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2018-06-25

日本選手権混成3位 無限の可能性秘める20歳・丸山優真 「十種競技のボルトになる」

6月16・17日、長野市営陸上競技場で日本選手権混成競技が開催。十種競技で日本歴代7位の好記録をマークして20歳の新鋭・丸山優真が3位に食い込んだ。

写真:日本選手権混成で7752点の自己新を樹立した丸山。得意の110mHでも種目別トップだった(川口洋邦)

目標は“十種競技をすること”

 十種競技はしばらくの間、右代啓祐(国士舘クラブ)VS中村明彦(スズキ浜松AC)の図式が続いている。8000点を超えて日本十種競技の新時代を切り拓き、引っ張ってきた2人。4年前の仁川アジア大会でも、2人は金・銅メダルを獲得している。

 しかし、今夏、ジャカルタで行われるアジア大会の代表選考大会となった日本選手権混成はいつもと少し様子が違った。

 結果は右代が優勝し、中村が2位となりアジア大会代表を手中に収めたが、日大2年、20歳になったばかりの丸山優真が日本歴代7位・学生歴代3位の7752点で3位に食い込んだ。

 あとわずかで優勝、そしてアジア大会代表を狙える位置で戦った丸山。若手の躍進に一部では驚く人もいたかもしれないが、戦ったことのある選手たちやチームメイト、関係者にとっては決して「サプライズ」ではなかった。それだけ、丸山優真の潜在能力は高く評価されている。

 今回、丸山の目標は“十種競技をする”こと。当たり前のことだが、本人にとっては非常に重要なポイントだった。

 昨年のこの大会は規格の違うU20(20歳以下)の部に出場し、7790点という驚異的なU20日本記録をたたき出して優勝。しかし、シニア規格で好記録が期待された秋の日本インカレ、そして今年5月の関東インカレと、棒高跳で「記録なし」に終わっていた。

 関東インカレでは「初めて陸上競技をやめたい、もう途中棄権したいと思いました」と話した。それでも「それは自分らしくない」と逃げることなく、1500mまで完走した。その後、日本選手権までに練習で棒高跳を繰り返し行って長野に乗り込んだ。

 丸山は初日を2位で終え、8種目めの棒高跳を前にトップ。迎えた棒高跳は3m80からスタートして2度失敗。苦い記憶がよみがえったが、見事に3回目にクリア。190㎝を超える体が軽々と宙を舞い、感情を爆発させた。「これですべて解放できたと思います」。自己記録は4m70。低い1本だったかもしれないが、丸山にとって高い高い壁を乗り越えた1本だった。

「今回の目標だった “十種競技”が3度目の正直でできました」

 そう語る一方で、「最後の1500mを4分41秒で走れば7800点に乗せられました(※4分48秒83)。そのへんも気持ちの弱さ、力のなさ。めちゃくちゃ悔しいです。8000点出せたら勝てていた勝負」と、やっと丸山“らしい”言葉が聞けた。

 丸山の武器は大きな体でありながらスピードと器用さを備えるところ。110mH13秒台、走幅跳で7m50超え、棒高跳4m70の器用さ。

「同じ体格であれだけのスピードがある。すごいですよね。僕の記録を超える可能性のある存在だと思っています」。王者・右代のこの言葉が、その能力の大きさを物語っている。

棒高跳で4m20に成功。このときは火傷しており、まだまだ本調子ではない(写真/川口洋邦)

憧れはボルト。十種競技で世界へ

 少年時代からとにかく体を動かすのが好きで、少林寺拳法やバスケットボール、サッカー、ソフトボール、そして陸上と、なんでもこなした。丸山が憧れたのが、陸上界のスーパースター、ウサイン・ボルト。世界最速の男に影響され、中学では陸上部に入った。

 同級生たちには「俺は世界に行く!」と豪語していたヤンチャな少年だったが、なかなか練習に顔を出すことはなかったという。担任の先生の熱心な指導もあって中3になるとようやく本格的に練習するようになるが、全国大会どころか近畿大会にも出場していない。

 信太高に入ると、まずはスピード強化を行っていくなかで、八種競技で才能が少しずつ輝きを放ち始める。高2でインターハイ8位、3年時はアジアジュニア優勝、インターハイ優勝、その秋には高校記録も樹立した。練習に参加しなかった中学生は、「放っておくとずっと練習している」(当時の顧問・堀尚先生)トップ選手になった。

 丸山は人懐っこく愛されるキャラクターもあって“人”に恵まれている。同じ近畿には潮崎傑(日大4年)、田上駿(順大3年)といった八種競技高校記録をつくってきた偉大な先輩がおり、同世代には森口諒也(東海大)、甲羽ウィルソン貴志(日大)といった強いライバルがいた。

 さらに、昨年台頭し、今大会も4位に食い込んだ東海大4年の奥田啓祐と楽しそうに競っている姿も印象的だ。また、競技は違えど、日大の同期には走幅跳の橋岡優輝、棒高跳の江島雅紀といった素晴らしいアスリートがいる。彼らがいるからこそ、「自分はまだまだ」と上を目指していける。

 無名だった高校1年のとき。丸山はSNSで右代にメッセージを送っている。

「右代さんに知ってもらえるほど有名になります」

 右代はこう返信した。

「一緒に戦えることを楽しみにしている」

 当時、この高校生の言葉が現実になると誰が信じただろうか。自身は一度も自身を疑うことなく、努力を重ねてこの日実現してみせた。

 丸山の夢は十種競技でオリンピックのメダリストになること。そして、十種競技のウサイン・ボルトのような絶対的なスターになること。

『キング・オブ・アスリート』と称され、すべてのアスリートから尊敬される存在。その頂点を争いたいというのだ。ただ、これまで何度も有言実行し、『やってくれそう』と思わされるのが丸山優真の最大の魅力。大きな夢への小さな一歩が確かに刻まれた長野での日本選手権だった。

文/向永拓史

よきライバルとして競り合っている丸山と奥田。ツートップの牙城を崩すことができるか(写真/川口洋邦)

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