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2017-08-21

解剖学・物理学・力学に 基づいた IH式トレーニングとは(1)

日頃はゴールドジムアドバンストレーナーとしてトレーニング指導に従事している、ボディビルダーの井上浩選手。「いかに筋肉をインプルーブさせ、より完璧な状態でステージに立つか」という飽くなき探求心と向上心が、ボディビルダー・井上浩を支えている。そんな井上選手のトレーニング哲学の根幹を成しているのが、いわずと知れた「IH式トレーニング」である。その詳細について、ご紹介いただいた(取材協力/日本体育大学 岡田隆准教授)
※本稿は『トレーニングマガジン』Vol.51~52に掲載の「トップビルダーのカラダづくり大解剖」を再構成したものです。

仮説を立てて机上で構築し
その上で実験する

 IH式トレーニング。
 自身のイニシャルから命名されたこのトレーニング法(命名者は本誌連載でもおなじみの桑原弘樹さん!)は、井上選手がトレーニングに必要と考える、解剖学・物理学・力学の3つの知識が含まれている。
 IH式トレーニングを編み出すこととなったきっかけについて井上選手は次のように話す。
「本に書かれたトレーニング方法をそのまま実施しても、本来ならば何年もかからないと結果は出ないものです。しかも、何年もかけたにもかかわらず結果が出なかったのでは、元も子もありません。世の中にあふれているトレーニング本の多くが、研究されつくしているものではないということがわかったとき、自分で改めて考えようと思いました」
 井上選手は、トレーニングを実施する前に仮説を立てるという。そして、自分が納得する仮説を机上で構築し、トレーニングを行うのである。同じ年月を費やすのなら、納得のいく上でやるべき。「ここまで詰めれば、突っ込むところはない」との自問自答を繰り返し、それを立証していくためにトレーニングという実験に入っていくというわけだ。

ボディビル歴37年のベテラン。国内トップクラスの長身ビルダーとして、現在も日本クラス別選手権や日本選手権にエントリーしている

どれだけ
筋肉に仕事をさせるか

 そもそもレジスタンンストレーニングは、何かの目的の方法論として行うもの。ボディビルダーであれば、筋肥大が終着点となる。そのため、「何キロのバーベルが扱えるか」や「パンチが強くなった」といったことは副次的な効果に過ぎず、井上選手の興味の対象にはない。
 筋肥大のためのトレーニングを考えたときに最大のテーマとなるのは、筋破壊である。つまり、コツやテクニックを使って効率よく動かそうとするのではなく、どれだけ筋肉に仕事をさせるかがテーマになってくるというわけだ。
 そう考えたときに、なぜ筋肥大が起きるのかを考える必要がある。
 筋肉の発達は、動物が元来備えている能力のため、正確には解明されていないのが実際のところ。ただし1つだけいえるのは、それが環境に適応するために備わっている能力であることだ。
 井上選手は言う。
「平地に住んでいた人が、坂を上らなければいけない場所に引っ越したとします。毎日、坂を上り下りすれば、最初は足腰が筋肉痛になるでしょう。ところが、生活していくうちにだんだん足腰の筋力が強化され、環境適応という形で、平気で坂を上って家に帰れるようになるのです」
 環境の悪化が先行する形で、最初は運動神経が効率よく動こうとするが、それだけでは出力が足らなくなる。そこで筋肥大や筋力強化のステップに移行し、適応完了。例えば、胸の筋肉を発達させようと思うなら、日常生活では絶対に使わないような大胸筋の使い方を応用していくのが一番だ。
「例えば、腕立て伏せを100回行うのが可能なのは、1回1回の負荷が軽いからです。とはいえ、100回も反復すれば疲れます。この場合、自分に足らない能力は体力(筋持久力)ということになります。これに対して、10回程度の少ない回数で力尽きてしまうのは、1回1回の負荷が相当強いから。この場合は筋力が足りていないのです」
 出力を必要とする環境に対して、筋肥大を起こすことは実際に認められているため、これを利用して体をデザインしていくことが、基本として押さえるべきポイントとなる。(つづく)

PROFILE
いのうえ・ひろし
1962年、大阪府生まれ。96年以降、毎年ボディビル大会に出場し続けている。99~2015年日本クラス別選手権(90kg以下級もしくは90kg超級)17連覇。00年アジア選手権(90kg以下級)4位。02年ジャパンオープン優勝。日本選手権での最高位は8位(01年)。ゴールドジムアドバンストレーナー。

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