8月31日まで行われていたアジア大会の陸上競技。男子走幅跳でメダルを目指した橋岡優輝は、惜しくも4位にとどまった。19歳、日本のホープがジャカルタで感じたこととは。
写真:決勝で思うように記録が伸ばせず、悔しそうな表情を見せる橋岡(写真/中野英聡)
男子走幅跳の橋岡優輝(日大2年)は、2017、18年と日本選手権を連覇。今年7月のU20世界選手権(19歳以下)では金メダリストとなった。日本人にとって、男子走幅跳史上初の快挙。勢いに乗ったまま、シニア初国際大会となるジャカルタに乗り込んだ。
近年、走幅跳は中国に勢いがあり、世界トップクラスで活躍している。アジア大会には、15年の地元北京世界選手権で3位、16年リオ五輪5位、17年ロンドン世界選手権7位で、8m47がベストの王嘉男も出場した。
日本の暑さとは違う、東南アジア独特の蒸し暑さや、普段と違う運営の手順。何より、橋岡が「まるでサッカーのよう」と表現した、鳴り物やチャント(応援歌)が響く競技場で、予選がスタート。それでも、「いつもどおりです」と特に気にすることなく力を発揮した。
予選1本目から、無風の状態で8m03。予選通過記録の7m80を1回でクリアして決勝進出。
「これまでと違い、軽い感じで8m跳べました。しっかり通過できたことはよかったです」
トラックが柔らかく、「いつもよりさらに意識して、しっかりと地面をとらえていく感じ。重心を乗せていくことを確認」しながらの助走。まったく力感のない跳躍での8mを超えた。
かなり手応えをつかんだ様子で、「日本記録(8m25)を跳べば金メダルにも手が掛かると思っています」と、決勝に向けて気持ちを入れていた。
しかし、決勝で待っていたのは、やはり中国の本番での“強さ”。橋岡が1本目をファウルしたのに対し、王は8m24(+0.7)を跳んできた。
橋岡は、7m95(-0.3)、7m75(0.0)、ファウル、7m74(+0.4)と続く。予選のリズムとは明らかに違う助走だった。共に出場した城山正太郎(ゼンリン)が、セカンドベストの7m98(+0.4)を5回目に跳んで4位に浮上し、橋岡は最終6回目を残して6位だった。トップは変わらず王の8m24。
「本当に日本記録を跳べば優勝だな、と少し思いました」
最終6回目に、ようやく橋岡らしい跳躍を見せて8m05(0.0)。それでも惜しくもメダルに届かず、4位入賞で初めてのアジア大会を終えた。
「悔しさしかないです。状態も良かったのに、空回りしてしまった感じ」
力み過ぎてしまったわけでも、競技場の雰囲気にのまれたわけではない。ただ、1本目のファールで少し感覚が狂い、「調子が良かっただけに欲張り過ぎた」と、修正するまでに時間を要してしまった。
「ジュニアでは戦えても、世界のトップクラスはレベルの差を感じました。決勝になると8m20以上を跳んでくる。(差は)こういうところだな、と」
アジア大会は、父・利行さんも、母・直美さんも出場した舞台。直美さんは1986年ソウル大会100mHで銅メダル。「母に1つ届きませんでした」と苦笑いした。
それでも、予選1回目から8mを跳べたこと、そして、決勝の舞台でも8mを跳べたことは大きな収穫だ。どんな状況でもきっちり8mをコンスタントにマークする安定感は国内で群を抜いている。あとは「一発引っかかれば……」という声もある。
しかし、本人は、一発大きな記録が出ないことに「もどかしい気持ちはある」一方で、焦ってはいない。
「僕自身、今でも8m20~30は出ると思っています。1発を出そうということもないですし、アベレージを徐々に上げていくことで……という感じとも違います。普通にコンディションを合わせられれば、そのうち跳べると思っています」
橋岡は9月6日から始まる日本インカレ(等々力陸上競技場)に出場予定。走幅跳は、9月8日に実施される。
「この結果は悔しかったので……インカレでは圧倒的な力を見せて勝ちたいと思います」
当然疲れはあるが、それ以上にたまった鬱憤の方が大きい。橋岡の言う「そのうち」が、もしかすると見られるかもしれない。
文/向永拓史
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