高校野球の投手の負担軽減策を検討する日本高野連の「投手の障害予防に関する有識者会議」が4月26日に開催された。委嘱された委員の主なコメントを掲載する。

写真/ベースボール・クリニック

富樫信浩[新潟県高野連会長]

 投球数を制限するとファウル打ちや待球作戦が横行するとの理由から導入の反対意見が現場から多く聞かれるが、それはそもそも次元の違う話。大切なことはスポーツマンシップを啓蒙することで、勝つためにはどんな手段でも許されるのかを野球に携わるすべての人々に考えてもらいたい。スポーツマンシップを根底にプレーすることが野球の魅力の再発見につながり、ひいては野球の将来に大きな影響を与えるはずだ。

 教育の一環としての高校野球はまさに、それを突き詰めていくことが責務。新潟県高野連ならびに新潟県青少年野球団体協議会は投球数制限を契機に、「生涯にわたって野球を楽しむ環境づくり」と「選手の育成方法の議論と熟考」を進めたいと考えている。

 生涯にわたって野球を楽しむ環境づくりには障害予防をはじめ、野球を始めやすい環境づくりの推進などが含まれる。また、選手の育成方法については、高校野球が本来持つ魅力を問いながら考えていくべきもの。尊重、勇気、覚悟といったスポーツマンシップを兼ね備えた人材育成によって野球の価値を高めることが重要だ。それが野球人口減少対策に大いに役立つものだと思っている。

「投球数制限」は疎かにされてきたスポーツマンシップを問い直し、理解、浸透を進める切り口の一つでしかない。高校生選手のみならず、野球をやっている低年齢層の野球選手、またボールをまだ手にしていない子どもたちのことまで考えて一定の方向性を示してもらいたい。

小宮山悟[早稲田大野球部監督]

 私自身、平成以降のプロ野球で2000イニング以上投げた投手で、肩やヒジにメスを入れなかったレアケースだと思う。学生時代の球数も今では考えられないくらい多かったにもかかわらず、一切、故障せずに投げられていたのは体の使い方が良かったこと、生まれながらに体が強かったこと、成長期に無理をせずに自分で楽しみながらやっていたことが要因だろう。

 無理をすれば故障につながるが、その「無理」の範疇は人それぞれに能力差があり、一律に線を引くのが正しいとは思わない。さらに言うと、高校生になる以前、小中学生時代に無理をして支障が生じている可能性も否定できないので、その点にも目を向けるべき。高野連だけで取り組む問題ではないと思っている。

百﨑敏克[佐賀北高校野球部元監督]

 2007年、第89回夏の甲子園大会を馬場将史、久保貴大の2投手の継投で制したが、それは勝つために必要だったこと。個人的には投球数を制限することは反対。高校野球は予選からトーナメントで勝ち上がっていくところにドラマがあって人気を博している。1回負ければ終わりという戦いでは特に導入してほしくない。指導者、選手からは「自分たちのことは自分で決めたい」との声が挙がっている。ルールを定める前に現場の声を聞いてほしい。

山﨑正明[高知高野連理事長]

 高野連が部員数20人以下のチームが全体の1/4としている中、高知県では今年の春季大会の時点で加盟校の約半分が20人以下、約1/3が9人以下という実情がある。それを踏まえると球数を制限することは部員数が少ないチームにおいて野球をやるメリットが減じると感じる。

 野球の特性として、格下のチームが格上のチームを倒すチャンスがあるが、それを成し遂げるポイントが投手。勝てそうな試合でも球数によってそれまで抑えていた投手が代わらなければならないようなら、勝利を目指して試合に臨む姿勢や試合を通じて心からの達成感を得る機会が減るのではないか。それによって野球離れがさらに進むことを危惧している。

 高知高野連では障害予防のためには連投を避けることが得策だとの考えから、連戦を避ける公式戦の日程調整を行っている。

川村卓[筑波大准教授/筑波大野球部監督]

