年代別の日本一を決めるU20日本選手権(※旧・日本ジュニア選手権、今年20歳未満が出場)が、10月20日から22日の3日間、愛知・瑞穂運動公園陸上競技場で開催された。注目を集めた男子100mは宮本大輔(洛南高3年)が優勝。インターハイ、国体に続く高校三冠を獲得した。
台風の接近により雨天となった今年のU20・U18日本選手権。男子100mの決勝に進んだ宮本大輔(洛南高3年・京都)は、スタートから勢いよく加速すると持ち前のしなやかな走りで他を圧倒し、10秒28(+1.0)の大会新記録をマークして優勝した。
「大会記録を目指していました。調子は(2週間前の)国体の方が良かったですが、悪天候のなかでも10秒2台を出せたのは良かったです」
自己ベスト10秒23にも、10秒1台にも届かなかったが、洛南高のユニホームを着て走る最後の100mを、納得のレースで終えた。
宮本は山口・周陽中出身。中学時代からトップスプリンターとして活躍し、中2のジュニアオリンピックB100mで優勝を果たすと、中3時には10秒56の中学記録を打ち立てた。その年の全日中、ジュニアオリンピックも優勝。国体では、あのサニブラウン・アブデル・ハキーム(当時・城西大城西高1年)に次いで2位だった。
卒業後は山口を離れ、憧れの先輩・桐生祥秀(洛南高→東洋大)の背中を追いかけて名門・洛南高の門をたたく。これは大きな冒険だった。
そんな“スーパースター”の宮本が入学したとき、顧問の柴田博之先生はこう声を掛けた。
「10秒56は中学生ではすごいタイムだよ。素晴らしい結果。でも、インターハイでは準決勝止まりだ。高校の陸上界は甘くない。これから毎日、一番初めにグラウンドに来て、ホウキを持って掃除をしなさい。そうすれば日本一になれるから」
洛南高の練習はいつも掃除から始まる。全国大会入賞者だろうと、特別扱いはしない。それは宮本も同じだった。その言葉に対し、宮本は素直に「分かりました」と返事をしたという。
先輩たちには全国トップクラスの選手がズラリと並び、厳しい練習でトレーニングを積んでいた。
「1年目は『やっていけるのかな』と心配しました」
それでもめげずに取り組んだ。もちろん、掃除は一番に始めた。
高1では、インターハイ100mで1年生で唯一の決勝進出(7位)、国体少年B100m優勝、日本ユース(現・U18日本選手権)100mも1年生で制した。昨年はインターハイ100m、国体、日本ユースの三冠を達成。そして今年も高校三冠を成し遂げた。10秒56だった自己ベストは10秒23まで短縮。このタイムは、2013年に桐生が10秒01をマークする前の高校記録である。宮本は、今もホウキを持って丁寧にグラウンドを掃除している。
●宮本大輔の自己ベスト変遷
10秒56→10秒50→10秒49→10秒45→10秒44→10秒31→10秒23
「中2からずっと同世代に勝ってきて、追われる立場で怖い部分もありました。中学時代のように圧勝することも少なくなりました。中学で活躍した選手はその後伸びない……という例も多かったので、自分もそうなるんじゃないかという不安もありました」
宮本自身は飄々と振り返ったが、その重圧は計り知れないものだったことだろう。立ち止まらなかったのは、やはり今をときめくトップスプリンターたちが先を走っているから。宮本が出場する大会のほとんどの大会記録の欄には『桐生祥秀/洛南高』とある。どれだけ好タイムをたたき出しても、超えることがなかなかできない。
それでも、昨年の日本ユースは桐生の持っていた10秒40を更新する10秒39で大会記録保持者となった。今大会では、山縣亮太(現・セイコー)と大前祐介が持っていた大会記録10秒33を更新。着実に、一歩ずつ前に進んできた。
そんな宮本だが、この5年間で唯一100mにおいて同学年に敗北を喫したことがある。高2のインターハイ京都市大会100m2年決勝。同級生の井本佳伸(今大会200m優勝)に0.01秒差で敗れた。ほかにも、全日中の400m覇者だった梅谷穗志亜(今大会400m4位)ら、仲間であり最高のライバルたちがチームメイトにいた。「洛南に進んでよかったです」。3年間を振り返り、しみじみとそう語った。
ここからの成長が簡単ではないことは本人も十分に承知している。線が細いため、100mの後半部分で体が浮いてしまうのが課題だというが、そこを鍛えるためには体幹と筋力の強化が必要となる。それには、宮本の持ち味でもある『しなやかな走り』が失われるかもしれないというリスクも伴う。それでも、トップスプリンターとなるための歩みを止めることはない。宮本が好きな新幹線のように、偉大な先輩たちと最高の仲間たちと共に、“のぞみ”を持って進化していくことだろう。
●プロフィル
みやもと・だいすけ/1999年4月17日山口県生まれ。周陽中(山口)→洛南高(京都)。自己ベストは100m10秒23=U20日本歴代&高校歴代3位タイ、200m20秒92。
文/向永拓史
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