5月25日、関東インカレ2日目に行われた男子1部100mで、宮本大輔が1年生優勝。史上3人目の4連覇へスタートを切った。
関東インカレ1部男子100mで1年生優勝を飾った宮本大輔(写真・田中慎一郎)
山口・周陽中時代も、京都・洛南高時代も、常にトップを走り続けてきた宮本大輔。スタートから低い姿勢で加速すると、並べる選手はほとんどいなかった。
だが、大学1年目はそう簡単にはいかない。
東洋大に進学してから迎えた初めての関東インカレ。初日に行われた予選の最終組に登場すると、向かい風1.7mのなかでも安定した走りで10秒58のトップ通過を果たす。
しかし、翌日の準決勝はさらに強い風が吹き、なんと-6.4m。スプリンターのなかでも細身な宮本にとってさすがに分が悪く、地元出身で力強い走りをする東海大4年の岩崎浩太郎に先着を許してしまう。
決勝は風の向きを考慮し、バックストレート側で逆走して行われることになった。
「準決勝と決勝で風向きは全然違いましたが、周囲を気にせず、まずは自分の走りで臨もうと思っていました」
決勝も準決勝と同じように岩崎が好スタートから前に出た。中大の竹田一平も追う。4年生の意地だ。
それでも宮本は焦らなかった。追い風を背に受けながら後半もしなやかな走りを崩すことなく、60m付近で追いつき、かわす。10秒11(+3.2)でフィニッシュし、1年生優勝を飾った。
「高校生のときは前半から飛び出して一気に逃げるレースが多かったですが、やはり大学生になるとそうはいきませんでした。思った通りではありませんでしたが、落ち着いて走れたと思います。追い風とはいえ、10秒1台で走れたこと、3つ上の先輩がいるなかで勝てたことは収穫です」
初めての大学対校戦にも臆することなく、「雰囲気がいつもと違いましたが緊張はしませんでした」と宮本。どんな状況でも自分の走りができる強みをここでも見せた。
高校のころからシニアクラスのレースを経験しているが、今季は春先から出雲陸上、織田記念とグランプリレースを転戦。2週間前のゴールデングランプリ大阪では、世界選手権優勝のジャスティン・ガトリン(アメリカ)や桐生祥秀(日本生命)、山縣亮太(セイコー)といった一線級と走った。
「ゴールデングランプリも緊張せず、とにかく楽しかったです」と言う宮本。その高いレベルでのレース経験が生かされた関東インカレ1年生優勝だった。
宮本は洛南高から東洋大と、桐生祥秀と同じ道を歩んでいる。否が応でも何かと比較されてしまいがちだ。しかし、本人からそれを気にする素振りを微塵も感じない。
洛南高の柴田博之先生も「桐生と比べることはしなかったです。指導者として『桐生ができていたんだから』なんて絶対に言ってはいけない」と話していた。
スプリンターとしての能力やタイプもまったく違う。類まれな高速ピッチでスピード値の大きい桐生に対し、宮本は空を飛んでいるようにしなやかな走りで加速していく走りが魅力だ。
また、走り同様に性格面も「全然違う」と東洋大の土江寛裕コーチ。「あれこれいわず、1年目はどんなタイプか見極めようと思っています」と、土江コーチもまた桐生と比べていないという。宮本自身の人間力はもちろんのこと、両指導者ともに成功体験がありながら、それに当てはめていないことも好影響を与えている。
これで関東インカレ100m4連覇への挑戦権を得た。過去、4連覇を果たしているのは、“暁の超特急”といわれた吉岡隆徳(現在の筑波大)と、1964年東京五輪代表の飯島秀雄(早大)という伝説的な2人のスプリンターだけ。桐生をもってしても、1、3、4年と優勝したが、2年時はケガで決勝を欠場して4連覇は逃がしている。
宮本の特長は大舞台で力を発揮することと、長期離脱の故障がないこと。4連覇への期待は十分に膨らむ。
「今後は王者として、2、3、4年としっかり勝てるようにしたいです。まずは、公認の風のなかでも今回のような10秒1台を出せるように。1試合ずつ自己記録更新を目指していきます」
あえて大きな目標を掲げることも、謙遜し過ぎることもない。淡々と、しっかりと客観的に自分を見つめている。
“桐生2世”ではなく、一人の有望なスプリンター・宮本大輔として――。その道を自分自身で切り拓いていく。
文/向永拓史
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