 大学生選手の中にはまったくケガをすることなく4年間プレーできる者もいれば、逆に障害に苦しみ続ける者がいる。私どもの調査によると障害を起こした選手の約95㌫は、小・中・高のどこかで軽度なものも含めて障害歴を持っており、そうした選手が大学生になって出力が増すことで障害が深刻化する傾向が見える。つまり、その前の段階である高校生投手の競技活動の方策は障害予防に非常に重要な意味を持つ。

 しかし、投球障害はオーバーユースでも突発的なことでも起こるもので、予防するために絶対的な方策を挙げることは難しい。それでも投球数制限をすることで障害から守れる選手がいるのであれば、私としては賛成の立場。ただ、それだけで解決し得るものではない。ここで話されている内容が野球界全体で共有され、議論が醸成されることを期待している。

宇津木妙子[日本ソフトボール協会副会長]

 選手の意識が変わり、昔のやり方を正しいと信じる時代は終わった。プレーする選手が求める環境づくり、コーチングの仕方を遅まきながら指導者が学ぶべき時代になった。勝利を目指すことは必要だけれども、選手たちがスポーツを楽しむことを主眼に、目先の勝利にとらわれずに、それぞれの選手をどうやって生かすかという視点が必要になる。

 球数制限に関しては個人差があるし、練習試合と公式戦では力の入り具合が違う。そのあたりのデータを踏まえて医科学の分野の意見を参考にしながら進めていくべき。選手のことを第一に考えながら、それを支える保護者の理解を深めていくことも大事だと思う。

土屋好史[日本中体連軟式野球競技部専門委員長]

 中学軟式選手の障害は確実に増えている実感がある。2018年度は約8000の加盟校の部員数の平均が20.6人であり、3年生が抜けると単純にはその2/3に数が減るのだが、要はチーム編成の都合上、1、2年からほとんどの部員が試合に出ることになる。部員数は今年度さらに減り、その傾向はより強まるだろう。中学生年代で3年生と1年生ではフィジカルに大きな差がある。それが低学年にとってはより負担となる側面があるだろう。

正富隆[行岡病院副院長]

 1試合当たりの投球数を制限することになれば世間に与えるインパクトは大きいと思うが、それ以上に連投を含めて短期間にたくさん投げることがないような仕組みをつくることのほうが障害予防には好影響があると考えられる。

渡邊幹彦[東京明日佳病院院長]

 選手の将来を見据えるのか、高校3年間で燃え尽きても仕方がないとそこだけに焦点を当てるのか、高校野球がどういう方向性を示すかが問われていると思う。野球界全体で取り組む良いチャンスと考えればいい。たくさん投げることは当然、障害のリスクを高めるけれども、球数は少なくても動作がふさわしくなく出力の加減が過ぎれば故障は起こる。理論ではなく実践で良い動作を教える指導者が求められている。

岡村英佑[弁護士]

 学生野球憲章には野球部の活動は「部員の健康を害するものであってはならない」との文言がある。スポーツ障害を予防する施策は団体の義務だ。それを加盟校それぞれに任せるのも一つの方法だが、そのために必要な知識を浸透させるのは団体の務めになる。正解は分からない問題だが、仮にルール変更するなら今プレーしている選手、指導者への理解をつくることは必要。議論のプロセスを周知することも大事になる。

田名部和裕[日本高野連理事]

 新潟からの提案は野球界への危機感から来たものと受け止めている。制限すると少なくない不都合が出ると考えられるが、小中高校生の現状を見ると、その方向性に反対はできない。国民に広く支援してもらって成り立っている高校野球だけに、時間をかけて理解を深めないと、現状の規模の大会は運営できない。チームの主体性、選手の意欲でカバーできない部分を補足するのが高野連の立場。

中島隆信[慶應義塾大商学部教授・座長]

 選手の障害予防は避けて通れない議論。高校生の健康を守るメッセージを出していく上で、良い議論ができた。投球障害と投球数の関係について明確なエビデンスが見いだせていない中で、指導者が障害予防を正面からとらえていないのであれば団体が制限する必要もある。明らかになっているエビデンスを集めて、ルールにどこまで落とし込めるか。長期的には部活動の在り方、野球指導の在り方の規範を示す内容にしたい。


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