関東インカレが5月24~27日まで開催された。大会2日目に行われた男子1部4×100mRは、東洋大が41年ぶりの優勝を果たした。
関東インカレ男子1部の4×100mRで優勝した東洋大のメンバー(写真/田中慎一郎)
昨年まで所属していた桐生祥秀(現・日本生命)を擁しても、東洋大は関東インカレの4×100mRを勝つことができなかった。今年の関東インカレでは、アンカーまでトップでバトンをつなぐと筑波大、東海大、大東大らを振り切り、39秒03の大学記録をマーク。見事に41年ぶりの頂点に立った。
原動力となったのは2走を務めた宮本大輔。中学記録を持ち、全日中、インターハイと次々と全国タイトルを手にしてきたスーパールーキーだ。今大会では1年生で男子1部100mも制していた。
このチームにはもう一人、全日中優勝者がいた。大野晃祥、4年。2011年奈良で行われた全日中200m優勝しているスプリンターだ。
1走の津波響樹(3年)、宮本、3走の松尾隆雅(2年)という頼もしい後輩たちが先頭で持ってきたバトン。大野は左手で持ち、誇らしく高々と掲げてフィニッシュした。
「久しぶりのタイトル。重みが違いますし、感慨深いです」
桐生が100mで9秒98を出した福井での日本インカレ。大野は大会前に風にも恵まれたとはいえ、7月末にまずまずのタイムを出しメンバー入り。だが、大会では出場がかなわなかった。「自分がしっかり出ていれば……」。結果は、桐生が怒涛の追い上げを見せたが実らず僅差の2位だった。
「あの桐生さんの走りを見てスイッチが入りました」
大野にとってインカレは苦い思い出が多い。2年時(16年)の日本インカレ4×100mRでは、3走を務め桐生に渡す役割だった。しかし、決勝でバトンパス目前に肉離れを起こして失速してしまう。
「インカレで勝ちたいと決めてここまでやってきました。達成感があります」
中学時代から変わらない柔和な表情で振り返った。
大野にとって、この7年間は長く苦しいものだった。
小学校のころから地元・茨城の阿見アスリートクラブに所属し、下根中、東洋大牛久高と進んでも練習環境を大きく変えずに成長してきた。
中3で全日中100m2位、200m優勝と世代トップを走っていたが、高校進学後はなかなか思うような結果が出なかった。
「タイトルを取っていましたが、周囲のプレッシャーは特に感じていませんでした。でも、なかなか自分の理想の動きができず、結果を出せない自分自身が嫌になっていました」
度重なるケガにも苦しんだが、高3のインターハイ100mでは4位に食い込んだ。それでもやはり、思い描いていた競技人生ではなかっただろう。
「長いトンネルで、そのトンネルがどこまで続いているのか分からない。抜けられるのかも分からない。長い7年でした」
大学2年のリレーでの故障のあとは、練習もほとんどせず、練習場に行くことさえ嫌になった。たまに顔を出しても、気持ちの入らない“こなすだけ”の日々が続く。文字どおり「腐っていた」のだ。
それでも、支えてくれた人たちのために戻ってきた。
「中学から見てくれている僕にとって“陸上の父”ともいえる治療院の先生が、腐っている時期に怒ったり、励ましてくれたりしました」
そして、刺激を受ける多くの同世代の選手たちにも突き動かされたという。
「チームメイトで同い年の(ウォルシュ・)ジュリアンも活躍していましたし、中学からのライバルも頑張っています」
奈良全日中100m・200mで競り合ったのが永田駿斗。そのときの100m王者は現在、慶大の主将となった。ここにきて自己ベストを連発、復活してきた。また、同800mで優勝した小林航央は同じ阿見アスリートクラブで練習していた仲間。小林もまた苦しい日々を過ごしたが、筑波大に進学し、1500mで結果を出して日本トップクラスへと成長を遂げた。
「みんなが頑張ってくれるのは本当にありがたいです。駿斗のことはずっとライバルだと思っています。最近、駿斗はベストを出しているので、向こうがどう思ってくれているか分かりませんけど」
そう言って笑った。
復活のタイトルといっても、まだまだリレーだけ。
「まず100mと200mで日本インカレの標準記録を切ること。個人でも結果を残せるように頑張ります」
まだトンネルの出口は見えていないという。だが、腐らずにやっていれば何かが得られる。たとえ腐っても、泥臭くもがけば何かが起きる。大野は約3カ月後の日本インカレ個人種目で、再びそれを証明する。
文/向永拓史
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