コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2016年8月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第5回「試合の前は早く起きたほうがいい?」

起床後速やかに運動する場合と
起床後から一定時間経過した後に運動する場合の比較

 大会期間中は、試合に合わせたり、移動時間を考えたりして、いつもより早く起床することがあります。特に「第1試合のときには早く起きる」といったことを聞いたことがありませんか? 私も「試合開始の〇時間前には起床すること!」または「移動中は寝るな!」と言われていたことを思い出します。
 しかし、この早く起床すること、もしくは移動中にも寝ないことは、本当に運動パフォーマンスに影響するのでしょうか? 

 今回は起床時間から主運動開始までの時間が、運動パフォーマンスにどのような影響を与えるのかを想定した実験結果について紹介します。

図A 起床時間から測定開始までの時間の違いにおける実験条件

画像: 起床後速やかに運動する場合と 起床後から一定時間経過した後に運動する場合の比較

 まずは実験の条件設定について紹介します。
 対象は健康な体育大生8名で、起床してから朝食を摂取し、その後ウオーミングアップをしてから各種運動パフォーマンステストを実施する条件(起床後から45分後)と、起床し朝食を摂取してから90分間(この間はビデオ鑑賞)寝ずに座位姿勢を取り、その後に同様のウオーミングアップをしてから各運動パフォーマンステストを実施する条件(起床後から120分後)で行いました(図A)。

 つまり、起床後すみやかに運動をする場合と、起床後しばらく時間が経過してから運動する場合を想定した条件になります。
 測定項目は瞬間的な反応として「全身反応時間(msec)」、神経系の素早い動きとして「5秒間立位ステッピングテスト(回数)」、最大パワーとして「垂直跳び(㎝)」としました。

各運動パフォーマンスの結果とその理由

図B 全身反応における起床してから運動開始までの時間による違い

画像1: 各運動パフォーマンスの結果とその理由

 図Bは全身反応の結果です。縦軸が全身反応の値を示しており、45分後、120分後のそれぞれの結果を示しています。
 結果としては、起床してから45分後に比べて起床してから120分後のほうが反応時間は速くなりました。

図C 立位ステッピングにおける起床してから運動開始までの時間による違い

画像2: 各運動パフォーマンスの結果とその理由

 図Cは5秒間立位ステッピングテストの結果です。縦軸が回数を示しています。
 結果としては全身反応と同様に、起床してから45分後に比べて120分後のほうが明らかに回数は多い結果となりました。

図D 垂直跳びにおける起床してから運動開始までの時間による違い

画像3: 各運動パフォーマンスの結果とその理由

 最後に図Dは垂直跳びの結果です。縦軸が垂直跳びの距離を示しています。
 結果としては、両者において明らかな差はなく、起床してからの時間の長さが垂直跳びのようなハイパワー系能力には影響しないことが分かりました。

 今回の実験結果からは、起床からしばらく時間が経過したほうが神経系に関する運動パフォーマンスは高いということが分かりました。

 睡眠により、脳の一部にある運動神経などの興奮性が低下すると言われていたり、神経伝達物質の生産が抑制されてしまうという報告があります。これが起床してから運動開始までの時間に影響し、神経系の運動パフォーマンスにおいて差が生じたのではないかと考えられます。

 また、この結果には体温も影響していると考えられます。起床時体温は日中よりも低く、体温は起床してから時間が経過することで上昇していきます。
 第4回で紹介したように、筋温が高いほど神経系の運動パフォーマンスは高くなります(第4回「ウオーミングアップはただ筋を温めればいいの?」https://www.bbm-japan.com/_ct/17257310)。体温が筋温と関係していることを考えると、起床時の体温が低いということは筋温も低いことが予想されます。
 従って、起床してからしばらく時間が経過した時の体温は起床時よりも上昇しているため、神経系の運動パフォーマンスが高くなったのではないかと考えられます。

大事な大会は入りが重要
序盤から力を発揮できるコンディショニングを

 今回は、運動前には早く起床したほうがいいのかという点について実験をした結果を紹介しました。
 実験の結果、起床してからすぐに運動をするよりも、起床後に時間が経過し体温が上昇して神経系が活性化している状態になっていたほうが体は動きやすいということが分かりました。

 もちろん、試合直前の起床時間に限らず、前日の過ごし方やウオーミングアップの仕方によっても結果は変わってくると考えられます。

 主運動前から早く起床しておくこと、移動中寝ないようにすることについて、これまでは経験論的でそうしたほうがいいのではないかと考えられていましたが、客観的にその必要性が示されたということは、今後の大会および試合前のコンディショニングとして考えるべき要素の一つになったと思います。

 些細なことですが、特に大事な大会では試合の入り(初回)がその後の流れを大きく左右します。今回のこの実験結果が、試合序盤から選手個々が持っている能力を最大限に発揮できるようなコンディショニングのヒントになれば幸いです。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部


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