちがこれから取り組んでいかなければならない課題です。

 また、レース慣れすることができない、という課題もあります。同じような記録で泳ぐ選手たちと競い合う機会が少ない、というところですね。そういう機会を増やしていき、選手たちの経験値を上げていくことが東京パラリンピックで活躍するための大きなポイントであるとも思っています。

かわい・じゅんいち●1975年4月19日生まれ、静岡県出身。筑波大学附属盲学校高等部―早稲田大。1992年バルセロナ大会を皮切りに2012年ロンドン大会まで6大会連続でパラリンピックに出場し、5個の金メダルを含む計21個のメダルを獲得。2016年には国際パラリンピック殿堂に、日本人として初めて選出された。パラ競技の普及活動にも携わり、2013年から現職。
写真:大泉謙也/スイミング・マガジン

――今のお話のなかにもありましたが、東京オリンピック・パラリンピックが終わってからの取り組みについてのお考えを伺いたいと思います。

【青木】日本水泳連盟では、2024年中期計画というものを立ち上げてスタートさせました。これは、2024年が日本水泳連盟の創立100周年を迎える年であることと、スポーツ庁から2大会後のオリンピック・パラリンピックを見据えた強化をしていこう、という鈴木プラン(鈴木大地・スポーツ庁長官が提唱した強化・普及に関する計画)も出てきたこともあり、2024年をターゲットにしました。

 大切なのは、このように大きな目標を立てるときには、目標の年度を決めて、何に、どのようにして取り組んでいくのか、それと同時に年ごとの目標を立て、達成度をチェックしていくことです。このように大きなビジョンや目標を立て、中長期に渡るプランを考え、それを段階的にチェックして運用していくのです。

 いちばんは、何と言っても水泳ファミリーを増やしていくことだと思います。水泳をやっている人をベースにして、それを応援する人、支える人、という大きな水泳ファミリーを拡大していくことがいちばん重要なことだと思います。もちろん、河合さんにもご協力いただきながらですね(笑)。

【河合】もちろんです(笑)。様々な障がいを持つ方々の声を聞いたときに、リハビリを含めて取り組む方が多いのが水泳の特徴なのかと思っているんですね。そういう方々を取り込んでいくことができれば良いですよね。

 たとえばですが、義足を買う、車いすのレーサーを買うとなると、それ相当のお金がかかりますが、水泳の場合に必要なものは水着とキャップ、ゴーグルだけです。これはすごく大きな魅力のひとつで、どんな方々でも始めやすいスポーツだと思います。

 私はよく『等しく浮力は誰にでも与えてくれる』という話をします。障がいのあるなしを超越しているところが、水泳にはあると思っています。お互いに水に包まれているというか、水に抱かれていることに魅力を感じていることが、水泳ファミリーの共通項だと思います。そう感じてくれる方を増やしながら、そういう方々がいつでもどこでも水泳を楽しめるような環境を作っていくことが大切だと考えています。

『平和の祭典』と
『人間の持っている可能性の祭典』

――おふたりとも今は会長という立場ではありますが、コーチ、選手としてオリンピック・パラリンピックの現場で戦う人間として身を置いてこられました。あらためて、オリンピック・パラリンピックの魅力をお伺いしたいと思います。

【青木】やはり注目度と期待度がすごいですよね。日本の水泳界はその昔、世界でも非常に強かったのですが、一時期低迷した時代もありました。そこから立て直し、結果が出せるようになってからは、国民の皆さんの応援の仕方も変わってきました。結果を出すことで、いろんな意味で水泳に対する関心が増えたり、サポートも増えたりします。現場の指導者たちと話をするときには、「とにかく勝たないとダメだ。結果を出さない限り、評価はない」という話をしています。

 結果を出すために大事なことは、最大限の準備をする、ということだと思います。準備をしっかりしていって、結果を出せる状況を作ってからレースに臨む。これがいちばん大事なことだろうと思います。目標とする大会に行って、周囲が驚くような獅子奮迅の活躍を期待するのではなくて、普通に活躍するだけでも十分に戦える、という準備ですね。

【河合】パラリンピックもどんどん注目されていますし、チャンピオンシップのスポーツとして、勝つことは評価されるべき事だと思っています。選手たちも勝利を目指しているわけですから、それはとことんこだわって、記録も狙って、自分に勝って、そしてライバルに勝てるような泳ぎを作ることが大切だと思っています。

 また、パラリンピックというのは、たとえば車いすで足が動かないのに、どうしてこんなパフォーマンスができるんだろう、というような、観る人の想像を超えた何かをパフォーマンスで見せることができます。オリンピックは『平和の祭典』と言われます。それは元々オリンピックが生まれた経緯や歴史を踏まえて言われていることです。パラリンピックはそれに対して、元々リハビリからスタートした経緯も含めて、私は『人間の持っている可能性の祭典』なのだと言っています。

 選手たちの泳ぎを通じて、自分の眠っているというか、気づいていなかった可能性に気づけるような活躍を2020年の東京オリンピック・パラリンピックで繰り広げたいですね。新しくできるアクアティックセンターには、オリンピックもそうですけど、パラリンピックのときも予選から水泳ファミリーに集っていただいて、大声援を送ってもらって、センターポールに日の丸を揚げてみんなで君が代を歌えたらいいなと思っています。

「水泳ファミリー」としてトップ強化、競技普及に取り組む青木会長(右)と河合会長。早稲田大の先輩・後輩という縁も含め親交の深い2人の対談とあり、大いに盛り上がった
写真:大泉謙也/スイミング・マガジン

――11月18、19日には、千葉県国際総合水泳場で日本身体障がい者水泳選手権大会が開かれます。この見どころ、注目してほしいところはどこでしょうか。

【河合】この日本身体障がい者水泳選手権大会は、今年で34回目を迎えます。本当であれば、9月にメキシコで行なわれるはずだった世界選手権代表の選手たちが、メダルを持って凱旋、という形にしたかったんですが、メキシコで発生した地震の影響で派遣できなくなってしまいました。しかし、世界選手権で記録やメダルを狙っていた選手たちが、今シーズンの締めくくりとなるこの大会で、どんな泳ぎを見せてくれるのかに注目していただきたいですね。
 また、12月10〜13日には、ドバイでアジアユースパラゲームズという国際大会が行われます。この大会は、10代の選手たちの登竜門ですので、若手の選手たちがどこまで記録を伸ばすのか、そしてアジアユースパラゲームズに向かっていくのかにも注目です。そして、その若手選手たちから、東京パラリンピックの代表に入る、あるいは中心になるような選手が現れてくれることを願っています。

 テレビや記事などで選手たちの活躍を観たり読んだりしていただくのも良いのですが、やはり水泳の醍醐味は100分の1秒を争っている会場の雰囲気とドキドキ感だと思いますので、できれば会場に足を運んでいただいて、私たちと一緒に選手たちに声援を送っていただければうれしいなと思っています。

【青木】そうですね、2020年はもちろん、その先に向けた新しい可能性を持った選手、ニューフェイスの登場を期待しています。

――選手たちのご活躍をお祈りしております。本日は貴重なお話をありがとうございました。

構成:田坂友暁

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