※写真上=シカゴマラソンで日本記録を樹立した大迫傑
写真◎Nike
「スグルの第一印象?……若く見えるな、と(笑)」
こう話すのは、現在彼を指導するコーチのピート・ジュリアン氏だ。ピート氏が大迫の走りを初めて見たのは、大迫が早稲田大4年だった2013年4月のペイトン・ジョーダン招待陸上10000mのこと。「良い動きをするし、パワーもたくさんあると感じました」と言う。
とはいえ、その当時、ファラーやラップは、大迫にとって雲の上の存在だった。ファラーは12年ロンドン五輪で5000m、10000mの二冠を達成するなど男子長距離界の絶対王者として君臨。ラップも、ロンドン五輪10000mで銀メダルを獲得するなど、アフリカ系が席巻する男子長距離界に、新たな風を巻き起こしていた。
この2人が所属するナイキ・オレゴン・プロジェクト(ファラーは当時所属)は、世界最高峰のチームと言っていい。そのチームに、大迫は2015年にアジア人として初めて加入したが、「最初はモー(ファラー)やゲーレンと一緒に練習しても、頑張っても半分ぐらい食らいつける程度でした」とピート氏が言うように、世界のトップランナーと大迫との差は歴然としていた。
だが、オレゴンで研鑽を積んだ大迫は、世界との差をじわりじわりと縮めていった。今年の夏、シカゴマラソンに向けたトレーニングの真っただなか、ピート氏は次のような言葉を残している。
「今は“モーやゲーレンに負けない”と思えるぐらいの練習をしています。4、5年前とは違う自信を持っていると思います」
大迫にも、ピート氏にも大きな確信があった。その言葉通りのレースを、大迫はシカゴで見せた。
大迫にとって、ファラーやラップの存在はモチベーションになっているという。
「(ナイキ・オレゴン・プロジェクトに加入して)モーやゲーレンがなぜ強いのか、どういう練習をしているから強くなったのかが、明確に分かる環境にいるのは一番の強み。こんなすごい練習をしているのかって、ある意味ショックではあるんですけど、それを突きつけられて、僕もやらなきゃいけないなって割り切って練習ができています」
大迫がこのチームに加入できたのも、決して簡単なことではなかった。早大4年時には、箱根駅伝の前にアメリカで合宿をしたことを、周囲から批判されたこともあった。また、オレゴンに拠点を移した当初は、日本の実業団に所属しつつ、英語もままならないなか単身での渡米だった。大迫がプロランナーとしてナイキ・オレゴン・プロジェクトに正式に加入したのは、アメリカに渡って1年後のことだ。
ナイキ・オレゴン・プロジェクトのトレーニングはベールに包まれている部分が多いが、並々ならぬ努力がそこにあったのは言うまでもない。そして、ファラーやラップとマラソンで優勝争いを繰り広げられるまでに力を付けた。
大迫がこのチームで強くなったのは事実だが、我々が誤解してはならないのは、大迫の決して揺らぐことのない信念があってこそ、ということだ。
「どこに行ったからとか、何をやったかとかじゃなくて、一番大事なのは、自分自身がどういう気持ちで何をやるかだと思っています。極端な話、強くなる選手はどこに行っても強くなるし、弱い選手は強豪チームに行っても弱いままだと思います」
今年のシカゴは、ファラーが2時間05分11秒で優勝し(欧州記録更新)、大迫は2時間05分50秒の日本新記録で3位、ラップはアメリカのナショナル記録更新はならなかったものの、不調が伝えられるなか2時間6分21秒で5位に入った。
大迫はフィニッシュ地点でファラーに出迎えられ、ラップからはレース後に「おめでとう」と祝福されたという。今や、元チームメイトと現チームメイトの世界のトップランナーから、対等なライバルに認められている証だろう。
3人が競う場面は、2020年の東京でも見てみたい景色だ。
文/和田悟志
昨年より長距離界において注目を集めている「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」が、新たにアッパーにフライニットを採用。より軽く、通気性も向上し「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」として進化した。今回の大迫の日本新だけでなく、9月のベルリンマラソンでエリウド・キプチョゲが2時間01分39秒の世界記録を樹立した際にも履いていたのが、このモデルをベースにしたシューズだ。シカゴマラソンでも大迫を含めた上位5選手が、「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」を着用している。世界のトップを足元から支えるこのシューズ、さらに大きな注目を集めそうだ。
※選手が着用していたシューズには「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」をベースにカスタマイズしたシューズも含む。
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